久しぶりのピックアップトラック! 三菱トライトン…安東弘樹連載コラム
先日、三菱のピックアップトラック、新型トライトンの試乗会に参加してきました。
試乗を終えて、まず最初に出てきた言葉が「良いクルマだなー…」だった、という事を冒頭にお伝えしておきます。
1978年発売の初代から数えて、6世代目という新型トライトン。これまでの累計販売台数は560万台超という三菱自動車にとっては世界的な中核モデルです。
海外ではASEAN、オセアニア、中南米、中東、アフリカで高い知名度を誇り日本市場には12年ぶりに投入されるモデル。タイで作られ、日本に輸入する、という形で売られます。
そのトライトンがフレームから作り直され、完全に新しいモデルとして日本市場でも本格的に展開される事になった、という事です。フレームから刷新するのは20年ぶり、という事で三菱のスタッフも説明に力が入っていました(笑)。
フレームの断面積は65%増!という自信作で、後述しますが、確かにそれを実感出来る頼もしい躯体になっていました。その他、安全装備や室内の快適装備に至るまで、三菱自動車スタッフによる自信に満ちたプレゼンテーションを聞き、いよいよ試乗です。
試乗会場は山梨県河口湖町にあるオフロードコースと、その周辺の一般道。ここは以前、SUZUKIのジムニーの試乗会でも使われたコースです。しかもジムニーの時よりコースを広めに使っての、よりハードなコース設定になっていました。
私は一般道からの試乗です。
用意されていたのは上位のGSRとういうグレード。
色はヤマブキオレンジメタリックという名の鮮やかな色で、逞しいボディにマッチしていて私は好感を持ちました。
トライトンにはスーパーセレクト4WD-Ⅱという三菱独自の4WDシステムが標準で、特にトルク感応式センターデフを備えた4Hモードは舗装路でも、所謂タイトコーナーブレーキング現象を発生させることなく、常に安定した走行が可能です。
これは私のジムニーとは大きく違うところですが(笑)、強力なクリーンディーゼルターボエンジンとの組み合わせで、センターデフをロックさせる事無く大きな駆動力を発揮させるのです。
勿論、センターデフをロックさせる4HLCモードや更にローギアの4LLCモードも選択が可能で、極めつけはリアデフもロックする事が出来ます。これは、どこでも走れる!と言っても過言ではありません。
更に走行シーンや路面状況に応じてトラクションなどを最適化する7つのモード(ノーマル、エコ、グラベル、スノー、マッド、サンド、ロック)をスイッチ一つで切り替えられるドライブモードも装備されます。
いよいよ試乗へ
オフロード走行への期待が膨らむ中、まずは一般舗装道路の走行からです。2駆(後輪駆動)で走っても良いのですが、敢えて自慢の?4Hモードで走ります。元々、ピックアップトラックの後輪駆動は荷台(後輪軸の上)が空の場合、後輪にトラクションが掛かりにくく、サスペンションがリーフリジッド(板バネ)という事が多い事から、ピョコピョコと跳ねる特徴があります。しかし4Hで走るトライトンは、これまでのピックアップトラックとは「別物」と言えるように安定して舗装路を走りました。150kw(203ps)、470Nmを発生する2.4L4気筒のディーゼルターボエンジンは思いのほか、軽く回り、適度にアシストする新しい電動パワーステアリングの操舵感は「しっとり」とさえ表現出来るものでした。
一般道を走っただけで、この車の全体的な上質感が伝わってきて、既に気分が上がってきます。
室内に目を向けると、ピックアップトラックとは思えない、たっぷりとしたサイズで厚みのあるシートが、驚く事に前後共に驕られ、後席シートの背もたれも、乗用車の様な角度で、ゆったりと座れました。
そして全てのスイッチ類がグローブをしたまま操作できるように大きく、オン・オフもはっきりした手応えが伝わるように設計した、との事。徹底しています。実際に非常に操作しやすいものでした。
私にとっては非常に重要なアシストグリップも4席全てに装着されており、更にAピラーにもグリップが付いていて、乗り降りする時にも非常に便利です。
強いて言えば、上級グレードのGSRには運転席だけにパワーシートが付いていますが、助手席には無いので、シートを手動で動かすのが座ったまましにくいと感じました。助手席にこそパワーシートを付けて欲しいので、これだけは残念だと私は思いました。
しかし前席のシートヒーターもステリングホイールヒーターも装備され、それ以外は言うことはありません。
オフロードコースでの走行!
さあ、それではいよいよオフロードコースでの試乗です。所々、岩が見え隠れするダートの外周路から走りますが4Hのモードで難なく走り抜けます。次に、幅が狭く、上り勾配がきつい、更に岩が剥き出しの滑りそうな路面になっても、4HLCにするまでもなく走れてしまいました。隣に座る三菱のインストラクターの方は「あれ、ここは4Hのまま走るとスタックするので、そこで4HLCに変えて走るはずなんですけど、行けちゃいましたね(笑)」との事。
私が「普段、ジムニーで林道を走っています」とお話しすると、「なるほど、オフロードに慣れているんですね、ではコースだけ説明するので、ヒルディセンドコントロールスイッチやデフロックを使うか使わないか、また、どのドライブモードで走るかも含めて、場合によっては助言しますが、基本的に好きに走ってみて下さい」との、お墨付きを頂いたので、自由に走らせて頂きました。モーグルセクションではリアの3枚リーフリジッドのサスが、よく伸びているのが分かり、多少、ラフに走っても涼しい顔で乗り越えて行きます。
すり鉢セクションも勿論、4Hで簡単に走り抜け、このコースで行けるところは全て走ってみましたが、トライトンにとっては朝飯前、といった雰囲気でした。
そして何処を、どう走ってもボディは、ミシリともしません。2ステージターボによって、1200rpmには400Nm以上、1500rpmから2750rpmで470Nmを発生する、このエンジンも非常に扱いやすく、正に何処にでも行ける頼もしい相棒、といった、この車の心臓に相応しいものです。
ただ唯一、進入を許されなかった、深さ不明の水溜まりにも入ってみたかった事を、お伝えしておきましょう(笑)。
試乗を終えて少し暗くなった、オフロードコースに佇むトライトンは、とても逞しく、美しかったです。その光景を見た時に出てきた言葉が冒頭の言葉でした。ただ、購入をお考えの方に2つほど、申し上げておきたい事があります。それは530、540という数字。今回試乗したGSRグレード、前の数字は全長が530cmを超える5360mmで、後者は新車価格が540万円を超える540万1000円、という事です。
それぞれ、買い手を選ぶ数字ですが、どうしても欲しい、という方は情熱で?乗り越えて頂ければ幸いです!
そして、この試乗を終えて、この原稿をあらかた書き終えた翌日に入ってきたのが、三菱自動車を代表する、いや日本のモータースポーツ界を代表する希代のドライバー、篠塚建次郎さんの訃報でした。
このトライトンにも「ダカールラリー」で鍛えた4WD性能や堅牢性、信頼性、が継承されています。それは即ち、篠塚建次郎さんの魂が、このクルマにも入っている。という事でしょう。
ここで申し上げたいのは、この記事が篠塚さんへの敬意も込めて書かれた訳では無く、私の心からの正直な印象を書かせて頂いた、という事です。わたしが訃報を聞いたのは、原稿を書き終えた後なのです。
それほど、新しいトライトンは素晴らしいクルマでした。試乗会が終った後、メーカーやインポーターの開発スタッフに、これほど賛辞の言葉しか出てこなかったのは本当に久しぶりです。
僭越ながら、私が学生の頃からのファンであった篠塚健次郎さんに、今、「篠塚さんのDNAが引き継がれたトライトンは素晴らしいクルマでした。有難うございました。」と申し上げて、心よりご冥福をお祈りいたします。
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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