痛ましい事故を無くすために何が必要か…安東弘樹連載コラム

皆が知っている危険な場所なのに・・・

6月28日、千葉県八街市で下校途中の児童の列に飲酒をしていたドライバーが運転するトラックが突っ込み5人が死傷した「事件」がありました。

朝、学校に送り出した自分の大切なお子さんが、帰宅できなかった親御さんの気持ちを考えると、同じ小学生の息子を持つ私は胸が張り裂けそうです。

今回の事件は、ドライバーが飲酒をしていたこともあり、当事者であるドライバーが罰せられるのは当然としても、この付近では5年前にも4人の児童が重軽傷を負う事故があったということから行政の怠慢、とも私は感じざるを得ません。

今回の「事件」現場を見るとガードレールはおろか、歩行者用の路側帯もありませんでした。

地元のPTAからは何度も要望書が出ていたのにも関わらず、です。

歩行マナーと、歩行者と車の事故の関係

日本の道路は高度経済成長時に一気に開発が進み、バブル期に、また拍車が掛かり、正しく整備された所ももちろん、ありますが、「経済重視で」歩行者のことを考えずに、クルマの流通路として、地方の住宅街や通学路も、深く考慮されずに道路を造ったような所も沢山あります。

そんなこともあって、頻繁に歩行者が自動車の犠牲になることが多い国になってしまいました。

これは2年ほど前のデータですが、欧米先進国と日本の交通事故死者数の状況別の割合を見ると、日本以外の国はおしなべて「クルマに乗車中」が半数以上で、最も多く、歩行中に事故に巻き込まれて亡くなった人の割合はおおむね、10%から20%。

ところが日本では「歩行中」の事故による死者が40%近くで、最も多いのです。

このデータを見て、「日本では歩行者のマナーが悪いから」と言った人がいましたが、そんなことは一度でも欧米に住んだことがある人でしたら、「いやいや日本の歩行者のマナーは決して悪くはない」と分かるでしょう。

私がスペインに住んでいたのは45年以上前の話ですが、歩行者信号が赤でしたので、私達家族がクルマが来ていない状況で渡らないでいたら、周りの歩行者が一斉に渡り始め、むしろ「あの家族はクルマも来ていないのに何をしているのだろう」と、怪訝な目で見られました。子供ながら、その光景は鮮明に覚えています。

ただ、渡っている人たちは、「自分で」しっかりとクルマが来るか来ないかを確認して正に「自己責任」で渡っているのは、子ども心に理解できました。

何か「文化の違い」を漠然と感じた瞬間だったのですが、少なくとも、世界的に特に日本の歩行者のマナーが悪いとは思えませんし、ましてや今回の事件で犠牲になった児童たちに落ち度が無かったことは報道を見る限り、明らかです。

海外より歩行者が事故に巻き込まれる比率が高い要因は?

この原稿を書いている当日にも福岡県の住宅街で登校中の小学生がクルマに轢かれ重軽傷を負ったというニュースがありました。

本当に嫌になります。そのクルマの損傷をみると、ボンネットの凹み具合から、かなりのスピードが出ていたことが想像できます。

事故現場は、幹線道路の抜け道になっていた様で、決して広くはない道路を数多くのクルマが、時にかなりのスピードで走っていたそうです。

そう、このような道が多いのも歩行者死亡率が高い原因の一つでしょう。

更に、常々、私は日本の取り締まりのやり方にも疑問を持っています。

スピード違反で検挙されるのは高速道路が多く、一般道、ましてや住宅街で検挙されることが少ないのが現状です。

皆さんは、どう思われますか?

日本は自動速度取締り装置の数も高速道路が圧倒的に多いのです。

高速道路に於ける取り締まりも必要ですが、学校が近い住宅街の道路こそ、もっと厳しく取り締まるべきだと私は考えていますが、間違っているでしょうか。

また他国との比較になってしまいますが、日本と同じく自動車が基幹産業でいわゆる自動車大国のドイツでは、皆さんご存知の通り高速道路の半分は制限速度無制限で、郊外の見通しの良い幹線道路(一般道)の制限速度は100Km/hです。その代わり住宅街や、ましてや学校近くの道路は制限速度が30~50キロに変わり、しかも自動速度取締装置が、いたるところにあり、時速5キロ、場合によっては3キロオーバーで、すぐに撮影されてしまい、即刻反則金です。ドイツ居住者以外でも、そう例えば日本人がドイツを旅行中に違反をしても、国際郵便で罰金の支払い書が届くのです。

歩行者を徹底的に守るという意志を感じませんか?

ですから、ドイツの方が圧倒的に走行平均速度が高くても、道路の総距離とクルマの台数当たりの事故件数、死亡者数、共に、残念ながらドイツより日本の方が多いのが現状です。

住宅街で警察官が取り締まりを多数、行うのはリスクもコストも掛かるのは理解できますので、自動速度取締り装置を、住宅街や通学路に徹底的に配備して、歩行者を「実質的に」守るべきだと私は考えます。

また地方の交差点では、信号を設置する必要が無く、交通量が少ない時には、無駄に信号で止まる必要がない上に、直線区間が減るので必然的に走行するクルマのスピードは抑えられる環状交差点(ランアバウト)を増やし、より歩行者の安全を図って頂きたいと切に願います。このランアバウトは信号がありませんので当然、停電の影響を受けない為に実は災害が多い日本にこそ向いていることを付け加えておきます。

きちんと事故を教訓にして欲しい

福岡の事故は34歳の女性が運転する軽自動車が2人の児童に突っ込みましたが、日本の軽自動車の多くが前席がベンチシートになっており、良く言えばリラックスして運転できますが悪く言えば、緊張感が保てないドライブポジションになりやすいとも言えます。

実際、地方の道を走っていて信号待ちの時に隣のクルマに目をやると、ベンチシートの上に片足を乗せ、片手で運転しているドライバーを多く見ます。これは私が、これまで200万キロ以上走行してきた運転経験で数多く目撃してきましたので、稀有なことではないと思います。

更に最近の軽自動車、コンパクトカーはCVTのトランスミッションが多く、「変速」という作業が必要ないこともあり、右手と右足だけで、とりあえず、運転することはできます。

ステアリングアシストも強力に効き、手の平だけで運転している方も多くいらっしゃいます。

そんな悪い意味で「緊張感を強いない」クルマが増えてきたことも住宅街での事故が絶えない一因ではないかというのが私の持論です。

クルマは家電ではないのです。

「最近のクルマは家電みたいになって、楽しくなくなった」という次元の話ではなく、テレビや冷蔵庫、洗濯機が楽に緊張感なく使えることで弊害は一切ありませんが、命を乗せて、時には命を奪うことがあるクルマが家電のように緊張感なく使われるようになるのには私は反対です。

私はクルマの運転が大好きで、楽しいと思っていますが、同時に。いつも「このクルマは自分の命も危険にさらすし、人の命を奪う可能性もある」と唱えてから運転を始めます。

それでも、事故をおこしたことがあるのです。

人命にかかわる事故ではありませんでしたが、改めて唱えていることは真実なのだなと実感しました。

全てのメーカーにお願いです。

少なくとも正しい運転姿勢を取らなければ運転ができないようにクルマを造って下さい。

それから某ヨーロッパメーカーが開発を進めていますがドライバーの呼気からアルコールを検知したらクルマが始動しないような装置も必要だと思います。

行政、そしてメーカーが一丸となって、痛ましい事故の根絶に向かって進んで頂けることを願います。

そして何より、世の中のクルマが全て完全自動運転になるまでは、ドライバー一人一人が、命と向き合って、家電を扱っているのではないことを自覚して運転することが必要なのだと改めて感じました。

八街市で失われた尊い命。またこれまでの事故で犠牲になった方々の多くの命を無駄にしないことが我々の使命です。

安東 弘樹

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