自動車整備士の未来…安東弘樹連載コラム


皆さんは自動車大学校、という名の付いた学校を御存知ですか?

私は、これまでの人生、ずっとクルマが好きで、基本的には、いわゆる正規ディーラーと呼ばれる販売店を通して、クルマを購入し、定期点検や車検などの整備も受けてきました。そこで様々な職種のクルマの専門家にお世話になってきましたが、その皆さんのキャリア形成において、どのような学校に通い、どのような経緯で、その職に就いたか、また、どのような経験を積んで来られたか、漠然とイメージを持っていましたが、具体的な知識は有りませんでした。

しかし勤めていたTBSを辞め、フリーランスでアナウンサーを続けたお陰で?それまでは「他局」であったBS日テレの番組、「愛車遍歴」に出演させて頂いたのを、きっかけに具体的にイメージできる様になったのです。

というのも番組初出演の際のロケ現場が日本自動車大学校(以下NATS)という専門学校だったからです。東京ドーム3個分の敷地内には、ちょっとしたサーキットや、ダートコースまで有り、実習に使う様々な種類の自動車が、多くの建物の中に鎮座しています。クルマ好きは興奮せずにはいられません!

現場に着いて、まず、学校を見て廻り、ロケが始まる前に少し満足してしまったくらいです(笑)。

ちなみにNATSというのは今の「日本自動車大学校(ニホン・オートモビル・カレッジ)」 の名前になる前の「ニホン・オートモービル・ハイテクニカル・スクール」の略を、そのまま愛称に使っている、との事。

ロケの時は「ん?何故、ニホン・オートモビル・カレッジの略、NACではないのかと疑問を持っていましたが、今回、詳しく調べてみて納得しました。

NATSは自動車整備科、カスタマイズ科、モータースポーツ科、自動車研究科といった専門的に学べるカリキュラムの他、実際のクルマを使用して現実社会に近い状況での実践教育を行う教育環境を持っており、即戦力として「すぐに使える」「一生使える」技術を修得することが可能、と謳っています。

整備士の養成だけではなく、その多彩な学科を見ても分かるように「学生として」レースに出場し、モータースポーツのノウハウを学んだり、東京オートサロンなどのイベントにカスタムしたクルマを出展したりするなど、多岐にわたる経験値を積む事が出来ます。

NATSは千葉県、成田市にキャンパスがあり、千葉県在住の私にとっては何となく誇らしかったのを覚えています。

そして、それをきっかけに全国にいくつかの「自動車大学校」と名の付いた専門学校が存在していて、多くの卒業生が、自動車関連の職に就いていらっしゃるのを、あらためて「具体的に」知る事ができました。

その流れで、あらためて知ったのが、同じ千葉県にある、千葉県自動車大学校(以下、CATS)という学校です。

この学校の特徴が、その「成り立ち」です。

前述のNATSは、ある学校法人が設立、運営をしていますが、CATSは、千葉県内のカーディーラー、整備専業工場、バス、タクシー会社など、約2,200社で構成される「千葉県自動車整備商工組合」が業界のために設立した学校です。 ですので、学校の名前が正式には、千葉県自動車整備商工組合「立」千葉県自動車大学校、という名前になっているのです。

それだけに、このCATSは、千葉県を中心に、直接、就職に直結する内容のカリキュラムになっており、とくに最近はEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド)車に対する具体的な整備プログラムも重視されています。

キャンパスは千葉市美浜区にあり、より千葉の中心地に近い事もあり、県内への就職率が高いのも特徴だそうです。

更に整備士だけではなく、自動車関連会社の独立、開業サポートにも力を入れており、その成り立ちから、特に千葉県内での強いネットワークを持ち、自動車業界で仕事をする上で、様々なメリットがあるのも特徴です。

CATSの卒業生の中には千葉県内のメルセデス・ベンツ販売店でメカニックから顧客の製品全般の相談に応じる、サービス・アドバイザー部門に異動し、その、メカニックとしての知識も活かし、サービス技能を競う世界大会「グローバル・テックマスター2012」のサービス・アドバイザー部門で優勝し「ワールド・チャンピオン」になった方もいる、とのこと。

メカニックだけではなく、こうした専門学校を卒業した方が、サービス部門でも御活躍されている事も、あらためて知る事ができました。

そして、つい先日、偶然にも私の知人のご子息(高校3年生)が、この両校の見学、いわゆるオープンキャンパスに参加したそうで、嬉しそうに、その内容を話してくれたそうです。

まず、学校が所有している最新のクルマの助手席に乗り、インストラクターが運転しながらクルマの性能について様々な解説をしてくれて、その後、実際のエンジンの組み立てを、指導を受けながら実践。最後は簡単な小さなクルマを作る、という事まで経験させてくれたとの事。それらを嬉しそうに話す、息子さんが微笑ましかったそうです。

しかも実際に、その息子さんは、この内の1校に入る事を決めて、今、その為の受験勉強をしているそうです。一級整備士の資格を取得する、という具体的な目標を定めて、将来は世界で通用する一流の整備士になると決めているとの事。

まだ10代の若者が「自動車業界」に夢を持って入ろうとしてくれている事を私も嬉しく思います。そして更に嬉しいのは、そのオープンキャンパスに参加していた高校生が、かなりの数、いたそうで、そのご子息は「ライバルが多いから頑張らなくては」と言っていたとの事。若い人の「クルマ離れ」と言われて、かなりの月日が経っていますが、まだまだクルマに興味を持ってくれている高校生世代の方が少なくないという嬉しい情報でした。

しかし一方で、全国の「自動車整備士」が足りないのも事実です。

あるデータによると有効求人倍率は4倍以上!求人に対して整備士として就職を志望する人員が足りていないのです。

しかもここ数年、整備士の離職率が上がり、厚生労働省の最新のデータでは何と18%~20%。これは他業種の平均(パートタイム労働を除く)と比べて、かなり高いのです。「収入が上がる見込みがない上に業務が増える」という理由が多く、これでは仕事を続けられなくなるのも頷けます。

国土交通省は本年4月に「自動車整備士等の働きやすい・働きがいのある職場づくりに向けたガイドライン」を策定しています。その内容は、労働条件の改善、人間関係とコミュニケーションの促進、人材開発の支援、そして適正な報酬体系の確立など、四つの主要な領域に焦点を当てているようです。

その中でも私が気になるのは、自動車整備士の収入の少なさです。求人倍率が高ければ、本来であれば収入は上がるはずですが、残念ながら、現状は整備士の収入が大幅に上がるのは難しいかもしれません。

先ほどお話しした、知人のご子息は希望に燃えて、将来の整備士生活を夢見ているのだと思います。

それが実際に始めてみたら、「生活の為に整備士を辞めざるを得なくなった」、という話を将来、聞きたくはありません。

とは言うものの、自動車業界はもとより国土交通省も、自動車整備士の働きやすい、働きがいのある職場づくりに向けて動き出しております。まだまだ一部ですが、整備工場にエアコンを導入し、労働環境を改善してた事例を聞いたことがあります。またこれも一部かもしれませんが、給料も少しずつあがっている職場もあるそうです。

業界の未来のために、そして若い方が希望を持って、この業界を目指してくれるように、スピード感もって改善されていくこと事を願ってやみません。

安東弘樹