自動車というものの奥深さをあらためて知る機会になりました。…安東弘樹連載コラム
私は今年の春から。日本自動車ジャーナリスト協会(以下AJAJ)の会員になりました。
これをもって自分が「自動車ジャーナリスト」になったとは思いませんが、少なくとも協会員として恥ずかしくない、また協会の名前を汚す事が無いように、なお一層精進して様々な発信をしていこうと常に意識しています。
元来、評論家の主な役割、というのは自動車そのものやメーカーの姿勢などの評価、評論というものですが、最近は価値観も多様化し、クルマ自体の善し悪しというのは、ユーザー自身が、インターネットなどから様々な情報を入手して、それぞれの方が自分のライフスタイルに合わせて判断する時代ですので、その役割は変わってきたと言わざるを得ません。
ただ、ネットの情報には、その情報を上げる源の主観が入りますし、偏ったものも散見されるのも、また事実です。
それらの情報を客観的に正しく伝える、という役割がジャーナリストにはあるはずです。
そこで本当に有難いのが、AJAJ会員向けの、各自動車関連メーカー主催の「勉強会」という催しなのです。
私もAJAJの会員になるまで、その存在は知っていましたが、どういうものなのかは当然、知るよしもありませんでした。
それぞれの分野の専門メーカーが通常、公表しないような社外秘の内容や、社外秘ではなくても、一般の方は着目しないような技術に関しての解説などをジャーナリストに公開し、それを、伝えられる範囲内で、時には「事実」として記事化する場合もある、という事を勉強会に参加して知る事が出来ました。
様々な企業が定期的に開いているものなのですが、スケジュールの都合で私は、これまで2回の勉強会にしか参加出来ていませんが、とても良い「勉強」になりましたので、お伝えできる範囲で、今回紹介させて頂こうと思います。
宣伝が目的ではありませんし、企業の方も公開を前提としていない情報もありますので今回は名前を伏せて紹介します。
タイヤメーカーによる勉強会
偶然にも私が参加した2回の勉強会はタイヤメーカーによる勉強会でした。
一つ目のタイヤメーカーは、そのメーカーのテストコースを会場に、タイヤの性能テストや、人間の感覚に、どう向き合うかの官能テストのやり方、また普段から実際に性能を測っている測定員の方々とのディスカッションなどを実施されていました。
またタイヤが発するロードノイズや乗り心地を実際にタイヤの種類毎に我々がテストしてみて、その違いを評価し、その評価を実際の測定員の方の評価と比較してみる、という、まるで学生時代に受けたテストの様な項目もありました。
テストの仕方は、同じ車種のクルマに様々な種類のタイヤを装着し、テストドライバーの運転で、助手席や後部座席に座り、同じコースをそれぞれのタイヤを履いたクルマに乗って、その特性を感じ取り、タイヤの種類を判断し、チャート表に記入していく、というものです。
それぞれのジャーナリストのタイヤに対するセンサーを試される様なテストで、皆さん苦笑いをしながら必死にタイヤの種類(銘柄)や特性を当て、いや判断し、解答用紙に記入していました(笑)。
そこで何と私、奇跡の正解率が90%で、自分のセンサーに少し自身を持てた事を報告させて頂きます。
ただ、勉強会の最後の項目は、低ミュー路を、様々な種類のクルマ(大型ピックアップや軽自動車、スポーツカーなど)が用意されている中で、自分で選んだクルマ(タイヤ)に乗って同じコースを走る、タイムトライアルでしたが…。
私は見事に最下位…。言い訳をすると、勉強会自体が初めてで、タイムトライアル自体も殆ど経験が無かったもので、どれ位本気で走ったら良いかさえも分からず、気付いたら、ビリでした。
いえ、言い訳です(笑)。
皆さん、そこはベテランのジャーナリスト。運転スキルも流石、という方々ばかりでした。
低ミュー路だからこそ、スキルが試された、という訳です。
モータースポーツにも積極的に参加されているメーカー、という事もあり、最後には様々な部署の社員の方々と、ざっくばらんな話も出来て、本当にタイヤ、という物を知る良い機会になりました。そして初めての勉強会に参加してAJAJの会員になった事に感謝しつつ、その責任もあらためて実感することになったのです。
そして2回目も、あるタイヤメーカーの勉強会でした。
テーマは、当該メーカーから販売されている「オールシーズン・タイヤ」について。
その組成やメカニズムについて専門的な話も含めて解説を頂きました。
日本では夏は「ノーマルタイヤ」冬は「スタッドレスタイヤ」に履き替える、というのが常識になっていますが、ヨーロッパや特にアメリカでは殆どスタッドレスタイヤは使われていません。殆どの自動車ユーザーは「オールシーズンタイヤ」を使っています。
勿論、冬は寒くなって、雪が降る地域でも、です。
理由は単純。季節によってタイヤを履き替えるのが面倒だからです(笑)。
ですので、積雪路も「何とか」走れて夏は普通に走れるオールシーズンタイヤを選ぶ、と言うわけです。
実際に日本の様に、傷一つ無いクルマが当たり前、ではないのを海外経験がある方は御存知でしょうが、雪で滑って多少、ぶつかっても気にしない、という方が少なくないという背景もありますが、北米や欧州などは気候の変動が激しい地域も多い事で、雪が降ると、どうにもならないノーマルタイヤを普段から使うのに抵抗があるという側面もあるようです。
確かに都心でたまに雪が降るとノーマルタイヤが基本の日本では毎年の様に大惨事になりますので、冬場になれば、必ずスタッドレスタイヤに履き替えるという方が大多数ではない、というのが日本の現状です。
これも理由は単純、一年に1度か2度しか降らない雪の為に毎年タイヤを替えるのが面倒、かつ経済的な出費も抑えたいという事だと思います。
ただ、その1度か2度の雪で、取り返しのつかない事故を起こす可能性は少なくありません。
ですので、そのタイヤメーカーは日本の都市部こそ「オールシーズンタイヤ」が合っている。と主張されていて、それには納得せざるを得ませんでした。
しかし日本でのオールシーズンタイヤの認知度は低く、その存在さえ知られていないのが現状、という事を踏まえて、今回の勉強会を開いて下さった、という事です。
そのメーカーのオールシーズンタイヤは、根本は夏タイヤ(ノーマルタイヤ)としつつも雪上性能だけではなく、氷上性能も、限りなくスタッドレスタイヤに近づけた、という製品で、そのメカニズムの内容を、イラストなどを使ってわかりやすく解説して下さいました。
簡単に説明すると、タイヤの表面温度を感知して、タイヤ(ゴム)の性質を瞬時に変えるという事に成功した為、あらゆる路面でグリップする、という事です。
実際に、そのタイヤで積雪路や凍結路を走った訳ではないので、まだ完全に信じられてはいないのですが(笑)瞬時に性質を変える事が可能になった理由には納得出来ました。
その技術に関しては、当然企業秘密で我々が知る事は出来ませんが、「理屈」には説得力があったのです。
北海道など「極寒地域」の冬には推奨していない。とメーカーの方は説明していましたが、確かに日本の都市部であれば、1年中、このタイヤを履いていれば、急な積雪時でも事故を起こす可能性は激減するでしょう。
ただ、多くのクルマの新車時に装着するタイヤにするにはコストの面で現実的ではない、という事で、今後このタイヤだけではなく、「オールシーズンタイヤ」が日本でメジャーになって装着例が増えていけば価格も、より現実的になっていくのではないか、との事でした。
私個人的な疑問として質疑応答の際に「御社の説明通りの性能が認知されてオールシーズンタイヤが普及していくと、御社のスタッドレスタイヤは売れなくなるのではないでしょうか?」と質問してみたところ、「豪雪地帯は、これまで通りスタッドレスタイヤを選んで頂き、都市部の方にはオールシーズンタイヤを選んで頂く事でバランスを取っていきます。」との返答でした。
ではノーマルタイヤは、どうするのか、とも思いましたが、当分、新車時の装着タイヤが全て「オールシーズンタイヤ」になる事はないので、問題ないか、と質問を続けるのはやめました。
1ユーザーとして興味も沸いたので、自分のクルマへの装着を考え、販売されているタイヤのサイズを確認したところ、残念ながら私のクルマに合うサイズが無く、購入は断念しました。
メーカーの方に、それを伝えたところ、サイズは今後、「ドンドン増やしていく」、とのことで、期待をして待つ事にしました。
ただ…、単価が思ったより高く…早く普及して価格が「こなれてくる」事も期待しています。
それにしても、この2回の勉強会、正に「勉強」になりました。
タイヤ一つとっても原材料を全て知っていた訳でもなく、自動車、というものの奥深さをあらためて知る機会になりました。
これらの機会で得た知識や経験を様々な形で皆様に届けられるように、これからも努力してまいります。
今後も宜しくお願いします!
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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