道のりは平坦ではありませんが、前を向いていきましょう!…安東弘樹連載コラム

2024年、元日の「令和6年能登半島地震」で始まりました。
元日の16時過ぎに起きた最大震度7の地震は、あらためて日本が地震災害の多い国であることを、突きつけた形になりました。

亡くなった方、それぞれの御冥福を祈ると共に、安否不明の皆様の一刻も早い救出と、避難されている方の帰還、その向こうにある日常の回復を想うばかりです。

個人的に出来る事も考え、少しずつ実行している今日、この頃です。

さて今年はクルマ業界にとって、どんな年になるのでしょうか。

まず今年、我々が注視せざるを得ないのが昨年末、業界を驚かせたダイハツの不正発覚問題でしょう。

安全に関わる事も含めて64車種に関して174件の認証試験での不正が見つかり、基本、全車種が出荷停止という前代未聞の状況になっています。

特に問題視されているのが、エアバッグの衝突試験で、衝突をセンサーで検知し、エアバッグを作動させる必要があるにもかかわらず、タイマーによって作動させていた事例や、衝突時の衝撃試験で、助手席側の試験結果を運転席側にも使用していた事、などが上げられます。

現在ダイハツ車にお乗りの方に向けては「今まで通り安心して乗っていただければ」と説明はされていますが、安全の根幹にもかかわる試験を、どのように捉えていたのか、今後も問われる事になるでしょう。

ちなみに第三者委員会からは、直接的な原因として「過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー、現場任せで管理職が関与しない体制、ブラックボックス化した職場環境、法規の不十分な理解」が指摘されていました

モデルチェンジの期間が短い

ところで私は日本メーカー全般にモデルチェンジの期間が短すぎると以前から、それこそ学生時代から気になっています。

しかもエンジンや骨格など、クルマの根本部分は踏襲されたままで内外デザインや快適装備等を変えなければならない為、短期間に多大な労力を費やす事になるのではないかと疑問に思っていたのです。
ヨーロッパのメーカーを見ると、所謂モデルチェンジ、という形は取らずに、エンジンを大きく改良したり、安全装備を追加したり、個々のエンジニアや部署、各サプライヤーが開発したモノを順次、載せていく、というイメージがあります。

その方が単純に考えて、クルマが良く「育ち」「熟成」していき、ユーザーにもメリットがあるのではないでしょうか。

しかもユーザーにとっては、外観上、すぐに「旧型」になる訳でも無く、長く愛せるというものです。

日本のユーザーの指向もありますが、今後、考え直される事を望みます。

現場ではなく経営者に、その責任がある

今回のダイハツの問題で、第三者委員会は、「現場ではなく経営者に、その責任がある」と断じましたが、日本社会に同じような構造による問題は多く存在する気がしてならないのです。

私自身、27年間、言わば「大企業」に所属しておりましたので、様々な構造は理解しているつもりです。

例えば、ある帯の(月曜日~金曜日)情報番組の場合、スタッフは全部で100人以上になります。しかも恐らくプロデューサーも含めて全スタッフが、スタッフ全員の人数を把握していません。

100人以上のスタッフの中で、例えばTBSの番組の場合、出演者以外のTBSの社員は10人、といったところでしょうか。他は制作会社の社員、フリーランス、派遣会社から派遣されたスタッフ。技術スタッフも社員、制作会社、契約社員、フリーランスと、正にカオスです。

クルマを作る場合のクルマメーカー、部品メーカー等のピラミッド構造とは同列に語れないのは確かですが、生放送までの時間が限られている中で、例えば放送事故や不正、ヤラセなどが発生してしまう構造は似たものを感じます。

番組には予算が決まっています。その中でロケにかかる費用、編集にかかる費用、勿論、スタジオで生放送をする費用も計算される訳ですが、当然、コストや時間が掛からない方がテレビ局にとっては有り難い訳です。

これは勿論、仮の話ですが、プロデューサーは視聴率が上がらないと困る、という事で、短時間に面白いネタや企画を要求します。それに応えようとディレクターが様々な事を考えて、ロケや収録をします。毎日の放送がある帯番組の場合、曜日毎に担当のスタッフが違う事から、曜日毎の競争もあるので、みんな必死です。

勿論、普段、真っ当な仕事をしていても、こんな時があったとしましょう。
当初出した企画がプロデューサーからNGが出てチーフディレクターがギリギリまで企画を決められず、半ば強引にネタを決める。ロケの時間が取れないので、内容を練り込まずにロケを始める。ディレクターが数人いる場合、それぞれが、そうなります。

例えば、街の声が必要な場合、撮る時間も短くせねばならず、欲しい意見が撮れなかったので、都合の良い所だけを編集してVTRに入れる。字幕を入れる作業も現場のADさんは確認の時間が取れず、ネットで安易に確認するだけで発注する。スタジオで実際に、それを伝える出演者も入念な打ち合わせが出来ず放送に臨み、間違った内容を伝えてしまう(実際、最終チェックは出演者の責任ですので、言い訳は出来ません)。

結果、根本的に間違った内容の番組が、間違った字幕や、意に反した内容のインタビュー映像付きで放送され、番組は信用を失い打ち切りになる…。

例に挙げた番組の場合、ギリギリまで企画を決められなかったディレクターにも責任はありますが、ギリギリにNGを出したプロデューサーに重大な責任があると思います。ロケのインタビューの際に欲しい意見を撮れなかったのに編集を命じたディレクター、そして確認しなかったADさんや出演者にも責任はありますが、被害者なのかもしれません。

ただ、ディレクター、AD、出演者が、NOや疑問を言えたとしたら、最悪、打ち切りになる様な番組を放送するのは防げたかもしれません。何も言えない雰囲気が状態化していたら、絶対に防げませんが、もし同じ状況が発生しても、お互いにモノが言える番組だったら、それぞれが疑問をぶつけ、どこかで、この様な内容ではない放送に変わっているのだと思います。

お互いモノが言える組織

その雰囲気が最も良かった番組が「はなまるマーケット」でした。
亡くなったMCの岡江久美子さんは、常にADさんやメイクさんなど番組の中枢ではない人に対して、「なんか有ったら、私に言ってよ!誰が言ったかは絶対に分からない様に何とかするから」と気さくに笑いながら声を掛けていました。

そして、その岡江さんが信頼していた代々のプロデューサーは社員以外のスタッフも大切にし、常に風通しが良い明るい雰囲気の現場だったのです。

だからこそ、不正やヤラセなども無く、十数年に渡って視聴者の方々に愛された番組であったのだと思います。

そして忘れてはならないのが、「結果として」、多くのスポンサーが安心して番組を支えて下さる。正に究極の良い循環でしょう。

上も下も関係なく、また部署や立場も関係なく、お互いにモノが言える組織。
ダイハツだけではなく、日本企業が、これを目指し、結果として良い収益を上げる。

そして日本社会全体が元気になる。

それを新しい年の目標にするのは如何でしょうか!

道のりは平坦ではありませんが、前を向いていきましょう!

安東弘樹