「日本で一番売れている軽自動車」の実力を感じました…安東弘樹連載コラム

先日、新しい3代目HONDA N-BOXに乗ってきました。

何しろ日本で最も売れている軽自動車、つまり日本で一番売れているクルマ、という事になります。

HONDAとしても満を持してのモデルチェンジ、という事ですが、意外にも?外観も含めて、大きな違いは見受けられませんでした。

今回、試乗会に参加する前に、メーカーからメールで送られてきている、先代からの変更箇所や、改良点などについての解説映像を見ておいて、当日、実際にクルマに乗るという形が取られています。

その映像によると、ユーザーに支持されている分、キープコンセプトのまま、動力性能や静粛性、利便性を向上させた。との事。

HONDAの軽自動車といえば、かつてN-WGNの走り(特に私が嫌いなCVTのフィールが、かなり改善されていた)や造りの良さに感銘を受けましたので、今回、期待しながらの試乗となりました。

  • ホンダ新型N-BOX サイド

まず乗ったのはエンジンに過給器が付いていない「N-BOX」。色はフィヨルド・ミストパールという明るい水色で、如何にも可愛い外観。

横浜のみなとみらいにある、新しい結婚式場を拠点に行われた試乗会でしたので、みなとみらいランプから首都高速に入り、大黒パーキングエリアで写真撮影をして、みなとみらいランプに帰り、その後一般道を走って、拠点に帰ってくる、というコースを走る事にしました。

しかし、首都高速に入って、自分で選んだコースを後悔する事になります。
当日、晴れてはいたのですが、風が強く首都高速に入った途端、容赦の無い横風を感じる事になりました。

  • ホンダ新型N-BOX 後部座席

N-BOXは「スーパーハイトワゴン」に属する軽自動車。軽自動車サイズの全長と幅で1トン前後の重量で高さは1790mmです。要は走る背の高い直方体…。

風が強かったため直線路を走っていても、クルマが風に煽られてしまう状況で、加速や減速をして、様々な風の状況に対応しようとしたのですが、CVTの特性で、アクセルを踏んでもエンジンは回るが加速が少し遅れて、体勢を立て直すのに少し苦戦しました。

一般道に降りて走行を続けますが、信号待ちをしていてもクルマが揺れる位の風が吹いています…。軽のスーパーハイトワゴンにとっては、あまりよくない状況での試乗になり、正直、クルマの印象を感じるのが難しかった事を前提にお伝えします。

N-BOXに限らずスーパーハイトワゴンの形状から仕方が無いとはいえ、実際に風が強いときにもクルマに乗らなければならないので、足回りや空力も含めて、もう少し安定性があったらいいな、と素直に感じました。

次にターボモデルの「カスタム」に乗ります。

走り出しから力強さを感じ、一安心。スペックも馬力は御存知「自主規制」で64PSですが、トルクは104Nmとエンジン軽自動車の中ではトップクラス。NA車とは、実際の感覚も相当違います。以前、感銘を受けた「N-WGN」を思い出しました。ステアリングにはシフトパドルも付いていて、疑似シフトチェンジも可能。実際に私は、このパドルを使い加速と減速をしながら運転していました。

  • ホンダ新型N-BOX カスタム 15インチの大径ホイールとタイヤ

加減速を自在にコントロール出来れば、先程感じた横風にも何とか対応出来ます。もちろん、クルマの形状による物理の法則には勝てませんので、クルマが風に負けないよう緊張感をもって走行しました。15インチの大径ホイールとタイヤも安定性に貢献している事は確かです。

空力の影響もあるのかもしれませんが、風のお陰で?NAモデルとターボモデルの動力性能と安定感の違いを感じる事になりました。

  • ホンダ新型N-BOX カスタム 前席

  • サンシェードが内蔵されているルーフコンソール(オプション)

室内の使い勝手や装備に関しては、申し分ありません。世界広しといえども、ティッシュケースがピタッと入り、サンシェードも内蔵したルーフコンソール、などというモノが用意されるクルマなど、他には存在しません。

  • フロントガラスを覆うサンシェード(オプション)

オプションですが、「カスタム」の方に装着されていた、このコンソールには感心しました。
ハイトワゴンの特徴でもある直立したバスのようなフロントガラスの殆どの面積を覆う事が可能な、上から下にスライドさせるサンシェードを「最初から」オプションで装着出来るのです。

更に両車共に静粛性が上がっていて、これは旧モデルと、はっきり差を感じられました。

その辺りも「日本で一番売れている軽自動車」の実力をまざまざと見せつけられた、と言えるでしょう。

しかし、便利な装備の多くは「別料金」であり、今回の試乗車もオプション満載でしたので、計算すると価格はNAモデルで250万円弱。ターボモデルの「カスタム」は300万円前後でした。

昔と今を比べて思う軽自動車のこれから

300万円と言えば、20~30年前でしたら大型の高級セダンの価格。様々な安全装備や運転支援装置、電動スライドドアなど便利な装備が増えたため価格が上がるのは理解出来ますが、その間、日本人の平均収入は、増えていないどころか微減している状態です。相対的に軽自動車は、相当、高額車になってしまいました。

更に私が少し残念に思うのは、その間、軽自動車の根幹の部分、エンジンやトランスミッションが殆ど変わっていない、という事です。その部分での変革が、ここ20~30年なされていないのです。

ですので出力だけでなく、実質燃費も以前とあまり変わっていません。今回、両車共に殆ど同じコースを走り、スタート前にトリップコンピューターをリセットして燃費を計測したところ、NA車が14.9km/L、ターボ車が13.8km/Lでした。

風が強かった事もありますが、高速道路が多かったとはいえ、走ったのは首都高速道路ですので、軽自動車が弱い高速域ばかりを走った訳ではありません。その環境での燃費ですので、これも20~30年で改善したとは言えないでしょう。

それに、全ての軽自動車メーカーがNAエンジンとターボエンジンの2本立てで、トランスミッションはCVT。スポーティなグレードは「カスタム」という名前まで同じ。
日本が横並び社会とはいえ、クルマの構成だけではなく、グレード名まで揃えなくても…と思うのは私だけでしょうか。

エンジンの軽自動車は革新なく、この様な状況のままで終わってBEVに変わってしまうのか。個人的には、もう一花咲かせて欲しいのですが、日産と三菱の軽EVが好調な事からも、軽自動車は、そう遠くない将来BEVにシフトしてしまう様です。
既にHONDAは来年春に商用軽EV、N-VAN eの発売を予告していますので、今後は乗用車も変わっていく事は予想されます。

日産と三菱の軽EVに乗った時の感想として、正直、動力性能はエンジンとは比べものになりませんでした。低速域での力や加速などはモーターの方が圧倒的に優れています。

しかし空間効率、利便性を今のレベルで実現する事を考えると、「スーパーハイトワゴン」のカテゴリーでは、BEV化は難しい、との事。

であるならば、コストの制約があるのは理解していますが、HONDAさんに限らず、軽自動車を製造しているメーカーは、最後に大きな花火を打ち上げて欲しいものです。

それが小型のハイブリッドなのか、CVTよりダイレクトで効率の良いトランスミッションなのかは分かりませんが、この手があったか!と驚く事を妄想しながら、横浜を後にした安東でございました。

安東弘樹

MORIZO on the Road