追い越し車線の大型トラックに、思いやりと想像力を持とう…安東弘樹連載コラム
この夏(実際は夏だけではありませんが笑)高速道路を使って何回も遠くに訪れましたが、そのたびに思うことがあります。
おそらく同じことを感じている方も多いと思います。
トラックに速度抑制装置が付いて以降、3車線をトラックが並走し後続のクルマを塞いでしまう、ちょっとした渋滞のような状態になることが常態化しているのです。
そのたびにトラックに対して、気を揉む方も多いでしょう。
実は私も、後方から乗用車が来ているのが分かっているだろうに、トラックはなぜ、わざわざ追い越し車線に移動し、これを塞ぐような運転をするのか。そしてトラック同士の速度差が少ないので、ジリジリと追い越すまで時間がかかり、後続の乗用車がイライラする状況を作る理由が分からなかったのです。
先日ある女性のトラックドライバーさんが制作した動画を観て、初めて納得がいきました。その方も大型トラックに乗ってみて初めて気づいた事が沢山、あったそうです。
急発進、急ブレーキが難しいのはもちろんですが、大きい発見は「急ではない」加速や減速すら難しい、ということ。
ですから、少しでも自分より遅いトラックが前を走っていたら、可能な限り減速や再加速をしないで済むように一刻も早く抜きたい、ということなのです。
高速道路におけるトラックの制限速度は現在80km/hで、今のトラックは(車両総重量8トン以上又は最大積載量5トン以上)90km/h以上のスピードが出せないように速度抑制装置が付いています(来年にむけ最高速度の引上げが検討されている)。
しかし、メーターの誤差などで、実際はわずかに走行速度が違うのです。ですから時速1km/h~5km/hほどの違いで、トラック同士は抜いたり抜かれたりを繰り返さなければなりません。
そうした事情から多くの場合、1分以上の時間をかけてトラックがトラックを追い越さなければならなくなり、後続の乗用車は“イライラする”という訳です。
実際に、その女性トラックドライバーの方も、後ろから乗用車が来ているのは分かっていても、ここで追い越さなければ荷物到着の指定時間を過ぎてしまうので、乗用車に「申し訳ありません!」という気持ちでじりじりと追い越す場合もあるそうです。
そんな時、それを察して追い越される方のトラックが減速してくれる場合もあり、そんな時は本当に感謝の気持ちでいっぱいになるそうです。
何故なら、いったんスピードを落とすと特に荷物が満載の場合、もとのスピードに戻すのに時間がかかるのを痛いほど、知っているからです。
そうしてトラックドライバー同士、思いやりのある運転をしてくれる人もいれば、意地でも譲ってくれないばかりか、わざとスピードを上げるトラックドライバーが居ると悲しい気持ちになるそうです。
私は学生時代、某国内クルマメーカーの販売店で陸送(お客様に点検したクルマを引き取ったり納車したりする)のアルバイトをしていたのですが、クルマを載せた積載車を運転して、工場間の移動をする場合もありました。
クルマ1台を積んだだけでも思い通りの加減速ができなかったことを、動画を観て思い出しました。そんな経験があっても、普段は高速道路を走っていて正直、遅いトラックがわざわざ追い越し車線を塞ぎ、乗用車の制限速度を大きく下回る速度で、前のトラックを追い越そうとする場面に遭遇すると、「なんで、わざわざ追い越し車線に来るのだろう」と思っていました。
もちろん、マナー上許しがたいような場面もありますが、トラックの事情を理解すると意識が変わってきます。それでなくても過酷な環境で、物流を担って下さっているドライバーがいてこそ便利な生活や経済発展が成り立っているのです。
そこで私は、こう思う事にしました。「きのう注文した私の荷物を、このトラックが運んでいるのかもしれない」それだけでも譲り合う気持ちになるというものです。
物流が滞る、と言われる2024年問題。現在、すでにさまざまな問題が表面化しています。
問題の並べたてはしませんが、少なくとも道路上、小回りがきいて加減速が素早くできる乗用車はよほどの事情がなければ、全面的にトラックのことを思いやる。常に譲るくらいの気持ちでトラックドライバーが気持ちよく走行できるように心掛けたいものです。
もちろん、お互いにマナーを守るのが前提ですが、少しだけ乗用車側が余裕を持ってもバチは当たらない、というものです。何しろ、自分が注文した「何か」を運んでくれているのかもしれませんので。
想像力を働かせて思いやりにつなげる
高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの大型車のゾーンに乗用車を停めるなど、もっての外です。特に長距離トラックのドライバーの皆さんが、休めないのは文字通りの死活問題です。
私が都内から千葉の自宅へ帰る時、頻繁に休憩するパーキングエリアがあるのですが、そこでは「酷い」と言えるほどの確率で乗用車がトラックゾーンを占拠しています。構造上、パーキングの手前が大型車のゾーンで奥が乗用車なのですが、なぜか手前の方で多くのドライバーが乗用車を停めるのです。一目で大型車用と分かる場所に乗用車が停まっていると本当に悲しくなります。
百歩、いや千歩、譲って乗用車用の駐車場所が満車状態なら、まだ理解できます。トイレが限界なのかもしれません。しかし、乗用車用の場所が空いているのにもかかわらず、堂々と停める神経が理解できません。
トラックは、乗用車用の場所には停められませんので、休憩できない、ということにもなってしまうのです。
主要高速道路では、無理やり乗用車用の場所に停めている大型トラックも見られ、これはこれで困りますが、仕方がなくということもあるでしょう。物流量に対して、サービスエリアやパーキングエリアの面積が小さい、という問題もあると思いますし、物理的に解決する方法も考えるべきだと思いますが、まずは思いやりと、ここに自分が車を停めると、どのような事が起こるのか、という想像力が必要なのではないでしょうか。
私自身、トラックが追い越し車線を使う理由に対しての想像力が足りていなかった、と反省しています。
たとえば午前0時深夜割引をめぐる、東名高速道路の東京料金所手前の渋滞も、もちろん迷惑ではありますが、そこまでしなければならない事情も想像してみると構造的な問題が見えてきます。そんなことがあった上で、宅配便が時間通りに来て、通販サイトで買ったものが送料無料で翌日に届くのです。
高速道路を走るたびに考えること
世界的に見て高額な高速道路料金で知られている日本。今一度、料金の見直し考えて頂きたいと切に願います。せめて大型車だけでも、終日、今の深夜割引料金と同じにすれば、危険な料金所前渋滞の解消にもなりますし、流通がスムーズになることによる経済メリットも必ず、あると思います。
それこそ、以前このコラムでも書きましたが、センサーが機能しているのに無駄とも言えるETCゲートの廃止だけでも、料金設定が現実的になるのではないでしょうか。
ゆがみは、誰かが困っていることで、無理をせざるを得ないところに生じます。
それを少しでも改善するのが、国の仕事ではないでしょうか。
最近、高速道路を通るたびに考えさせられます。
アナウンサーとしての仕事のときもクルマ関係の仕事のときも、高速道路代は経費にはなりますが自己負担ですので、正直いつもその高額さにはため息が出ます。なお、自分はいつも自前の衣装をスタイリストさんのクルマのように服や靴を満載にして移動しています。
高速道路代だけではなく、将来、走行距離に応じて税金が課せられたら、運転が唯一の趣味である私にとっては死活問題ですが、そんなことより物流コストが上がりますので、全ての物価がさらに高騰することになります。しかも、これは物自体の価格が上がるわけではありませんので、賃金を上げる原資になる訳でもありません。
人を自由に移動させてくれて、経済の血液にもなっている自動車を快適に運用できる日は、いつまで続くのでしょうか。
話が大きく逸れましたが、今は、思いやりと想像力を持ってスムーズな物流に協力しましょう!
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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