多機能になったクルマの説明責任…安東弘樹連載コラム
AWD、ABS、ADB、AEB、AFS、ESC、TCS、ACC、LKA、BSM、ALH、HUD、IPA、…
皆さんは、このアルファベットの略語で表現された単語の意味は分かりますか?これらは全て、クルマに関する機能を表したものなんです。
AWD:ALL WHEEL DRIVE、全輪駆動
ABS:ANTI―LOCK BRAKE SYSTEM、アンチロックブレーキ。
ABSとは、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキを踏んだときにタイヤのロックを防止して、ハンドルの操作性をサポートする装置。この2つくらいなら、かなり前から使われている用語ですので、少なくともクルマに興味の有る方でしたら、知っているのではないでしょうか。
しかしその後の、
ADB:アダプティブドライビングビーム
AEB:オートノマスエマージェンシーブレ-キング
AFS:アダプティブフロントライティングシステム
・・・
これらの機能はメーカーによって呼称は違いますが最近、使われる事が多くなった用語です。
それぞれの意味まで書いていたら、それだけで字数が尽きてしまうので、大変、恐縮ですが、気になる方はネットで検索して、調べてみて下さい…、申し訳ございません。
この様に今、世の中に存在する、クルマの機能の略語は、全てのメーカーのものを数えると一体、幾つなのか、想像も出来ません。
また機能だけではなく、クルマの種類自体も今は…。
ICE:インターナルコンバッションエンジン・内燃機関車
HEV:ハイブリッドエレクトリックビークル
PHEV:プラグインハイブリッドエレクトリックビークル
FCEV:フューエルセルエレクトリックビークル・燃料電池自動車
BEV:バッテリーエレクトリックビークル・バッテリー電気自動車
一般的に販売されている物だけでも4種類が既に流通しており、それぞれ、アルファベットの略語で表現されることが増えています。
それでなくてもクルマ離れが進んでいる日本では、マニアでない一般のユーザーは、さぞ混乱しているに違いありません。
販売店では丁寧に機能解説してくれるんですが・・
現在、私が担当している生放送のラジオ番組でも、私がクルマに詳しい事もあって、頻繁にクルマに関する相談メールが寄せられます。
車マニア以外の方には前述の(AWD・4WD)も理解出来ない事が多い様で、つい先日も、「夫が4WDのクルマが欲しいと言っていますが、意味が分からず、夫に質問したら、全てのタイヤが動くクルマと言われましたが、クルマは全部、全てのタイヤが動いている様に見えるので余計に分かりません」しかも「理解出来ないので、更に質問したら、ネットで調べてみろ、と言われて調べたけど、まだピント来ません」というメールを頂きました。放送では、そのメールに対して、クルマの知識が何もない方にも分かる様に生で説明させて頂いた所、1時間後に「初めて理解出来ました!」という返信メールを頂きました。アナウンサーとしては嬉しい限りです(笑)
そうなんです。クルマというものは興味のない方にとっては、それでなくても難解な物なんです。そこにきて最近の高度な支援システムや安全機能が急激に増えた事で、更に理解することが難しくなってきた様です。
ある番組のスタッフに「10年ぶりにクルマの販売店に行って新しいクルマを見たら、何から何まで以前とは違っていて、驚いて、最後は逃げる様にお店を去ってしまいました(笑)」と言われた事もあります…。
その時の販売店スタッフは丁寧に説明はしてくれたものの、ある程度の事を知っている前提での説明だったらしく、とにかくチンプンカンプンだったそうです。
その方の話(仮にAさんとします)の中の断片的な情報を繋げて私なりに解釈すると、こんなやり取りをした様です。
例えばAEB(一般的には自動ブレーキ・正確には衝突軽減制動装置)に関して…
スタッフ:「このクルマは自動でブレーキを掛けてくれます」。
Aさん:「自分でブレーキを踏まなくて良いんですか?」スタッフ「いえ、普段は自分でブレーキを踏んで停まって頂きますが、もしブレーキが遅れた時にはクルマがアシストして自動的にブレーキを掛けてくれます」Aさん「え?じゃあ、絶対にぶつからないんですか?」スタッフ:「絶対ではありませんが、限りなく衝突のリスクは減ると思います」
ACC(アクティブクルーズコントロール・前車追従機能付き速度維持機能)に関して
スタッフ:「高速道路走行時に、前のクルマに追従してくれる装置です」
Aさん:「え?前のクルマがいなくなったら?」
スタッフ:「設定した速度を維持します」
Aさん:「どうやって設定するんですか?」
スタッフ:「ここを押した後に、このスイッチで設定速度を上げたり下げたりします」
Aさん:「私には出来そうにありません」
スタッフ:「簡単ですよ」
Aさん:「…」
また、LKA(主に高速道路において車線を保持してくれる機能)に関して
スタッフ:「車線をキープしてくれます」
Aさん:「え?私はハンドル操作をしなくて良いんですか?」
スタッフ:「いえ、基本的にハンドルは持って操作もして下さい。でも車線を逸脱しそうになると、警告ブザーが鳴って、少しだけ、ハンドルが動いて車線の真ん中を維持してくれようとしてくれます」
Aさん:「少しだけ?それは、どういう意味ですか?」
といったやり取りであった、と想像出来ました。
お客様の知識レベルにあった機能説明が必要
さまざまな最新のクルマを運転する機会に恵まれた私の様な立場の者にとっては、すぐに理解できることです。しかし、大多数の方は「リスクは減る」、とか、「いざ、という時は」「少しだけ」等と言われても、実際に体験しなければ、機能自体を理解する事は不可能だと思います。
ましてや、「基本的に高速道路走行時には」と言われても、特に日本メーカーの販売店では高速道路の試乗をすすめられることは稀有ですので、実際に購入して路上で経験するまでは、どういう事が起こるのか想像も出来ないでしょう。
結果、私の周りでも、新しいクルマを買ったが、何やら英語の表記がついたスイッチが沢山あるけど、怖くて使えない。という意見を多数、耳にします。
私からすると、もったいないですが、確かに細かい漢字の日本語表記のスイッチにする訳にもいかないですし、販売店が、分かりやすく正確に説明をしないと折角の快適、安全機能を使って貰えない事が多いのが、よく分かります。
昨今、クルマに強い興味関心を抱く人が減っていますし、クルマの細かな機能まで興味関心をもって各人で調べるのはどうみても難しいでしょう
せっかく機能が充実してクルマが安全になってきた訳ですから、メーカーは責任をもって、分かりやすく全てのユーザーに機能を安全に使って貰えるように販売店への指導をして頂きたいと切に願います。
私は、メーカーやインポーター主催の試乗会、全てにはスケジュールが合わず参加出来ない事がある代わりに、時間が少しでも空いた時には仕事現場や自宅近くの販売店に行って、「普通のユーザーとして」新しいクルマに試乗する事があります。
しかし残念ながら、全てのスタッフが特に新しい機能について完全に理解している事は少なく、しかもクルマに慣れていない方に分かりやすく、「すぐに使ってもらえる様に」説明出来るような方には、あまり出会った事はありません。
これから、それこそPHEVやBEVも併売するメーカーやインポーターの販売店が増えてくる事は確かです。機能も増えて、種類も増えてくる、この先、販売店の役割は益々、重要になってくるのは間違いありません。
勿論、今後、ネット販売等が主流になれば販売店、という形ではなく「サービス拠点」という様な形になるかもしれませんが、説明は必要になります。
とはいえ現状においてはメーカー、インポーターの皆さんは、新しい機能、そのものの販売店への解説はもちろん、分かりやすい説明の仕方も含めて徹底的な販売店への指導を、重ねて、お願いしたいと思います。
それにしても、クルマに関するアルファベットの略語、増えましたね…。
安東 弘樹
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