数字で見るBEVの技術革新…安東弘樹連載コラム

皆さんは「電気自動車は燃えやすい」というイメージを持っていたり、実際にそんな話を聞いたことはありますか?インターネット上では、まことしやかに語られることもありますが実際には、どうなのでしょうか?

数字で見るBEV

数字で統計はないものかと思い、調べてみました。すると驚きの数字を目の当たりにすることになったのです。アメリカのデータにはなりますが、国家運輸安全委員会(NTSB)と運輸統計局(BTS)等の情報をもとに、2024年アメリカの保険会社関係の機関が発表したデータによると、販売車両10万台あたりの火災発生件数は、ハイブリッド車が3,474.5台、ガソリン車が1,529.9台に対し、BEVは25.1台と圧倒的に少ないことが分かります。
(参考:AutoinsuranceEZ.com『Gas vs. Electric Car Fires in 2025 (Shocking Stats)』

同様の日本のデータは見つかりませんでしたが、このデータはアメリカの保険会社にとっては保険料算出の元にもなることから、何かに忖度したとは思えず、事実なのだと思います。

私は、このデータを見て驚きました。
火災が発生したハイブリッド車のメーカーが公表されている訳ではありませんので日本メーカー製のクルマがどれだけ含まれているかは分かりません。

但し年を遡るとBEVの火災発生件数が少なくないことが分かりますので、年を追う毎にBEVの安全性が高くなっているということの証左にはなるでしょう。2025年現在は、もっと件数は減っているかもしれません。

そして、もう一つのデータは「自動運転」に関する数字です。アメリカのBEV自動車メーカー テスラ社が発表した、テスラの自動運転システムFSD(フル・セルフ・ドライビング)による事故件数と非FSD車による事故件数の比較データになります。

それによると2023年のアメリカにおける走行距離100万マイルあたりの平均事故件数1.49件に対して、FSD車の平均事故件数は0.21件。つまりFSD車の事故率はアメリカの平均事故率の7分の1ということになります。但し、このデータはあくまでテスラ社が発表したものですので、第三者機関による検証は必要とも言われています。
(参考:Tesla.com『Impact Report 2023』 P148)

その反面、この2年間のFSDの進化は目覚ましいものがありますので、むしろ、この差は更に開いている可能性もあります。唯、言えることは人間の運転による事故が劇的に減ることは難しいのですが、自動運転(正確に言うと現状、運転支援)の進化は日進月歩で進んでいく、ということです。

現実にBEVや自動運転の技術の進化はとても早く、例えば私が2年前に購入したBEVは、その電費や充電性能が既に時代遅れになっていることを最新のBEVに試乗する度に実感します。エンジンのクルマの場合、装備や運転支援など、パワーユニット以外の進化はあるにしてもエンジン自体が2年で時代遅れにあることは、そうそうないでしょう。
ですから、これから、両者(BEVや自動運転)について語るときは常に最新のデータや実情を元にしなければ、その言葉自体が「時代遅れ」になってしまいかねません。忙しい時代になったものだと痛感します。

この「スピード感」、日本社会は苦手分野と言われています。
先日、ある新型車の試乗会で某日本メーカーのエンジニアや広報の方とお話した際、「BEVだけではなく、例えばドイツメーカーはマイナーチェンジもしていないのに、下手をしたら1年毎にスペックが向上したクルマが、しれっと発表されていて、1年前のモデルが「旧型」になっていることがありますが、日本メーカーのクルマの場合、新車として発表された後、4年経ってマイナーチェンジをする際にもパワーユニットのスペックが全く変わっていないこともあります。この差はなんでしょうか?」と伺ったところ、「我々は、スペックが変わると、その度に『型式認証』を受けなければならないので頻繁にスペックを変える訳にはいきません。ドイツメーカーは、その辺りが我々とは違うのだと思います。」との返答を頂きました。
納得したような納得できない様な不思議な感覚を覚えました…。そして「一事が万事」、という言葉が頭に浮かんだのです。

善し悪しは別にして、中国の「群雄割拠」と言われる多くのメーカーによる自動運転の精度競争による進化やBEVのスペックが半年ごとに、どんどん上がっていくのと比べた時、この時代に我が国の制度自体を根本的に見直す必要があるのではないかと感じざるを得ません。そして、それは我々ユーザーも意識しなければならないのだと思います。

BEVの進化成長

冒頭に申し上げた「電気自動車は燃えやすい」というイメージは、恐らく10年以上前の2013年~2014年前後に、テスラの車両火災のニュースが頻繁に伝えられた時のイメージのまま止まっているからなのではないかと思います。ここ10年の安全面を含めたBEVの進化は我々の想像をはるかに超えています。それは火災発生件数だけでなく、航続距離や利便性など全てに於いてと言えます。

実は原稿を書いている正に今日の午前中、あるドイツ・スポーツカーメーカーのイベントのトークショーを担当させて頂いたのですが、内容は、そのスポーツカーメーカーから販売されるBEVの魅力を伝えるというもので、私の実体験を元に「忖度無し」でそのBEVの魅力をお話しさせて頂きました。
トークショー終盤の質疑応答の時間になると、ある方から(仮にAさん)、こんな質問が来ました。
「私は15年程前に当時発売されたばかりの某メーカーのBEV(仮にB)を1週間借りて旅行に行ったのですが、酷い目に遭いました。旅行を楽しむどころか充電器を探す旅になってしまい、それ以来、二度とBEVには乗らない。と決めました。このメーカーのBEVは、そんなことにはなりませんか?」という内容です。

私は思わず苦笑い…。ちなみに、そのBEVの当時の駆動用バッテリーの総電力量(以下バッテリー容量)は24kwhですので恐らく実際の航続距離は100km程度だったでしょう。しかも完全にバッテリーを空にする訳にはいかないので、その方がおっしゃる通り「充電器を探す旅」になったのは想像に難くありません。

そう、正にそこが問題なのです。日進月歩のBEVは、ここ15年でバッテリー容量は大幅に増え、「電費」自体も良くなっているので「リアルに」満充電で500km走るクルマも珍しくありません。
私が所有しているBEVはBの2倍のバッテリー容量ですが満充電後の航続距離はBの3倍ほどになります。ですので、過去に乗った経験は、特にBEVの場合は全く参考にはなりません。5年前のBEVと比較しても、かなり違うと思います。まだ成長過程だからこそ「伸びしろ」が大きいのです。

数字でイメージもアップデート

仕事柄、だけではなく私は小さい頃から「スペック」を覚えるのが好きでした。勿論、スペックだけでは測れない魅力や感覚は沢山あるのですが、一方で「スペックは裏切らない」という側面もあります。BEVの航続距離はバッテリー容量と重量と出力で、大体、想像できますし、これまでの経験上、それで導かれた航続距離などに大きな乖離が生じたことは殆ど有りません。

もう一度申し上げますが、「数字は全てではありません」しかし火災発生件数や事故件数などハッキリとしたデータは大いに参考にしても良いと思います。更にクルマの「スペック」も同じように「参考」にはなると思います。

BEVの場合、エンジン車よりも更に数字で計れることは多いので、もし「BEVに興味がある。または購入を考えている」という方、対象のクルマやメーカーの数字データを調べると安全面も含めて、ご自分の好みやライフスタイルに合うかどうかが見えてくるはずです。
勿論、「デザインが好き」という基準で選ぶのは否定しませんが、BEVの場合は数字で、その技術の進化を計りやすい、ということをお伝えして今回のコラムは締めさせて頂きます。

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