自動運転を初めて、この目で確認しました…安東弘樹連載コラム
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テスラ・サイバートラック
その日、私は新潟の放送局での生放送を19時に終えて、そこから自分のクルマを運転して千葉の自宅に到着したばかりでした。時刻は午前1時を過ぎています。
ここ数年、居間にあるテレビで「YouTube」を観る事が増え、その日もクルマ関係の動画をYouTubeの勧めに任せて観ていました。すると、テスラオーナーによるテスラを中心とした純電気自動車(以下BEV)に関する動画を上げているインフルエンサー(以下Tさん)の新しい動画を勧められたので、それを最初は食事をしながら何となく観ていました。
しかし、途中から食事を早めに済ませ、集中してみることになったのです。
Tさんは最近では、テスラや他のメーカー主催のBEVの試乗会に招待される事も多く、少なくともBEVに関しては、日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下COTY)選考委員や日本自動車ジャーナリスト協会(以下AJAJ)の協会員であるジャーナリストと同等、もしくはそれ以上の最新BEV試乗への機会を得ている様に見受けられます。
実際、私は招待されていないテスラ最新モデルの試乗会に世界中で参加されているのです。
そんなTさんは、アメリカテキサス州でテスラのFSD(フル・セルフ・ドライビング)バージョン13(以下Ver.13)が搭載(インストール)されている、テスラ社のサイバートラック(巨大ピックアップトラック)を試乗しながらの配信を動画にアーカイブとして残されていました。
私が観たのは、その「アーカイブ」で、1時間弱の高速道路を含めた走行動画をそのまま配信されていた時の映像です。
自動運転の進化をみた
結論から申し上げると、FSDの直訳「完全自動運転」が確実に近づいてきていると感じました。
(FSDはテスラの運転支援システムの名称であり、監視なしの完全自動運転ができるわけではない)
スタート時、住宅街での設定時こそ暫く時間を要したものの、幹線道路に出てから途中の充電スポットでの停止、目的地の前の道路上に駐車するまで、Tさんがクルマを操作したのは、充電スポットの中、充電ロットの近くに車を停める時の切り返し時に、前進から後退に切り替える操作一回のみだったのです。
その間、クルマ自体が戸惑う事は、文字通り「一瞬」もありませんでした。
かなり交通量の多い朝の時間帯に高速道路を使っての移動でしたが、合流時の加速もスムーズ。それどころか、朝のラッシュ時と言っていい時間帯ですので、周囲のクルマは頻繁に車線変更をしています。
そんな時も相手のウィンカーや挙動を感知して、スムーズに減速して相手の車に前の空間を譲り、逆に自車が次のジャンクションで向かう方向を効率的な距離で判断し、熟練ドライバーと同じタイミングで車線変更をするのです。Tさんだけでなく同乗していた2人も「おー、凄い!」と感嘆の声を上げていました。
それどころか、大型トラックが自分の真横でウィンカーを出していて、自車のレーンに車線変更をしようとしている事を判断したのか、故意にスピードを上げて、そのトラックの車線変更をスムーズにする「思いやり?」運転までするのです。
しかも、その後にまた次のジャンクションへの方向転換をするための加減速をしながらの車線変更をし、Tさん曰く「感動レベル」のスムーズさです。
Tさんは運転しながら「これ以上、自動運転に求めるものはないレベル」と表現しています。
更に驚くべきは、自動運転時の上限スピードは設定できますが、それ以内で実際の周囲の走行スピードの「流れに」従うのです。制限速度はちゃんと認識していて、基本的には単独で走行している時はそれを守る(と思われる)のですが、交通量が多い場合は、あくまで周囲の車の流れを滞らせることなくスムーズに走っていました。
Tさんも「自分がしたいことに、クルマが逆らって不快になる事が皆無」と表現しています。
それは映像でも伝わってきました。
そして、途中の充電スポットでは、切り返しの時だけ前進から後退にセレクターを一度操作しましたが(恐らく歩行者を複数認知したため?)、その「一度」以外は切り返しも全てクルマがこなし、巨大なボディの充電口に充電ケーブルが届く様に充電器までギリギリの距離で停まりました。その後、Tさんは見事に充電コネクターを差し込む事が出来たのです。
正にドライバーが「したい事」を高度に実行してくれていました。日本の一般的なEV用充電器の3倍のスピードによる充電を途中で切り上げ、そこから帰路につきます。
ナビゲーションに目的地をセットして、一回セレクターを「前進」にセットしたら、後はクルマが安全を確認して走り始めました。路地から幹線道路に合流する交差点には信号がありません。しかも、ブラインドコーナーの先にその交差点があるので、人間の目視だけでは怖い合流です。
しかし、重量3トンのサイバートラックは安全かつスムーズに発進、加速し、乗員も走行している他のクルマも怖がらせることなく走り始めました。Ver.13より前のFSDの発進についてはスムーズではないと指摘の声もありましたが、最新バージョンは熟練ドライバーの発進です。
私は35年以上、ほぼ毎日運転していますし、今の仕事のおかげで、かなりの数の車種を運転してきた経験があります。
A級ライセンスを所持し、サーキットも走りますし、林道やアウトドアコースも大好きです。更に氷上コースのトレーニング時に氷上での定常円旋回など様々な機会にも恵まれてきており、経験値という意味では少なくないドライバーだと思ってはいますが、レーダーやライダー(レーザーを使ったセンサー)などの高性能のセンサーは持ち合わせていませんし、脳は高度なAIより、ある部分では劣っています。
ブラインドコーナー先の交差点の合流をスムーズにこなすサイバートラックの映像を見て、その全てを持ち合わせているFSDの方が私よりスムーズな運転をする、と認めるしかありませんでした。
自動運転と人間の運転
私はこれまで、「完全自動運転って、いつ頃実現しますか?」と訊かれる度に「運転支援はもっと進化しますが、不確定要素ばかりの公道でそれを完全に実現させるのは暫く難しいと思いますし、全てのクルマが同じ機能を持っていないと意味が無いかもしれません。その証拠にレールの上を走る鉄道ですら、一部の新交通システム以外は人間が操作していますからね。」と応えてきました。
しかも、AIも機械ですので、所謂「バグ」と言われる不具合であっても、悲劇的な結果をもたらす可能性を否定できないとも思ってきました。
しかし、テスラのFSD Ver.13搭載車のこの動画を観て、少し考えをあらためないといけないと思ったのです。
そもそも人間自体が、AIよりも頻繁に「バグ」を起こす存在です。
健康な人でさえ、飲酒運転は論外としても、睡眠不足による居眠り運転。加齢。体調不良。健康な状態でも、心配事があったり、他の事を考え込んでいるまま運転する事もあるでしょう。
それどころか「故意に」危険な運転をする人間すら存在します。
それらの理由によって、これまで数多くの悲劇が生まれてきたのが現実です。
そう、常に不具合を起こす可能性がある「人間」が運転しているクルマの方が危険なのではないかとさえ思わせる程、FSD Ver.13の運転は完璧でした。
人間は見えない場所を検知するのは不可能です。しかし、現代のセンサーは人間が見えない所も検知しますし、AIが予測も警告もしてくれます。
そして、不具合は人間の過失より少ないのは確かなのです。
機嫌が悪いこともなく、競争心もありません。公道での危険な運用は人間より少ないでしょう。
但し、ネット上で起こる「乗っ取り」の可能性は現状否定はできません。しかし、テスラがクラウド上のデータを使いながらも、可能な限りクルマ自体のセンサーなどで判断する領域を残しているのも感じます。
今後、自動運転が普及していけば、個々のクルマが公共交通機関としての役割に近い存在になってきます。そのセキュリティは「課題」にはなりますが、今の日本では過疎地や高齢者の移動手段の確保、運転手不足に悩む交通機関の存続の危機など、今すぐ解決しなければならない「課題」が山積しています。
サイバートラックは、その大きさなどから日本での運用は現実的ではありませんが、アメリカでは新しいハードウェアが搭載されたサイズが小さい車種でも、このVer.13の機能は享受できます。
勿論、日本では様々な法規や保険の仕組みを変えなければ、このVer.13もしくは他メーカーが同等レベルのシステムを開発しても、動画と同じ状況で公道を走る事は不可能です。
それにしても、私が退社する直前の2018年、「運転が怖い」と言う後輩の女性アナウンサーから「ナビに目的地をセットしたら、後は車が連れて行ってくれるクルマって無いんですか」と訊かれた際、「当分は無理です」と答えたのを覚えているのですが、その6年後(その機能が市販車に搭載されたのが2024年ですので)に、アメリカの正に「公道」で、その模様を目の当たりするとは思っていませんでした。
私は運転が何よりも好きな人間なので、仕事終わりに新潟から運転を楽しんで帰ってきましたが、前日少し睡眠不足だった事もあり、集中力が一瞬も途切れなかったかと問われたら即答はできません。もちろん居眠りはしませんでしたし、もし少しでも眠気を感じたら休憩することを肝に銘じています。実際は運転が楽しすぎて眠気に襲われる事は殆どありませんが、私の様なドライバーばかりではないでしょう。
ちなみに現在、日本を走っている多くのクルマに搭載されているACC(アダプティブクルーズコントロール)などの運転支援は国交省が定めている「自動運転レベル0~5」の6段階(国際的な定義に準拠)の中の下から2番目の「1」に過ぎません。
一定条件下でハンドルから手を離す事が可能なものでさえ「1」と「2」の間、という定義になります。
出典:「自動運転に関する取組進捗状況について」(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001583988.pdf
あくまで運転操作の主体は人間のドライバーです。
一方、これまでのテスラのFSDはレベル2(レベル1のACCの機能に加えて遅い車を自動的に追い越すことができる。ハンドルから手を離すことができる)です。
しかし、今回のVer.13で走行したTさんは、レベル3どころかレベル4(ドライバーは運転席に座り運転状況を把握する必要はあるが、操作は目的地まで全てクルマが行う)に近いという感想を持たれていました。
ちなみにレベル5というのは、人間が運転状況を監視・把握する必要も無い(目的地の設定のみを行い、極論、寝ていても良い)文字通りの完全自動運転を指します。
実際に、この映像を前述の後輩アナウンサーが観たら喜ぶに違いありません。
勿論、今後アメリカで実際にこのVer.13のテスラ車が増えて公道で事故を起こさないか、被害が無いか試されるでしょう。日本では、レベル4以上だと市販車を通じて公道で「試す」事がまだ許されないのですが、様々な規制緩和を打ち出しているトランプ大統領の後ろ盾を得ているイーロン・マスク氏が率いるテスラ社は、AI開発に巨額な投資を表明していますし、益々、同社の自動運転開発が進んでいくことは間違いありません。
この間にも日本では人間の「ミス」による様々な事故や、人々の移動手段の喪失が続いていきます。
これからのモビリティーをどのように進めていくのか。
この動画を観て、あらためて考えさせられました。
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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