電気自動車と一週間生活してみました…安東弘樹連載コラム

先週、ある雑誌の企画で一週間、電気自動車(EV)を借りて生活してみました。

その間、他のクルマには一切乗らず、仕事もプライベートも、そのクルマだけで移動してみたのです。

具体的な車種は申し上げられないのですが、一週間を共にしたのは国産メーカー製のEVで、価格は600万円台、バッテリーの総電力量は54,4kwhで航続距離はWLTCモードで367kmというクルマです。

仕事柄、日本で買える殆どのEVを運転した経験は有りますが、1時間~2時間、運転することができる試乗会での運転のみで、今回のように長い時間を共にするのは初めてです。

しかも私は普段から長距離を運転するので、今回も1週間で1000km弱、走破することになりました。

1週間、1000キロ走ってみて純粋にこのEVについて、どのように感じたかを率直に、お伝えしたいと思います。

ちなみに今回は環境負荷に関する話は省かせていただきます。

現段階では内燃機関のクルマとの比較で、どちらが環境負荷が少ないか、正直、誰も結論は出せないと思いますし、ましてや製造時から廃車になるまでのコストや温室効果ガスの排出量等を比較しようとしても、日々技術革新が進んでいく中で専門家でもない私が論じることは不可能ですので、純粋にクルマの魅力やランニングコスト、懸案の充電環境等についてユーザー視点のみで、お伝えしようと思います。

新型コロナウィルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が全国で解除された約1週間後の某日、私は某メーカーの東京本社を訪れました。

そして、1週間、自分のクルマを、その会社の駐車場に停めさせていただき、代わりに、そのメーカーのEVを借りて私の期間限定EV生活が始まったのです。

そのクルマは他のパワーユニットのグレードも存在する車種ですのでEVであることを主張するのは後席ドアの下部に付くERECTRICの文字バッジだけ。
車内もシフトノブの形状が違うだけで内装も他のパワーユニットの物と変わりません。
それは若干、寂しいですが、代わりに、乗って違和感が無いのも確かです。

メーカー広報の方に操作方法や充電方法等のレクチャーを受け、そのメーカー本社の駐車場を後にしました。

いつも新しいクルマに乗るときはワクワクしますが、今回は普段使いしたことが無いEVであるのと同時に1週間に及ぶ長い付き合いになります。少しの緊張感を伴って、高揚感にも包まれながらの出発となりました。

緊張の理由には自宅にEV用の充電器が無いというのも含まれます。道中、“電欠”してしまったら、どうすれば良いのか、JAFを読んで助けてくれるのか?さまざまなことが頭をよぎり、色々と広報の方に訊いておけばよかった!と悔やんだことを白状しておきます。

ちなみに、借りたときの充電状態は90%ほど、メーターの走行可能距離は300キロを表示していました。カタログ上は満充電で航続距離367キロですから、この時点ではカタログに近いデータを示しています。さあ、この後はどうなるのでしょうか!

1週間のEVオーナーになった私は早速、仕事現場に向かいました。
その日は午前9時から午後1時まで千葉のラジオ局で4時間の生放送を担当し、その後、クルマをピックアップ、そして19時からの生放送業務のため、有楽町にあるラジオ局に行く必要があったからです。

その局の駐車場は立体式で、高さ1550mmまでのクルマは問題なく入れることができます。私が借りたクルマは全高が1540mmであるため、無事に駐車できました。

しかし出発地から、そのラジオ局までは5キロ弱でしたが、航続距離は7キロ減っています。これを、どう受け取ったら良いのか、少し考えて、生放送に臨みました。

無事に生放送を終え、帰宅です。その局から自宅までは50キロほどの距離。当たり前ですが、クルマを起動してもほどんど、音がしません。普段は立体式駐車場内でエンジンを掛けますから、当然、その瞬間、エンジン始動音が反響します。それが無いわけですから、否応なく「電気自動車」であることを実感しました。

そして夜11時、小さなヒューンというモーター音だけをさせて都心の道に滑るように、そのクルマは走り出したのです。

クルマを起動させたとき、音がしないのは非常にクールに思えました。普段、その局の駐車場を出るとき、駐車場が従業員通用門の近くにあるため、出てくる人が多い時等は、エンジン音が煩いのではないかと気を遣っていたのですが、そんな心配はしなくて良いのか、と改めて気付かされたのです。

更に夜とはいえ交通量が多い都心の道はストップアンドゴーが多いのですが、加減速がエンジン車と比べて圧倒的にスムーズで、アクセル操作に対してのレスポンスにも優れるEVは、渋滞に近いような状況でも、ストレスが少ないということに気付きました。

アクセルを踏んだ量だけ思いのままに加速してくれるのが、とにかく有難いのです。

また、そのクルマにはステアリングに付いているパドルで回生量を変えられ、エンジンブレーキならぬ、モーターブレーキを瞬時にかけることが可能で、その瞬間、熱エネルギーを電気に変えバッテリーに回生してくれるので、ただ単に減速するだけではなく、その都度、電気を少しでも貯められると思えば、その操作自体が楽しくさえ思えてきます。

そう、電気自動車は運転マニアでも、いやだからこそ、運転を楽しむことができるというのを実感しました。

試乗会でも、もちろん、その楽しさを体感してきたつもりですが、やはり実際に生活の中で使ってみると、さまざまなことが見えてくるものです。

都心を抜け、首都高に入るため、長めのスロープを駆け上がりましたが、少し深めにアクセルを踏むと、ヒュイーンというモーター音が、夜の首都高の煌びやかな景観に未来感を加えてくれます。演出のための効果音のように私には聞こえました。

首都高湾岸線を走行していると重いバッテリーがクルマの下部にあることによる低重心の恩恵を感じることになります。

私は、このメーカーの、他のどのクルマより、このEVは直進時の安定感が優れていると思いました。

重いバッテリーが低い位置にあることで走りに重厚感と安定感を生むのです。

すっかり、操安性に満足して自宅に到着したのですが、肝心のバッテリー残量を確認しなくてはいけません。
一回、システムを切ってしまったのですが、すぐに起動してメーターを確認しました。

走行可能距離は局を出たときの290キロから200キロに。アナログでバッテリー残量を表示するメーターは残量8割程度から半分強を指し示す位に減っていました。

やはりEVは高速で走行すると電気を多く消費するようです。

写真はイメージです。

次の日も仕事で使用するため、予め調べておいた、自宅近くの急速充電器が有るショッピングモールに向かいました。時間は午前0時前後。ショッピングモールのお店は全て営業を終えていますが充電器は使えます。誰も居ない駐車場で一人充電器を操作し、日常生活においての初めてのEV充電作業になりました。

自宅に充電器が有る場合は、クルマにプラグを接続すれば、そのまま食事、お風呂、就寝、となるわけですが、外で充電しなければならない場合、若干寂しい思いをしなければならないようです(笑)

30分、缶コーヒーを飲みながら時間を潰し、バッテリーは再び8割くらいまで復活し走行可能距離は300キロに戻りました。30分で100キロほど、走行可能距離が増えたことになります。

確かに内燃機関のクルマと比べたら、エネルギー充填に手間と時間が掛かるのを実感しました。

EV生活2日目は往復100キロの走行で帰宅時は、また半分強の充電量。その日は比較的早めに帰宅できたので、前日と同じショッピングモールで充電したのですが、まだ営業していたモール内のお洒落なカフェでコーヒーを飲みながらの充電となりました。

実は以前から気になっていたカフェでしたので、充電という機会が有ったお陰で念願が叶ったことになり、こういう半ば強制的に、時間を作らなければならない状況も悪くは無いと思ったことをお伝えしておきます。

ちなみに店員さんも皆さん笑顔が素敵な爽やかな方ばかりで、今後もときどき、利用しようと思いました(笑)

さあまた電気量が8割に戻ったEV生活3日目、いよいよ遠出の機会がやってきました。

この日から2日間、浜松で仕事です。1日目午前9時に千葉の自宅を出発し計算では午後2時には浜松に到着するはずです。

この日は夕方の打ち合わせに間に合えば問題はありませんので少し余裕を持たせたスケジュールを組んでおきました。

出発時の走行可能距離はメーター上290キロ。浜松まで300キロ弱の距離ですから途中で1回急速充電すれば問題は無い筈です。

ところが、悲劇は起こりました。

自宅を出て首都高速経由で東名高速道路、新東名高速道路を経て再び東名高速に戻り、富士川サービスエリアで充電する計画です。距離は自宅から185キロですので計算上は120キロほど残して充電ということになります。

しかし、EVは高速走行すると消費電力が増えると申し上げましたが、私がこれまで走ったのは80キロ制限までしかない首都高で、本当の高速道路走行は初めてでした。しかも新東名は制限速度120キロ区間もあります。そう、時速120キロで胸のすく加速感を楽しみながら走った結果、想定より電気を使ってしまい、富士川SAに着いたとき、走行可能距離は計算より30キロも少ない90キロまで減っていたのです…。

内燃機関のクルマであれば高速道路走行時は一般道より燃費が良くなるため航続距離は長くなることが多いのですが、EVは、高速走行に弱いということを頭に入れておく必要があります。

ただ、90キロの余裕があると思えば、急速充電すれば問題はありません。

しかし、SAに着いたとき、一つしかない急速充電器に、1台、クルマが停まっているではありませんか!しかも、そのクルマはまさに今、充電を始めたばかりでした。

日本の大動脈とも言える東名高速道路のSAに充電器が一つしかないという事実に改めて驚愕するとともに、一瞬、パニックになったのは言うまでもありません。

走行可能距離は90キロ、充電器が有る次の牧之原SAまでは75キロ…。

今充電しているクルマが充電を終えるのを待つのが無難ですが、30分ちょうどで戻ってきて下さるか分かりません。そのクルマに乗っていたのは40代位の男性と、その御両親と思われる方が二人の計3人。恐らく父親と思われる方は杖をついて、やっと歩けるという方でしたので、ゆっくり休憩されるかもしれません。

打ち合わせの時間にはまだ多少の余裕は有りますが、何しろ、今充電しているクルマが、いつ充電器を空けてくださるかが、分からないのが致命的です。

意を決して、次の牧之原SAまで行くことにしました。

メーター表示上、次のSAまで到達できるかはギリギリです。
高速道路本線に戻っても一番左の走行車線を時速80キロ遵守で走行し、エアコンも切り、オーディオさえもOFFにしました。

しかし走行可能距離はどんどん減っていきます。牧之原SAまで10キロまで近づいたとき、メーター上は15キロ走行可能の表示。何とか5キロ残しで到達かと安堵しかけた、そのとき!突然走行可能距離の数字が消え、代わりに表示されたのが「駆動用の電気が無くなりました。速やかに充電してください」の文字。

それまではときどき「電気残量が減っているので充電してください」という文だったのですが、ついに最後通告です。

後、10キロも残っているのです!正直、諦めました。「これで多くの人に迷惑を掛けてしまう。」と半泣きになりながら、ひたすらSA到着を祈り、運転を続けた所、何とか到着することができました!しかし、ここからが問題。もし先約がいたら、まさにゲームオーバーです。
更に祈る気持ちを強くして、充電スポットに向かいます!
すると、、、空いていました!!またしても充電器は一つしかありませんでしたが、確かにそこには誰も居ません!座り込みたい気持ちを抑えて、充電プラグをクルマに差し込んだときの感動は生涯、忘れないでしょう。

そして余りの疲労感にソフトクリームを一瞬で平らげ、30分後、SAを後にします。

しかしバッテリー残量は半分以下にとどまっており、改めて日本の充電インフラの脆弱さを実感せざるを得ませんでした。充電器自体の出力、数、共に足りません。

今回は何とか浜松に到着することができましたが、命が縮む思いをしたのも確かです。

これはEV自体の問題ではなく、インフラの問題だと、はっきり認識することができました。

まず富士川SAに2つ充電器があるだけで私は、余裕をもって充電が可能でしたし、更に充電器の出力が、もう少し高ければ、一回の充電で300キロの走行を担保することもできる筈です。もちろん、電力供給の問題もありますが、今回はユーザー目線での話だけに留めておきましょう。

ちなみに帰路でもSAに2回寄って充電し無事に帰宅することができました。

1週間、毎日一回はクルマに乗り、総走行距離は960キロ。
充電は全て急速充電で7回。
家に充電器が無いドライバーでも何とか1週間、保有することができました。

充電カードを使って国内殆どの充電器を使うことができるのですが、今回使った料金を、ざっと計算すると3465円。カードの基本料金が毎月1100円は掛かるのですが、960キロ走って、この金額と考えると、ランニングコストは内燃機関のクルマより「現状は」低く抑えることができそうです。

EV性能以外に、このクルマの特徴をお伝えすると、コンパクトSUVのカテゴリーで、前席はパワーシート、シートヒーター、ベンチレーター付き、後席にもヒーターが付いていて、もちろんナビゲーションや、ACC(前車追従機能付きアクティブクルーズコントロール)も標準装備。他にもさまざまな装備がありますが、今回の趣旨とは離れるので割愛させていただきます。

結論ですが、クルマそのものの魅力で言えば正直、このEVを「欲しい」と思いました。
先に申し上げましたが、環境負荷のことは考えずに申し上げると、その加速感、静粛性、直進安定性、先進性に満足したのです。これまで何度か、自分のクルマの代わりに、いわゆる広報車を借りたことはありますが、いつもすぐに自分のクルマに乗りたくなってしまっていたのです。しかし今回は、初めて借りたクルマに「もう少し乗っていたい」と思っている自分に気付きました。

そして借りていたクルマを返して自分のクルマに乗り替え、ホッとしたのも確かなのですが、エンジンをかけた瞬間に、その音と振動に違和感を覚えたのです。

もちろん、すぐに慣れて、今も満足して愛車には乗っているのですが、あの滑らかで静かなクルマに、また乗りたいという願望が強くなったのも確かです。

皆さんは、この私のコラムを読んで、どんな感想を、お持ちになったでしょうか?

何度も申し上げますが環境負荷については、私も正直何が正解なのかは分かりません。
ただ、一人のクルマ好きとして、今回借りたEVに魅力を感じてしまったことだけを、お伝えして非常に長くなってしまった今回のコラムを結びたいと思います。

安東 弘樹

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