日本の高速道路の特殊性…安東弘樹連載コラム

皆さんは日本の高速道路の通行料金について、どの様に感じていますか?

長距離を車で移動する事が多い私は、毎回、その料金に驚きます。勿論、その高額さに…です。

例えば東京から名古屋に行く場合、高速道路料金は6860円、燃料代は燃費を「平均的な12km/lで計算すると、距離が350キロ強ですので、およそ30L使うとして仮にレギュラーガソリンの価格を1L当たり140円と計算すると4000円程、掛かります。

つまり合計すると、1万円を超えるのです。ちなみに新幹線の東京~名古屋間の料金は10560円(のぞみ自由席)1万1300円(同、指定席)ですので、ほぼ同じ。

クルマは勿論、自分で運転する事でリスクも責任も背負いながら、気持ちを張って移動する事になります。片や人の運転に身を委ね、座って、お弁当を食べながら移動出来るのです。

私自身は運転自体が快楽ですので、苦になりませんが、その様な人は稀有でしょう。
多くの方は疲労と戦いながら移動する事になるのに、移動に掛かる料金は同じ。日本では長距離の移動は公共の交通機関を使う方が効率的と言われる所以です。

唯、ドイツを中心としたヨーロッパでは事情が違います。

まず、ドイツやイギリスの高速道路は「原則」無料です。またヨーロッパ全体で見ると制限速度は130km/hという国が最も多く、ドイツ・アウトバーンでは総距離の半分位が速度無制限だという事は皆さんも御存知だと思いますが、意外な所ではドイツの隣、ポーランドでは制限速度が140km/h!と高い上に、やはり高速道路料金は原則、無料です。この様に、総じて走行速度が高い事もあり、程度にもよりますが長距離移動するのにクルマの方が経済的にも時間的にも効率が良くなる場合が多いのです(ちなみに環境負荷に関しては複雑な比較になってしまいますので今回は考慮しないで話を進めさせて頂きます)。

ここで、ある比較をさせて頂きましょう。
まず、高速道路を造る際の財源ですが、ドイツの場合、道路特定財源として、鉱油税(エネルギー用燃料に掛かる税)と車両税(日本の自動車税に相当)による収入の内、50%が道路関連、残りが鉄道と水運に割り当てられます。
日本では2008年で廃止されましたが、ドイツでは非常に分かりやすく、きっちり道路の為にこの税金が使われます。

ここ10年以上に渉りアウトバーンの有料化が議論されていますが、現在の所、「原則」無料のままになっています。唯、「原則」と度々書いたのには理由があります。ドイツでは、2005年以降は12t以上の重量貨物車(トラック)に課金されるようになり、2015年10月からは7.5t以上の重量貨物車にも課金される様になりました。

唯、課金システムは非常に進んでおり、GPSと通信ネットワークを使って個々のクルマについている車載器で走行距離を計測し、その距離に応じて課金されます。クルマの速度を著しく低下させる、ゲート等は殆どありません。このシステムが運用される様になったからこそ、重量貨物以外の乗用車なども有料にしようという動きが出てきている訳です。道路建設、維持費用の財源に関しては世界的に悩みがあるのは間違いありません。

基本的に「フリーウェイ」の文字通り高速道路原則無料のアメリカでも最近は一部の有料区間で、同様のシステムが運用されており、実は日本の「ETC」は時代遅れと言わざるを得ないのを、どれ位の方が御存知でしょうか。

話を戻しましょう。これらの事実を聞くと、何故、日本だけが異常に料金が高いのか、ますます理解に苦しむのは私だけでしょうか?

実は日本の法律的には、簡単に言うと当該高速道路建設維持費用を通行料金で賄った上で、その費用を支払い終えた時点で無料にしなければならないのですが、殆どの高速道路に於いて、その気配は感じられません。それどころか料金は上がっています。

管轄の国土交通省は、ずっと「将来的には無料にする」と言い続けていますが、有料期間は、ずっと延長され続けています。現状2065年以降は無料にする事になっていますが有料期間を更に延長する議論が進んでいます。それでも国交省がいつかは無料にする、と言い続けているのは、永久有料となると今は免除されている固定資産税を払わなければならないからと言われています。確かに安全の為にはしっかりとメンテナンスはして頂きたいので、ある程度、利用者が費用を負担するのは納得できますが、他国と比べると、日本の通行料金を「法外」と感じるのは自然ではないでしょうか。

ちなみに、高速道路の総距離ですが日本はおよそ9200km(日本道路統計年報2020年版)で国土の面積が殆ど同じであるドイツは13000km程。そうドイツの方が長いのです。勿論、平地が少ない日本の方が道路建設が大変なのは想像できますが、この距離の高速道路を造ってきた上でドイツは無料なのです。

更に、ネット記事や投稿サイトの動画を観ても、実際にアウトバーンを走行してきたジャーナリストの方々に聞いても、「路面が綺麗で安心して高い速度で走れる」との意見は共通しています。つまり、しっかりとメンテナンスもされているという事です。

唯、高速道路に於いて日本が優れている点を挙げるとすれば、サービスエリア(以下SA)やパーキングエリア(以下PA)の施設の充実ぶりでしょう。特に、ここ数年は目を見張るほどで、トイレなどの必要設備は綺麗になり、食事施設だけでなく、もはやSA自体を目的地にしても満足できるような場所すらあります。

個人的には嬉しい上に、ありがたいのもあるのですが、ふと考えると、疑問が浮かぶのです。

「待てよ。財源が足りないから、半永久的に無料にはならないと主張しているのに、何故、SA、PAばかりが豪華になっているのか?」、基本的に道路建設とSAエリア等の建設、運営もNEXCOが運営しているので、お財布は一緒のはずです。

だとしたら余裕が有る様にさえ見えてしまうのです。多くの国の高速道路の休憩施設にはガソリンスタンドとトイレ、売店だけがあるだけの様です。と書いたもののドイツに関しては最近のSAは、かなり綺麗になって設備も充実してきているそうで、羨ましさが増すのですが…、トイレが有料なのは御愛嬌です。

それから、ヨーロッパではEVの普及が日本と比べると遥かに進んでいる国が多いので最近は充電器の設置が急増しているとの事。充電出力も日本より遥かに高い(日本の急速充電器は50kwまでが殆ど。欧州では100kw~250kwが一般的。ちなみにグリーン電力と紐づいている事も多い)ので、これに関しては日本のSA、PAはかなり遅れています。また日本では物流の増加に伴いSA等のトラック用のスペースが不足しているので、設備の拡充よりも純粋に面積を拡げる方が先なのではないか、等と様々な事を考えてしまいます。

また話を戻しますが、どんどん設備だけが充実していく日本のSA、PAを見ると、益々、何故、有料のまま、どころか値上げまでされていくのか理解出来ません。高い税率の燃料を入れ、毎年の自動車税もクルマ購入の度に重量税(道に負担を掛ける重いクルマは高くなる)も払い続けているのに、です。

様々な専門家が「日本の高速道路料金が桁違いに高い理由」として挙げるのは「日本は地震などの災害が多い為、道路を造るのにコストが掛かる」というものですが、以前、私が担当していた「ひるおび」という番組に御出演頂いた、ある日本の工学博士は「ドイツの、トンネルを含めた道路に掛けるコストの高さに驚いた」と仰っていました。その方は日本の道路建設に直接関わった際に、ドイツに視察に行く機会が有り、驚く程の実情を目の当たりにしたそうですので、信頼できる情報だと思います。だとすると、「災害が多いのでコストが掛かるから」という説明も説得力が弱くなってくるのではないでしょうか。

このコラムでは、この様に、様々な分野でヨーロッパ、特にドイツと比較してしまう事が多くなってしまうのですが、同じ基幹産業である自動車に関しての税制も含めた国の姿勢や取り組み、実際の走行環境等、見習うべき事が多いからです。

確かに、そのドイツでも高速道路の有料化が現実的になってきています。しかし、今のドイツの重量貨物車の通行料金と日本の大型、及び特大車の通行料金を計算して比較してみると日本の料金が約2倍という状況なのです。

実際に、いつから乗用車も有料になるか分かりませんが、現在の所、基本的に無料で、平均速度が圧倒的に高いにも関わらず距離と走行台数を比較した上で事故も少なく、日本程ではないものの最近はSA等も充実してきているドイツの状況は理解して頂けたのではないでしょうか?

最後にヨーロッパ各国の乗用車の通行料金の概算を表記しておきます。
東京~名古屋間相当350キロ比較です。1ユーロ130円で計算しました。(原稿執筆日現在1ユーロ128円でしたので)

日本
6860円
ドイツ
0円
イギリス
0円
フランス
4500円(課金されない区間も有るが、全ての区間が有料だと仮定して)
イタリア
3150円

と言った所です。

皆さんは、日本の高速道路、どう思われますか?

安東 弘樹

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