久しぶりのSUPER GT、初めてのIONIQ 5 Nで感じたこと・・・安東弘樹連載コラム
5月4日(土・祝)およそ5年ぶりにSUPER GTのレースの現場に行ってきました。舞台は富士スピードウェイ。(以下FSW)2024年のSUPER GTシリーズ第2戦、富士3hours の取材です。
正確に申し上げると、私が担当している「UP GARAGE presents ガレージヒーローズ」という番組のスポンサーである、アップガレージさんのチームの取材と番組の、ちょっとした収録に伺った、と言った方が良いかもしれません。
アップガレージというのは、日本全国にチェーン展開している、クルマの中古パーツを売買するお店で、クルマ好きで御存知ない方はあまりいないのではないでしょうか?
そのアップガレージはSUPER GT、GT300クラスに「チーム・アップガレージ」としてUPGRAGE NSX GT3(18号車)で参戦しています。監督兼、チーム代表は石田誠さん。ドライバーは小林崇志選手、小出俊選手、そして今年からチームに加わった、三井優介選手です。
実は今回、初めて現場で直接、取材、収録をさせて頂きました。昨年は年間2勝してドライバーズランキングは5位と、かなり奮闘しましたので、今年は更に期待できます。
今年2024年、岡山国際サーキットで行われた第1戦は16位と残念な結果ながら、手応えはあった、との事(以前、番組に御出演を頂いた時のコメント)。
この第2戦を楽しみにしながら富士スピードウェイに向かいました。当日は朝から快晴。前日の予選は11位、BoP(Balance of Performance) に苦しむ中で、小林選手、小出選手が頑張りました。
そして決勝、最初のドライバーはエースの小林選手。今回は3時間と長丁場のレースですので13時30分のレーススタート時は落ち着いた状況になりました。レース序盤はペースが上がらず14位まで後退してしまいますが、その後、セッティングと路面状況を理解した小林選手はペースを上げ始め、1回目のピットインで小出選手へスイッチ。
小出選手も序盤は苦しみましたが、徐々にタイムを向上させ、かなり長い時間、プッシュし続けます。そして最後のピットで、再び小林選手に交代。この時のピット作業も素晴らしくポジションを2つ上げてコースに戻すファインプレー。
この第3スティントでは小林選手がベストラップを連発し、2台をオーバーテイク。
最終的には7位でチェッカーを受け、見事にポイントを獲得しました。
レース後に小林選手は「勿論、もっと上を目指したかったですが、こういうレースをしたかったので今日は満足しています」と話してくれました。というのも昨年は極端に言えば、優勝か、リタイヤか。という結果が多かったので、接戦を制し、ポイントを稼ぐ、というレースがしたかった、との事。そういう意味では次戦以降に繋がる、良いレースだったと言えるでしょう。
ちなみに、この第2戦、GT500クラスは3号車 Nittera MOTUL Z(高星明誠/三宅淳詞)が、GT300クラスは88号車 JLOC ランボルギーニ GT3(小暮卓史/元嶋佑弥)が優勝しました。
それにしても、あらためて、レースの素晴らしさを実感する事になりました。
天候に恵まれた事もありますが、青い空の下、様々な色を纏ったマシン達がエグゾースト・ノートを奏でて走り抜ける。勿論、昨今は様々な環境対策もしています。そんな中、多くの人の夢やロマン、そして時には涙を飲み込むサーキットを舞台に、速さを競いあう。
人間ドラマも含めて多くの人にモータースポーツの素晴らしさを知って欲しいと切に願います。その為にも私を含めて、今、モータースポーツに興味の無い方々へのアピールを、もっとジャーナリストやメディアも頑張らなければなりませんね。
先月参加した試乗会の様子もお届け
さて今回は、もう一つ、先月に試乗会で乗ったクルマについて、お伝えします。
そのクルマとは、HYUNDAI(以下ヒョンデ) IONIQ 5 N。韓国メーカー、ヒョンデの電気自動車(以下BEV)IONIQ5の高性能モデルです。
この「N」というブランド名をWRC等で御存知の方もいらっしゃると思いますが、ヒョンデの高性能、スポーツモデルに冠されるアイコンで、今回は日本で初めての市販モデルとしてローンチされるという事です。
ちなみに「N」というのは開発テストの舞台、ニュルブルクリンクとヒョンデの開発拠点南陽(ナムヤン)に由来するとの事。
まずはスペックから、お伝えしましょう。
フロントとリヤのモーターを合わせたシステム最高出力は650PS!同最高トルクは770Nm、0-100km/h加速は3.4秒、最高速度は260km/hという驚くべき数字が並びます。
ただ、これまでも特にドイツ各メーカーのBEVでは、さほど珍しくないスペックではありますが、この「N」の特徴はその音と走行の制御にあります。
まず「N」アクティブサウンド+と名付けられた車内外のスピーカーから発生される音に驚きました。3つのモードのうち「イグニッション」と言われるモードは2.0L・ターボエンジンの音を再現。この再現度が「完璧」と言っても差し支えなく、車内外問わず、聴いて判別できる人は、そうはいないと思います。
そして、N e-shift というのが、モータートルクを制御する事で、マニュアルトランスミッションのシフトチェンジをシミュレートし、シフトパドルを操る事で、疑似シフトチェンジが出来るというモノ。
更に、N ドリフトオプティマイザーという制御システムによってドリフト走行をスムーズに行う事も出来るのです。
1時間弱と長いプレゼンテーションを受けて、いよいよ試乗です。
袖ケ浦フォレストレースウェイという千葉県にある、サーキットの本コースから私は走行を始めました。
基本的にインストラクターがドライブするIONIQ 5 Nに付いていくという試乗ですが、走行の前に百戦錬磨のインストラクターにレクチャーを受けます。操作方法や簡単な注意事項を私に伝えて下さった後に一言。「安東さん。これ乗っていると途中でBEVという事を完全に忘れますよ(笑)」しかし私は、いくらエグゾーストの音が出たとしても、BEVである事を忘れるなんて事はないだろう、と思っていました。
しかし、インストラクターの言葉をトラック1周する前に信じる事になったのです。
最初は少し大人しい「ノーマル・モード」で走ったのですが、その段階で音は完全にエンジン車。気のせいか振動すら感じます。そしてパドルを使ってシフトアップすると疑似レブカウンター上の回転が落ちます。圧巻はシフトダウン。完璧なブリッピングと共にギアポジション(勿論、疑似)が落ちて、加速に入れます。アクセルオフ時には、バブリングも再現!
更にスプリントというサーキット走行用のモードにするとモーター性能を最大化し、シフトチェンジ時には、ガツン、というショックも感じます。
そして最終周に入る前にNグリン・ブースト、というステアリングスポーク右上の赤いボタンを押すようにインストラクターが無線で伝えてきました。
それを、最終コーナーを立ち上がった所で押すと10秒間、40ps、出力が増大し、正にワープの様な加速をしてくれます。
実は私の後ろからも他のジャーナリストの方が付いてきていたのですが、そのボタンを上手く押せなかったそうで、その後暫くは、完全に遅れてしまった、との事。確かに最後は、ミラーから消えてしまっていました。
結局6周の走行の半周時点で、インストラクターの言葉通り、BEVであることを忘れていたのです。
しかも、インストラクターの方も「全開とまでは言わないが、ある程度のペースで走りました。」とおっしゃっていましたが、安定した走りと、バッテリーも含めて、何も不具合が出ない事で私も安心して付いていけました。
続いては定常円ドリフト走行です。
ドリフトに適したモードによって、腕に覚えのある方でしたら、簡単にエンジン車と同じようにドリフトを楽しめる、という事で2台の「N」を何人ものジャーナリストが交代で乗り換え、ドリフトを試みます。ドライバーによって違いますが、私は決して上手とは言えないながらも、車は見事に応えてくれました。
何人ものジャーナリストが、かなりハードに乗りましたが、バッテリー温度計の数字が全く上がっていなかったのに驚きます。バッテリーの温度制御には特に拘ったというのが裏付けられました。
試乗が終った後、Nブランド&モータースポーツ事業部長のドイツ人、ティル・ヴァーテンベルク氏を含む韓国本国から来日している各部門の研究員やエンジニアと懇談の場が設けられ、意見交換をしました。
印象的だったのが、韓国のエンジニアの皆さんが、とにかく謙虚で、意見を熱心に聞いていた事です。また彼らは、80年代~90年代の日本のスポーツカーに憧れており、それも今回のNの開発に大きく影響している、という事。
サウンドや走行フィールなど、我々より前に土屋圭市さんや谷口信輝さんが既に試乗していて、その模様はYouTubeなどにも上がっていますが、両氏ともに素直に驚いていました。
土屋さんは「BEVで、こんなドリフトが出来るとは思わなかった。2.2tの車とは思えない軽快な動き。面白い車作るなー」とのコメント。そして車を降りた時にはサムアップする程の絶賛でした。
谷口さんも疑似レブリミッターまで効くのを確認して「すげーなー。面白い事をするなー」と走りと、そのコンセプトを具現化した事に感心されていたのです。
新しい形の、BEV、IONIQ 5 N。
SUPER GTの様な箱車のBEVのレースも、もしかしたら面白いかもしれない。そんなことを考えながら帰路についたのでした。
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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