オートライトの意味…安東弘樹連載コラム
カナダでは昼間にライトを点灯させるのが常識
1991年9月、私はアナウンサーとしてTBSの番組ロケの仕事でカナダに行きました。半月以上のカナダ滞在になるロケでしたので、現役のアナウンサーではスケジュールが確保できず、当時新人で、まだ研修中であった私が研修を中断して番組に出演する、という異例、且つ苦肉の策によって実現したロケでした。
18日間に渡ってカナダを横断しながら、カナダ各地の商品を紹介し、それを番組放送時に通販で売る、という内容の番組で、ロケのお相手は、女優の柏木由紀子さん。それはそれは緊張しました。何しろ、まだ研修中で、まともに番組に出演した事はありません。それが、いきなり女優さんと共演ですから…。
いまだにバンクーバー国際空港に降り立った瞬間の緊張は覚えています。そして緊張を和らげるために、街を走っている「クルマ」を見る事にしました。鮮明に覚えているのは、当時自分が日産テラノに乗っていた事から目についた主に北米に輸出されていた「Pathfinder」(テラノの英名)が日本仕様より、オーバーフェンダーが付いていてタイヤも太く、カッコ良かった事です(笑)
そこから様々なクルマを見ていて気付いた事が有りました。昼間なのに走っているほとんどのクルマのヘッドライトが点いていたのです。
ロケに帯同している日本語が話せるカナダ人コーディネーターさんに、その事をたずねると、「カナダでは1989年から生産されるクルマは全てエンジンを掛けると自動的にヘッドライトが点く様になっていて、基本的には昼間もヘッドライトを点けるのが普通です」と仰っていました。「気候も安定しないカナダではお互いに良く視認出来る様に、そうなっているんです」との説明が加わりました。一瞬、驚いたのですが説明を受けて納得したのを覚えています。
今は、デイランニングライトという、ヘッドライトとは別の、多くはLEDによる灯火類を昼間でも点灯させる義務がある国が多くあります。
ヨーロッパのクルマの殆どに、今はライトoff というポジションはありません。私のドイツのクルマは、エンジンを掛けると同時にデイランニングライトが点灯し、基本はオートライトになっているので、暗くなってくると自動的にメインのヘッドライトが点灯します。
日本人はヘッドライト点灯が何故遅いのか
日本のクルマも2020年4月以降に継続生産されるクルマには「オートライト」の装備が義務となりました。
さて、その日本での状況なのですが、暗くなってきてもヘッドライトを点けるクルマが少なく、どういう訳か完全に暗くなるまでヘッドライトを点けない、という不思議な「風習」が残っています。義務化になる前からオートライト付きのクルマは、かなり普及しているのですが、敢えてoffにしている人が多い様です。
ハッキリ申し上げます。これは危ないです。日本でもオートライトが義務化になった理由は、暗くなったら早めにヘッドライトを点灯させる為でもあるからです。
でも何故か多くの人が、敢えてギリギリまでライトを点けません。
一説によると、日本ではヘッドライトが対向車のドライバーを眩しくさせてしまうから「気遣い」から、ギリギリまで点灯させない。らしいのですが、科学的に昼間からヘッドライトを点灯させている方が事故は減るというのは証明されていますから、その気遣いは止めた方が良いでしょう。
また、これは本当に理解出来ないのですが、ギリギリまでライトを点けない方が「運転に慣れている感」を演出できる。という人もいました。
思わず吹き出してしまいましたが、暗くても見える方がカッコイイそうです。
これは、以前、仕事中に私が、最近はウィンカーを出さないドライバーが増えていて困る、と嘆いた時の話ですが、ある地方の出身の同僚が「俺の地域では、車線変更の時、ウィンカーを出したら負けだ。ウィンカーを出さずに、さっと車線変更をするのがクールだと言われていた」と話していたのを聞いて文字通り開いた口が塞がらなかった時がありました。
どんな風習ですか…。
ギリギリまでライトを点けないのも同様の理由なのでしょうか…。
忘れてはならないのは、ウィンカーもヘッドライトも、他車への自分の存在認知や意思表示が目的の半分を占めており、自分が見えるから点けない、というのはそれぞれの装置の機能の半分を放棄している様なものです。
是非、早めのヘッドライト、適正なタイミングでのウィンカー点滅を、全ドライバーに、お願いしたいと思います。
オートライトは点灯タイミングが大事
多くの日本メーカーにお願いしたい事なのですが、装着義務になったオートライトの点灯のタイミングについてです。
私は今年、久しぶりに日本メーカーのクルマを購入しました。
不満なのがオートライトは当然装備されているのですが、かなり暗くならないとヘッドライトが点灯しないのです。
殆どの輸入車や一部の日本メーカーのオートライトは昼間でも降雨時はセンサーが「暗い」と判断し自動的にヘッドライトが点灯します。これが道を走っていて本当に助かるのです。特に激しい降雨時にバックミラーを見るとヘッドライトが点いていないクルマは殆ど視認できません。
ですから降雨時に自分の日本車に乗っている時は、オートライトのポジションから強制点灯の位置にしてヘッドライトを点けています。また、かなり暗くならないとヘッドライトが点かないので、夕方になると、降雨時と同じ様にしなければならず、もはやオートライトの意味がありません。
ちなみに日本でもバイクは、1998年にヘッドライト点灯が義務になっており、1998年4月以降に生産されたバイクはエンジンを掛けると自動的にヘッドライトが点灯する様になっている為にon/offスイッチすら付いていません。というわけで、今、路上を走っているバイクの殆どが常時、ヘッドライトを点けて走っています。
理由は、勿論、クルマより小さいバイクが昼間でも車などから良く見える様にする事で安全性を担保する為です。
日本では昼間のクルマのヘッドライト点灯が義務にならない理由が、バイクと差別化する為、等と解説する記事なども見ますが、公的に説明されているものではありません。
いずれにしても、晴天時の明るい昼間はともかく、夕方や降雨時にライトが点いている方が安全なのは間違いありません。
出来れば全ての日本メーカーはヨーロッパ車や一部の日本メーカーと同じロジックのセンサーにして欲しいと思います。
更に言えば「明暗」のセンサーと逆に、センサーが反応する「速度」は遅くして欲しいのです。
どういう事かというと…、ある時、私が昼間、高速道路を走行中、後ろのクルマから何度もパッシングされたと思い、何か自分のクルマに異変があって知らせてくれているのかと思ったら、走行していた区間の上方に幾つもの陸橋が有り、高速道路上で、その陸橋の影の部分を通る度にオートライトが反応し、点けたり消したりを繰り返していたのです…。
ヨーロッパのクルマは暗くなって2,3秒程経ってから、ライトが点くので、こんな事にはなりません。
また、激しい雨が降っていてもライトが点かないのに、影に入ると、すぐヘッドライトとリアライトが点灯して、影が終わると、すぐに消えるので、走行時に前のクルマのブレーキランプが点いたと勘違いし、後続を走っていたこちらが、意味の無い減速をしてしまう事があるのです。これは本当に危ないと思います。
以前、この事を、ある日本メーカーの方に話した所、日本では、「暗くなった瞬間にライトが点いて欲しい、というユーザーが多いから」、との説明を受けたと記憶しているのですが、仮に、そうだとしてもメーカーとしては安全を優先して欲しいと思います。
そもそも少しでも暗くなったら点灯する様にしておけば、この様な反応速度の問題は解決するのではないでしょうか。
昼間の降雨時や夕方の時間帯でしたら、ヘッドライトが点いていても被視認性は高まりますが、対向車から見て、迷惑になる程、眩しくなる様な事はありません。
早めのヘッドライト点灯による弊害は無いと言って良いでしょう。
是非、ドライバー自身も気を付けて、少しでも暗くなったらヘッドライトを点灯して頂いて、メーカーも、オートライトのロジックを調整して頂ければと思います。
安全より優先される事はありません。
安東 弘樹
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