自分では説明できない長距離運転のゾーン状態…安東弘樹連載コラム

私は免許を取得して車を運転し始めてから、今までの約38年間、一回も運転を不快に感じたことは有りませんし、極論を申し上げると、疲れたと思ったことがありません。

生物学上、絶対に疲労を感じているはずですし、集中力は途切れることもあるはずなのですが、自分の感覚としては、いつまでも運転をし続けていたいのです。

私の運転スタイル

ずっと、「運転が好き」という感覚は持っていますが、初めて自分の「異常性」を感じたのは28歳の時、自分のクルマを運転して九州の宮崎県を訪れた時です。

その年の夏休みの旅行先を宮崎県の「シーガイア」に決めたのですが、私は最初から「クルマ」で行くことしか考えていませんでした。

「シーガイア」とは当時出来たばかり(1994年開業)の全天候型室内プールを付帯するリゾート施設で、人工ビーチでは人工の波を発生させることで、「室内プール」でサーフィンができるという触れ込みの、バブル期ならではの「お金を掛けた」観光スポットです。

当時、私は横浜に住んでいましたので、東名高速道路→名神高速→中国自動車道などを経由して九州に入り、宮崎県に到着。所要時間は14時間ほどだったと記憶しています。

途中、トイレや食事はしたものの、所謂、休憩というものは取らず、ひたすら一人で運転していたのですが、途中睡魔に襲われることもなく、それどころか、ずっと楽しくて楽しくて仕方がなかったのです。

結果、4回ほど、サービスエリアに寄っただけで私の感覚としては、「あっという間」に宮崎に着いてしまいました。
実は到着した後もクルマから降りたくなくて、10分ほどホテルの駐車場で余韻に浸っていました(笑)。

その時から「自分はどれだけ長い時間を運転しても、運転を止めたいと思わない」ことを確信しました。

勿論、これは勧められたことではありませんし、長距離を運転する場合、基本的に2時間に1度は休憩するべきです。

唯、私は一回「ゾーン」に入ると、気付くと5時間ほど時間が過ぎてしまい400km
~500km、走行している時があるのです。

しかも5時間運転した後、トイレに行ったとしても、用を足している間も早く運転がしたくなり、駆け足でクルマに戻る時さえあります。

自分でも「異常」だという認識はあるのですが、どうしてこんなことになるのか理解はできません。

日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員になった時は、私の「同類」が沢山いらっしゃるだろうと思いましたが、その後、日本自動車ジャーナリスト協会員になった際にも、私の様な方はいらっしゃいませんでした。

共に平均年齢が高いのが(失礼!)理由だと思ったこともありましたが、その後、若い方でも私と同じ様な方とは、現状お会いしたことはありません。

極論、もし空腹やトイレに行きたくならなければ、一瞬も運転を止めたくないのです。

これは誇張でも、虚言でもありません。

この原稿を書いている今も、運転がしたくてたまりません(笑)

医学的にも心理学的にも、私の様な人間を説明できる方がいらっしゃったら分析して頂きたいと思っていますし、研究対象にして頂きたいくらいです。

宮崎に行って味をしめてからは、横浜(独身時代)や千葉(結婚後)から西の東海地方は勿論、大阪、京都など近畿地方、鹿児島県の指宿や知覧、大分県の別府、福岡県など、九州地方、中国地方の広島県や岡山県、北は北海道、青森県、など、沖縄県以外の全ての都道府県に自分のクルマを自分で運転して訪れました。

基本的に目的地まではノンストップで、トイレ、食事のために途中で停まることはあるものの、宿泊はしたことがありません。

多くの場合、目的地で宿泊はしますが、旅の途中で運転を止めたくないのです。

もうすぐYouTubeに動画を上げますが、先日も千葉の自宅から岩手県花巻市まで、気付くと、文字通りトイレにも行かず500km以上をノンストップで走りきってしまいました。本当に一瞬の眠気も疲労も感じることが無かったので、「気付いたら到着していた」という感覚なのです。

何度も申し上げますが、この様なことを真似はしないで頂きたいのですが、同時に、同じ感覚の方にお会いしたいという気持ちもあります。

運転を止めたくないが故に

そんな運転に取り憑かれている?私ですが、実は自動運転の実用化を待っています。中国やアメリカでは「実質」自動運転レベル3か4と言える様なシステムがインストールされているクルマが公道を走っています。中国では既に無人タクシーをアプリで利用出来る地域があり、その実情をYouTubeで見ることができますが、中国の公道で見事に自動運転によって運用されているクルマを見ると、恐怖と羨望の両方を感じます。

私は運転が正常にできる限りは自分でステアリングを握りたいと思っていますが、レベル3~4が実用的になると、普段は自分で運転して、それこそ空腹を覚えたり、トイレに行きたくなった時(勿論同乗者がいる時はトイレは遠慮しますが)だけ、自動運転に切り替えれば、それこそ九州だろうが北海道だろうが、一回もクルマを降りずに済む様になる訳です。

我ながら、「何言っているのか分からない」と呆れますが、運転をし続けるためにも自動運転の実用化を待っています。

ちなみに運転を止めたくないという感覚は、走行会などでサーキットを走っている時も発動します。

走行会の持ち時間が1時間、2時間と決まっている場合は、休憩を取る時間が勿体なくて、基本的に持ち時間中はずっと走っています。
サーキットを走る運転技術は、未熟、の一言で、富士スピードウェイを走ることが多いのですが、1周のタイムは2分10秒~20秒ほど。クルマのためにも1回から2回ほどピットに戻ってクールダウンをして軽く点検はしますが、基本的に1時間でも2時間でも走りっぱなし、ということが殆どです。

レギュラー番組のスポンサーが主催してくださる走行会の場合は、局のスタッフが自分の愛車で参加する時もありますが、ずっと走っている私の姿を見て、走行会終了後に「え?何で休まないんですか?疲れません?」と訊いてきます。
それに対して「サーキットを走れる機会は少ないので、1分でも無駄にしたくないんです」といつも私は答えます。スタッフは大体、2周してピット、パドックに戻り20分ほど休んで、残り2周して終わり。というパターンが多いのですが、私からしたら「何と勿体ない!」という気持ちです。
これは本当に正直な言葉で、全開でクルマを走らせられる機会は滅多にありませんので、本当に1分でも1秒でも全開走行をしていたいのです。

私は今年58歳になります。トライアスロンやマラソンなどをやる体力は元々ありません。
それどころか、今は1kmや2kmを走るのがやっと、という身体です…。

でも運転だけは、今のところ「永遠に続けていられる」という感覚なのです。

原稿を書いていても、自分のことが気味が悪いくらいですが…、私のこの様な状態を論理的に説明して下さる方、どなたかいらっしゃいませんか?

文:安東弘樹 写真:写真AC