究極の晴れ男…安東弘樹連載コラム
富山(高岡市)、新潟(長岡市)、青森(酸ヶ湯温泉)、山形(上山市)、岩手(盛岡市、花巻市)。これらの地名、私がこの冬、1月中旬から3月上旬までに訪れた街です。
雪上インプレッションをお伝えするはずが
何故、これらの街を訪れたかと申しますと、新しいスタッドレスタイヤのインプレッション、そして寒冷地でのプラグイン・ハイブリッド車の燃費や充電の状況を記事や動画で紹介しようと思いまして、ありとあらゆる豪雪地帯を選んだという訳です。
しかし、結論から申しますと、少なくともスタッドレスタイヤの記事を上げる事はできませんでした。何故なら、それらの場所を訪れた際、路面に雪が存在したことが無かったからです。
どこも路肩には雪が積もっています。酸ヶ湯温泉では3メートルほど積もっていましたが、路面に雪はなく、終始アスファルトがしっかりと見えていました。
日本有数の豪雪地帯である酸ヶ湯温泉を訪れ、路面に積雪が無かったのは、これで3回連続です。いずれも雪が最も降るとされる1月下旬です。
今回は、ある日本メーカー主催の新型車の「雪上」試乗会で訪れましたが、メーカーの方も、青森市内だけではなく酸ヶ湯にも積雪がない事に頭を抱えていて、参加したジャーナリストや媒体の皆さんに平謝りという感じでしたが、勿論、メーカーの方が参加者に謝る理由はありません。天候のことは誰のせいでもありませんし、正に不可抗力です。
しかし、私こそ、メーカーやジャーナリストの皆さんに謝りたい気持ちでしたし、実際に謝りました。「私のせいかもしれません」と。いきさつを話すと、「それは安東さんのせいですね!」と笑いながら返して下さいましたが、むしろ、それで気楽になったものです(笑)。
3回連続でと書きましたが、実は最初の訪問の時も、1cm未満くらいの積雪でしたので、正確に申し上げると4回、酸ヶ湯温泉を訪れて、所謂「豪雪地帯」の様相を感じた事が無いのです。勿論路肩には常に雪の「壁」を見る事ができましたので、豪雪地帯というのは理解できますが、最初の訪問時以外は、極論スタッドレスタイヤを履いていなくてもノーマルタイヤのまま往復できてしまう状況でした。
勿論、それぞれの地元の方にとっては、その様な状況の方が良いのは重々理解はしていますが、私としては「少しくらい」は積雪があっても良かったのに、と思ってしまいます。
外から来て、「勝手なことを言うな」と言われると返す言葉もありませんが…。
ただ、5年前の2回目の訪問の際、酸ヶ湯温泉近くの八甲田ホテルのレストラン支配人が「1月下旬に路面のアスファルトが見えているのは人生で初めてです」、更には「不便は少ないですけど、雪景色を求めていらっしゃるお客様が残念な思いをする様になったら困ります」とは仰っていました。地元の方も観光に携わっている方は、雪を願う側面もあるようです。
今年の冬は寒波が度々訪れ、場所によっては「観測史上最高」の積雪を記録した所もある中で、私は最初に書いた街全てで積雪0の状態の時に訪れました。
高岡市を訪れた際、何としてもスタッドレスタイヤの性能を確かめたくて、無理矢理?高岡市から南砺市の相倉合掌造り集落を訪れ、ほんの2~3kmほどの道のりだけ積雪路を走ることが出来ましたが、本当にこの時だけスタッドレスタイヤが雪に触れた、と言っても過言ではありません。
しかも、いずれも「一昨日までは凄い雪だったんですよ!」とか、私が帰った翌日に「今日、凄い雪が降ってます!」と地元の知人の方がSNSで知らせてくださったりと、そんな事ばかりでした…。
実は昨年も同様の状況でしたので、今年は仕事の休みは全て雪国に行って記事を書く!という目標を立て、家族にも了承を得て、正に隙間を縫って体力的に無理のない範囲で、と言いながらも、若干老体に?ムチを打って雪国に向かった挙げ句、この有様でした。
ですので、タイヤに関する記事は1本も書いていません!いや書けませんでした。
一応、私の「雪が無い」という愚痴だらけのYouTubeの動画は上げていますので、もし興味がございましたらご覧下さい(笑)。
価格高騰はいたるところで
そして私がこんなに嘆いているのには、記事が書けなかった、という他にも理由があります。
まず購入したタイヤですが、勿論完全に個人の自費で購入しました。その価格ですが、タイヤサイズが大きい、またランフラットタイヤのスタッドレスということもあり、驚愕の価格でした。それでも近所のタイヤショップで価格は抑えて頂いたのですが、私が48回ローンで購入した5年落ち、でも人気の車種だった人生初の愛車より高かったのです。これまでもスポーツカー以外の愛車には全て冬場にはスタッドレスタイヤを装着してきましたが、恐らくこれまでの最高額の倍、以上でしょう。
元々装着しているタイヤサイズがかなり大きい為(後輪は305/40R20)そもそも、スタッドレスタイヤの数が少なく、同サイズのタイヤは諦め、一応メーカーに「許容」されているダウンサイズした19インチの幅も少し狭いタイヤにしました。
それでも、5年落ち中古のコンパクトカー以上の価格です。
タイヤショップに一般的なサイズのスタッドレスタイヤの価格も伺ってみましたが、明らかに2、3年前に比べて、驚くほど上がっていました。
だからこそ、記事を書くだけでなく、思う存分効力を発揮させたかったというのもあります。
それこそ、タイヤが一度も雪に触れなかった場合、購入した意味が無いというものです。
勿論、「保険」にはなりますが、保険のためだけだったら、あまりにも負担が大きいではないですか。自分で選んだ道ですので、愚痴を言ってもしかたがないのですが。
しかし私個人の負担はともかく、昨今の物価高をこんなところにも感じて、普段「冬場に車に乗る場合は、間違ってもノーマルタイヤで走らないようにしましょう」などと、放送や配信で発信はしていますし、勿論それは間違ってはいませんが、こんなにもスタッドレスタイヤの価格が上がっていると、その発信も憚られます。
物価は上がっているが景気は停滞している「スタグフレーション」という現状を、まざまざと突きつけられた形になりました。
更に、今年これらの雪国に赴いた際の宿泊費、ガソリン代、世界でも希に見る高額な高速道路料金を含めて相当の費用が掛かりました。いずれもPHEVの愛車での旅路でしたが、普段はソーラー発電器でつくった電気を充電したモーターだけで走っているこの車も、長距離になるとエンジンを多く使います。
しかもハイオク・ガソリンですので、単価は全行程の中で200円/Lを切っていたのは、自宅近くのガソリンスタンドと、ほんの数カ所だけで、高速道路のSA内のスタンドに至っては210円/Lを超えている所も有りました…。
宿泊代は、都市部や代表的な観光地ほどではないものの、やはり高くなっていますし、高速道路代は勿論高いままです。
気候変動を身をもって感じる
そして、「晴れ男」というタイトルを付けましたが、勿論、一人の人間が天候を左右することなどありません。私の巡り合わせが悪い(良い?)のは確かですが、実際に雪国において、短期間での「ドカ雪」は増えているものの、通年の積雪量という意味では減っているそうです。
これは気候変動によるものだと言われていますが、私が積雪に出会えなかったのも純粋に、積雪が無い期間が増えているという事でしょう。昨年に引き続き、積雪に出会えなかったのは、徐々に進んでいる気候変動の影響だと身をもって痛感することになりました。
気候変動はすぐに解決出来るものではありませんが、景気の回復は人の力、特に政治で、そして、その政治を行う「人」を選ぶ我々の力で変えられるのではないでしょうか。
そんな事を雪の無い雪国の道を走りながら思いました。
安東弘樹