高騰する宿泊費から見える、クルマの価格や今の日本という国…安東弘樹連載コラム
私がフリーランスになったのは2018年でした。
自宅が千葉市にある事から、早朝に都内で仕事がある時は、現場近くのビジネスホテルや、時にはシティーホテル、と呼ばれる外資系のブランドホテルに宿泊することもあります。
いや「ありました」と申し上げた方が良いでしょう。
コロナウィルスが世界に脅威を与えた2020年~2022年頃は、インバウンドも激減した事から特に宿泊料金は安くなり、殆どの方が知るブランドホテルでさえ、1人の宿泊費は2万円を超えることはなく、1万円を切ることも珍しくありませんでした。
ビジネスホテルですと5000円以内で宿泊可能、ということが珍しくなかった状況です。
フリーランスになってすぐのコロナ禍でしたが、お陰様で私の仕事量が極端に減ることはなく、宿泊代が自腹の時でさえ、安心して?早朝の仕事に備え宿泊していました。
早朝の仕事の際には、経費として計上可能ですので、尚更、抵抗なく宿泊できたのです。
ところが、急激に、その宿泊料金が上がってきたのは、2年位前からでしょうか。
そして昨年から徐々に上がってきたとは言え、いよいよ、ここ半年は常軌を逸してきた印象です。
それに伴い、私の宿泊機会も減り、クルマ移動という事もあって、早朝、例えば、まだ明るくなる前に自宅を出て仕事に向かうことも増えてきました。
これでも欧米を中心とした観光客の皆さんにとっては「かなりの割安」だそうで、日本を訪問する観光客は増え続けています。
勿論、円安、という要因も大きいのですが、それを差し引いても、欧米の方からすると、都内のブランドホテルに、「こんなに安く泊まれる」という感覚だそうです。
日本にあるホテルがインバウンド料金で不当な価格を付けている、という論調もありますが、ホテルが需要と供給の原理で価格を上下させるのは仕方がないことで、むしろコロナ禍では大打撃を受けていたこの業界が、この状況で、この料金を払ってくれるお客がいれば、その様な値付けになるのは当然かもしれません。
自動車の価格
問題なのは、物の価格、金銭感覚が、今の我々日本人と、欧米を中心とした観光客と、これだけ差がついている、という事でしょう。
という事は、つまり例えば自動車の価格にも、これは当てはまる、という事です。
日本で、500万円で売られている車は、平均年収などを考えて換算すると、欧米人の感覚ですと200万円位で売られているという事になります。
勿論、この状況が恒久的に続く訳ではありませんが、現在、特に日本メーカーは日本での価格を考えてクルマを造らなければならない面もありますので、コストの掛け方や値付けの判断は非常に難しいのではないでしょうか?
円安はクルマ自体を輸出するのには好都合ですが原材料を輸入するのには逆の条件になります。収益も非常に複雑な要素が絡み合っている昨今、一口には言えないこともありますが、試乗会でお話しを伺った日本メーカーの広報トップの方に、この辺りを伺ったところ、非常に悩ましい状況であるのは間違いない、との事でした。
日本では、この車格のクルマには、これ以上の価格は付けられない、という絶対条件、というものがあり、その中でクルマを造らざるを得ない。もし日本市場を無視してクルマを造って良ければ、価格とサイズはかなり自由になるが、それは出来ないので、非常に難しいクルマ造りを要求される、との事です。
実は先日、某日本メーカーのデザイン部門トップの方に話を伺う機会に恵まれたのですが、特に日本市場ではシビアな「クルマの幅」に関して、5mm違うだけでデザインの自由度が比較にならないほど、拡がるそうです。
分かりやすく、比喩表現として、ちょっと誇張して、お話しをされているのかと思い、「それだけシビアな世界、という事ですね」とお話しを返したら、「いえ安東さん。例え話ではなく、実際に5mm幅を広げられたら、我々が出来る事が大幅に増えるんです」とのお答えでした。思わず、「申し訳ございません。認識不足でした」と謝罪したことは言うまでもありません。ちなみに、それは価格にも言える事だそうで、如何に日本メーカーが、ギリギリの努力をされているかが理解出来ました。
勿論、今の日本のユーザーの立場では「最近のクルマは高くなった」と嘆くのも理解できますが、グローバルで考えたら、世界のユーザーにとって、日本車は「コスパが高い」「お買い得な」「リーズナブルな」クルマだというのが、良く分かります。
当然、様々な要素から欧州での日本車の販売価格は同等車種の日本での価格より、高価ではありますが、それでも前述したホテルの価格同様、割安、という事になるのです。30年以上、停滞している日本の経済が上向きになる事を祈るばかりです。
お話し頂いたデザイントップの方が所属するメーカーは、かなり頑張っておられて、その努力がプロダクトであるクルマそのものからも伺えるのですが、やはり、全てのクルマに急にコストを掛けて、ドイツメーカーと同じ価格帯にするのは、造るノウハウも今は足りないし、これまでのユーザーを、いきなり裏切る事はできないので、本当に少しずつ変わっていくしかありません。という至極、真っ当なお話しをされていました。
ただ、ホテルの話で申し上げると、今、日本で高騰しているのはホテル業界全体ではありますが、もともと日本にあった老舗のホテルブランドの多くは外資系に買収され、名前だけ残っているところも多く、まだ独立してブランドを保っている日本の老舗ホテルも、純外資系のホテルと比べると、値付けは、まだ良心的と言いますか、飛び抜けた価格を付けられないという状況です。
日本、という国のブランド力は間違い無く、世界トップクラスだと思います。
だからこそ世界中から人が集まってきているのは間違いありません。
ただ、それを我々が実感出来ない、また享受できないという、今の状況を考えると、この状態を何とか打破しなければならないと私は考えます。
少し強引に話をまとめると、その第一歩となるのか定かではありませんが、10月27日(日)投開票の衆議院選挙、襟を正して1票を投じようと思います。
皆さん、日本を、どのように導いてくれる人や政党を選ぶのか、ぜひ真剣に考えて、選挙権という貴重な権利を、お互いに行使しましょう!
都内のホテル料金を見て、様々な事を考えさせられました。
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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