けんかをやめて~♪ Part2…安東弘樹連載コラム
今から、ちょうど9年前。2016年2月にこの「けんかをやめて~」というタイトルのコラムをこのGAZOOのサイトに上げました。
簡単に申し上げると、クルマ好き同士が、違う指向のクルマやその愛好家をネット上で叩き合う様子が悲しすぎて、仲良くしましょうという内容です。
9年前の対立構造は、当時の原稿を、そのまま引用すると、
「販売台数が多いクルマに対してのアンチ意見vsその意見に対する反論。
輸入車愛好者vs 日本車愛好者(特にアンチドイツ車)」といった感じでした。
とにかくネット上の目を覆いたくなるような罵り合いが凄まじく、同じクルマ好きをそこまで貶められるのが信じがたいと私は書いています。
そして、鉄道好き同士の間ではその様な現象は無いので、一クルマ好きとして少し恥ずかしいとした上で、個人所有が前提のクルマとはいえ、違う指向のクルマを揶揄したりする必要は無いのではないかと主張させて頂きました。
クルマ好き同士なのに
ちなみに今の対立は…。
エンジン車(ハイブリッド車も含む) vs 電気自動車(以下BEV)という構図になっています。
少し前には「エンジン車(以下ICE) vs ハイブリッド車(以下HEV)」という対立構造もありましたが、ハイブリッド車が日本で完全に市民権を得てから、その対立は殆ど無くなったと言って良いでしょう。
かつては、MT車 vs AT車。ガソリン車 vs ディーゼル車。など、とにかくクルマ好き同士は対立しがちです。
今のICE vs BEVの対立は、ネット社会が浸透した後だけに、より激しい対立になっているのが特徴でしょう。
私は現在、完全ICEのMT車とプラグイン・ハイブリッド(以下PHEV)とBEVを所有しており、結論から申し上げると、全てのクルマに満足していますし、愛しています。
どのクルマも存在し続けてほしいと思っていますし、無くなったら困るのです。
理由は、それぞれにパワーユニットとしての良さがあり、運転の楽しさも、それぞれに美点を私が感じているからです。
環境の話よりまずは運転の楽しさの話をすると、ICEのMT車は私にとって、自分の存在理由、と言って良いほど、シフトチェンジ、そのものの行為が人生の最上の歓びなのです。
ですからこれは、少なくとも私が運転できる内は残っていて欲しいですし、同じ歓びを感じる人が居る限り、絶滅はしないと信じています。
PHEVに関しては、自分の運転の工夫によって如何にバッテリーによるモーター走行を長くするか、即ちBEVの滑らかな加速を楽しみながら、減速時の回生を上手く使ってモーターによる航続距離を伸ばす事「自体」が私にとっては楽しみであり、結果驚くような燃費になった時はテストで良い点を取った時のような喜びにもなるのを楽しんでいたりもします。
BEVは、とにかくシームレスな加減速によって都内の渋滞は楽ですし、排気ガスを出さないので、例えば屋内に駐車をするときには気を使う必要がありません。
またこれは自分のBEVに関してですが、サイズが小さいので取り回しも楽で、ほぼ全ての立体駐車場に入庫可能なのも仕事に使う上で本当に助かっています。
そして何よりBEVは、充電する「電気の種類」を選べるのが特徴で、自分のガレ-ジにはソーラー発電器を設置しており、毎月売電していますので、家で充電する限りはランニングコストが掛からないのも、このガソリン高の状況の中でBEVを所有する大きな理由になっています。ちなみにソーラー発電器の初期費用分は間もなく(今年中に)、これまでの売電額の合計が上回ります。
これも私の個人的な事情ですので、全ての方には当てはまりませんが、少なくとも私にとっては3台全てのクルマが魅力的であり、それぞれを完全否定されたくないのを御理解頂けるでしょうか。
そして、それは私にとってだけではなく、クルマメーカーやサプライヤー、エネルギー会社などモビリティーに関する多くの事業者にとって、今はまだ全てが共存するべき時期なのは間違いないのです。
確かに数年前、ヨーロッパを中心に「ヒステリック」なまでのBEVへの転換が声高に主張されましたので、それに対する反感も理解はできます。そして現在、そのヨーロッパでも、その流れが少し変わって、ハイブリッド車が見直されてきているのも事実です。
しかし、それはBEVを全て止める、という事ではなく、BEV移行のスピードを緩める、という意味なのであって、それを見て「やっぱりBEVはダメだ」というのも、論点として少しズレているのではないでしょうか。
環境負荷を抑える、という観点でも、BEVは今現在は解決手段にはなっていません。実際にライフ・サイクル・アセスメント(LCA)(製品やサービスの原料から廃棄までのライフサイクル全体における環境の影響への評価)を見ると、ICEとBEVは少なくとも所有して8年位経つまではICEの方が環境への負担は少ないというデータもあります。
しかし、私の運用例にもあるとおり、この先BEVは電源の構成によって、その負荷の値は大きく変わってくる可能性は否定できません。
製造工場自体のエネルギー源によっても変わりますし、バッテリーのリサイクル率によっても変わってきます。
それはHEVにも言える事で、エンジンそのものの益々の効率化、モーターとの協調の効率化など、「のりしろ」はまだまだあります。
そしてエンジン自体の官能性や文字通りの爆発的、かつ良い意味での野蛮性は、やはり人間にとって必要なモノとして残るでしょう。
そう、お互いに罵り合う必要は無いと思うのですが如何でしょうか?
更に水素燃料電池車(以下FCV)や水素を燃料として使う水素エンジン車も開発が益々、進んでくるでしょう。
大雪とクルマ
地球の環境破壊の原因がエンジン車の排気ガスかどうかも意見が分かれますが、影響が全く無いとは思えません。雪が降る中、実際に自宅の玄関前でアイドリングしていたクルマのマフラーが雪で塞がれ、車内に一酸化炭素が充満して人が亡くなるという事故が今年もありました。
痛ましいの一言です。
そんな事故を知った時、私は自分のBEVでの経験を思い出しました。当然ですがBEVは排気ガスを出しません。BEVを批判するとき多いのが、例えば大雪で立ち往生が発生した時、BEVに乗っていたら凍死するという意見です。
しかし私が調べた限り、これまで立ち往生時にBEVに乗っていた人が凍死した、という事故は見当たりませんでした。
実は昨年末、長男が深夜に熱をだし、急遽、救急病院にBEVで送った事があります。病院は多くの人が集まっており、まるでラッシュ時の満員電車の様でした。
そして駐車場も患者さんを送ってきたであろうクルマで満車状態。気温は0℃前後でしたので全てのクルマがアイドリングをして待っています。病院の構造上、クルマの後ろ側が通路で、しかも屋根があるので、多くの患者さんや御家族が、マスクをした上で口を押さえて歩いていました。
私も歩いたのですが、すらりと並んだクルマから出る排気ガスの臭いが充満していたのです。残念ながら多くのHEVも長時間の停止になるとエンジンが掛かってしまいます。
でも、その時の寒さを考えると、しかたがありません。
そんな時、私はBEVの電源を入れて、当然ですが、排気ガスを一切出すことなくシートヒーターを付け、暖房も十分効かせて暖かい状態のまま待つ事が出来たのです。長男の診察が終わるまで2時間弱。50%ほどのバッテリー残量で2時間、シートヒーターと暖房を付けて待った後、バッテリー残量は1%しか減りませんでした。シートヒーターは暖まり過ぎで暑くなったので途中で消す位だったのです。
この様な経験は今まで無かったので、どうなるか不安でしたが、拍子抜けするほど、BEVは寒さの中トラブルもなく家族を温めてくれました。
ただ、私のクルマは「ヒートポンプ式(少ない電力で大きな熱エネルギーを得る事が可能)」のエアコンですので、暖房をつけながらの待機でも問題はありませんでしたが、そうではないBEVの場合は状況が違うかもしれません。
またこれが24時間単位で、しかも気温がマイナス10℃以下の場合、同じ状況かどうかは分かりませんが、ICEやHEVの場合、少なくとも降雪時の立ち往生の場合、頻繁にマフラーが埋まっていないか確認する必要がありますので、これもどちらが優れているかは断言出来ません。
けんかをやめて
この様に、どちらにも利点・欠点、得手・不得手が有りますし、走行の特徴の好みもあるでしょう。
ただ、一度もBEVに触れた事が無いのに、「BEVはゴミ」とか「BEVに乗っている人は頭が悪い」などと批判するのは止めて頂きたいですし、それに対して口汚く反論するのも止めて頂きたいと切に願います。
クルマに興味がある、クルマが好きな者同士じゃないですか…。
9年前と同じく、竹内まりやさん作詞・作曲による、河合奈保子さんの楽曲「けんかをやめて」を口ずさみながら執筆させて頂きました。
安東弘樹