日本メーカー製の二つのコンパクトなクルマ・・安東弘樹連載コラム


少し前になりますが、スズキのフロンクス、そしてホンダフリードに、それぞれの試乗会で乗る事が出来ました。

カテゴリーでいうと前者はコンパクトSUV、後者はコンパクトミニバン、という事になります。

まずはフロンクスから、詳細をお伝えしましょう。

日本メーカー製、とタイトルに銘打ちましたが、このフロンクスは正確に申し上げると、インドの工場で生産されていますので、「輸入車」の扱いになります。インドで作られ、そのインドの他、中南米、中近東、アフリカなど、地域によっては既に昨年2023年から販売されています。

日本では今年以降の販売予定で、今回、私を含めたジャーナリストが乗ったモデルは日本仕様の「プロトタイプ」という事になるそうです。

ですので細かいスペックなどは、まだ知らされませんでした。

ただ、1.5LのNAエンジンに6速のATが組み合わされ、マイルドハイブリッド機構が付帯される、との情報は資料には書いてあります。

欧州のコンパクトなクルマでは完全にデフォルトになっている小排気量+ターボなどの過給、ではなく、NAというのは既定路線としてスズキさんらしい、と思うのは日本仕様でもトルココンバーター式の6速ATだという事。個人的にはCVTのトランスミッションは好みに合わないので、これは私としては歓迎です。

もっともフロンクスは世界戦略車ですので日本市場でのみ普及しているCVTという選択は無かった様です。

試乗の舞台は伊豆にある自転車用の大きなクローズドコース。何しろ、プロトタイプですので、まだナンバーは付いていません。

ですので、公道は走れないが故の試乗コース選択です。でも、これが奏功して、このフロンクスの美点を見つける事が出来ました。

  • スズキ フロンクス

それは後述するとして、まずは外観の印象から。目を引くのが灯火類でしょう。
一見、ヘッドライトに見える片側に3つずつあるライトは、ポジション(デイライト)とウィンカーです。そして、その下にある3つ、かたまっているライトが、メインのライト(ロー・ハイビーム)になります。

特に私が気に入ったのがリヤの灯火類を含めた造形で、非常にバランスが取れていて、伸びやかで先進性も感じさせてくれるデザインだと思いました。

  • スズキ フロンクス 運転席

内装に関しては、全体的にセンスは良いと思うものの、新しさには欠ける、という印象です。ステアリングが、私が所有していた同社のジムニーと同じだからかもしれませんが(笑)。
シフトレバーも共用のものですが、これは仕方がないでしょう。

ただ、まだコンパクトなクルマではお馴染みの「サイドブレーキ」はなく、このフロンクスには電動パーキングブレーキが驕られています。

シートや内張の素材やデザインにもこだわりが感じられ、失礼ながら限られたコストの中での工夫が感じられました。

では実際に運転した際の印象に移りましょう。コースはアップダウンも激しくタイトなコーナーも豊富な中々、チャレンジングなレイアウト。何しろ、基本的には自転車用、ですので、道幅が狭いところもあり中々油断できないコースです。

ちなみにメーカー担当者に言われた(お願いされた、笑)、今回の試乗における最高速度は60km/h…。
正直、この速度域では、走りに関しては何も分からないのではないかと危惧したのですが、自分なりに走り方を工夫してみました。

一周目。確かに、この速度域ではエンジンのパワーが十分なのか足りないのかも分かりません。2週目以降は「最高速度が60km/hを超えなければ良い」という事で、全てのコーナーも、その速度で走ってみる事にしたのです。それでしたらクルマの素性を理解する事が出来るのではないかと思ったからです。かなりタイトなヘアピンカーブでは、どのような挙動を見せるのか。

俄然、楽しみになってきました!同一スピード走行チャレンジ。最初のヘアピンでは当初、緊張しましたが、なんと、最終的には、コースのほぼ全てのコーナーを走り切れてしまったのです。
そのロールの少なさや安定感には驚きました。さすが世界の道を相手にしているだけあります。

しかし最後のストレートの上り勾配では同じ速度で走ろうとすると、アクセルを、ある程度踏み足し、エンジンの回転を、それなりに上げなければ失速する、という事実は、お伝えしておきます。

エンジンスペックも明らかにされていませんでしたが、1.5LのNAエンジンですから、これは想定内ではあるのですが、良い意味で期待を裏切って欲しかった、というのが本音でもあります。

ブレーキ性能は、この速度域では何とも言えませんが、ペダルのタッチや、利き始めの感覚で言えば「可も無く不可も無く」、といったところでしょうか。

大きめなオーソソックスなシフトレバー式6速ATの変速マナーも自然で、私にとって嬉しいのは、ステアリングに「シフトパドル」が付いている事。基本的には、終始M(マニュアル・モード)で自分で変速しながら走っていました。

走行性能や走行安定性に関しては、「エンジンは、そこそこ、でも足回りは素晴らしい」という印象です。

このデザインが好きで、コンパクトSUVに乗りたい。という方でしたら選ぶ価値はあると思います。特に「他の人と違う選択をしたい」という方にはピッタリかもしれません。

さて続いては「フリード」です。

まず、パワーユニットは1.5Lの自然吸気エンジンモデルとホンダの、お馴染み e:HEVモデルの二つ。e:HEVは1.5LのNAエンジンとモーターが組み合わされています。

このハイブリッドを、ざっくり説明すると、基本的にはモーターでクルマを走らせますが、負荷が掛かるとエンジンが作動し発電、充電。
但し、高速域ではエンジンがタイヤを直接、駆動させるという機構です。それぞれの長所を効率よく使う、といった所でしょうか。

サイズは全長4310mm全幅1720mm全高1755mm(CROSSTAR)、全長4310mm全幅1695mm全高1755mm(AIR)と、正に初代モデルのキャッチフレーズ「ちょうどいいホンダ」と言えるかもしれません。しかし室内は決して狭くはありません。ただ、3列目のシートに大人が長時間、乗るのは「快適」とは言えないでしょう。

外観や内装の違いで、AIR(エア)とCROSSTAR(クロススター)の2種類のグレードがあり、それぞれに2駆と4駆、更に3列シートと2列シートの仕様が用意されています(福祉車両グレードも用意されています)。

  • ホンダ フリード e:HEV CROSSTAR リヤ

ちなみに私は、この3代目フリードの外観には、これまでのモデルの中では最も好感を持っています。スクエアな形状で、奇抜なデザインは見られないものの、しっかりとした「塊感」に満ちていてクリーンなイメージです。色はポップな色とアースカラーの様な落ち着いた色が、それぞれ設定されていて、選ぶのは楽しいと思います。

  • 広い室内!それぞれのグレードの内装の色も私は好みでした

内装も特筆すべき飛び道具は無いものの、水平基調のインパネやメーターも見やすく、不便を感じる事はないでしょう。それぞれのグレードの内装の色も私は好きです。欲を言えば、運転している人が、思わず自慢したくなる様な「遊び」の要素が少しでもあれば、尚良い、という感じでしょうか。

さあ、走りの方に参りましょう。試乗したのはエアの2駆モデルと、クロススターの4駆モデルの2車種です。まずはエアから乗りましたが、個人的にはCVTの特徴が如実に感じられ、若干、ストレスを感じる走行になりました。
しかし4駆モデルに乗り替えると、後輪も駆動する為、同じパワーユニットでも加速感が違い、よりリニアな走行フィールになりました。詳しくは私のYouTubeチャンネルに試乗走行動画を上げますので、そちらを参考にして頂くと助かります。

それぞれ試乗を終えて

さて、今回、日本メーカーが作る、二つのカテゴリーの「コンパクト」モデルに乗りましたが、根底には同じテイストを感じました。両車共、人に優しい「良い人」という印象です。共に奇をてらわず、よく言えば乗り手を驚かさない。裏切らない。
ただ、一方で、ドキドキやワクワク、といった「良い人」以上の「魅力」というものを特に感じられなかったのは正直な感想です。

勿論、こういった車を作るのは容易ではありません。
それには敬意を表します。

ただ、フロンクスの方は価格は、まだ分かりませんが、フリードは車体価格が250万円~350万円。今回試乗した車はオプション込みで、(諸経費別)AIR(エア)は約350万円。CROSSTAR(クロススター)の方は約400万円です。実用車と割り切るには値が張ります。販売は好調な様ですが、この価格なら、ワクワクやドキドキが伴っても良いのではないか、などと考えてしまうのは、贅沢でしょうか?

皆さんは、どう思われますか?

安東弘樹

MORIZO on the Road