ライドシェアどう思いますか?…安東弘樹連載コラム
最近、PIVOTやNewsPicks、ReHackなどのビジネス映像メディアが増えています。
私も視聴する機会が増え、私なりに見聞を広げているつもりです。勿論、全ての情報を鵜呑みにするつもりはありませんし、あくまで知らなかったことを知る、専門家の意見を聞く手段にさせていただいています。
それらのメディアで最近語られる機会が多いテーマが「ライドシェア」です。近年、世界各国で「ライドシェア」が急速に広がっています。
ライドシェアとは
御存知の方も多いとは思いますが、スマートフォンアプリを通じて、空いている車を持つ人と移動を必要とする人をマッチングするサービスで、始まった当時はタクシー業界を揺るがす存在として登場しました。
UberやLyftなどはその代表格で、都市部の移動手段に大きな変革をもたらしました。東南アジアなどではGrabというアプリが、すっかり市民権を得ています(私が頻繁に観ている「旅系YouTuber」さんも彼の地でのヘビーユーザーです)。
日本のライドシェアはどう進むのか
日本においては賛否が渦巻いており、なかなか普及には至りません。
あらためて、ライドシェアの特徴は「利用者の利便性」と「ドライバーを選べる」という、これまでにない柔軟性にあるでしょう。利用者は従来のタクシーよりも短時間で車を手配できる場合が多く、また海外の例をみると料金も割安に設定される場合が多いようです。
一方、ドライバーも自分の空き時間や移動ルートに合わせて乗客を運ぶことができますし、副収入の手段となります。
更に利用者とドライバーが、お互いに評価し合うので、運用が続くほど、お互いにとって不快な思いをする頻度も減るというメリットも、推進したい方は強く推すポイントとなっています。
この点については、私も個人的に同意する部分で、ライドシェアに反対する方の意見として、「双方の安全性について担保ができない」というものが多いのですが、誤解を恐れずに申し上げると、これまでタクシーに於いても、双方が犠牲になる事件が皆無であった訳ではないので、これまでのタクシーには無かった評価システムは、むしろ安全性に寄与するのではないかと思います。
実際に既にライドシェアが普及している国では、交通手段の一つとして有益に機能しています。
アメリカの都市部では、タクシーよりもライドシェアの方が一般的になっている地域もあり、ロンドンやシンガポール、インドなどでも普及は進み、移動の選択肢として社会に定着しています。
注目すべきは「公共交通を補完する役割」という面でしょう。バスや鉄道の駅から自宅までの近距離をカバーする交通手段として、ライドシェアは非常に相性が良く、郊外や深夜帯のようにタクシーが捕まりにくい場所・時間においては、ライドシェアしか頼れない状況なのは日本でも同じなのではないでしょうか。
ただ、日本では道路運送法により、無許可の有償ライドシェアは長らく「白タク」として禁止されてきました。
しかし、観光地や地方都市ではタクシー不足が深刻化しており、特に高齢化が進む地域では移動難民の問題はより深刻です。この状況を受け、「一応」政府も規制の見直しを進めつつあり、条件付きで「地域限定ライドシェア」や「タクシー事業者が管理する形でのドライバー活用(日本版ライドシェア)」などの運用は始まっています。
しかし、今回のコラムの最初に言及した、某ビジネス映像メディアの番組内で公開されていた「政府と諮問委員の方々の意見交換会」の様子を観ると、なかなか政府として前向きではない様子が見て取れました。
実際に、この意見交換会に参加した諮問委員の方が番組内で仰っていたのは、「政府の中には前向きに動いてくださる方もいるが、政府全体としては、新しいこと(ライドシェア)をやるのは面倒くさい、大変だと感じているのだろう」とのこと。
確かに、数々の業界団体と交渉して、説得して制度を決める、そこには様々なハードルがありそうです。
しかし我々ユーザーとしては、普段の移動の利便性の向上や観光地などでの移動の担保、さらにドライバーの副収入や移動コストの低減など経済的なメリットも期待できます。
個人的には過疎地での利用や高齢者の移動の自由を担保できるか、には疑問が残ります。(そもそも過疎地でドライバーの担い手が存在するか、高齢者がアプリを使えるか、など)
しかし偶然にも、まさに今日、その点でもライドシェアの必要性を目の当たりにする出来事がありました。
移動の多様性
私は今日、定期的に通っている近所の病院に行き、薬を処方してもらい、待合室で薬をもらうのを待っていました。
すると、薬局の受付の方が、薬をもらったばかりの御夫婦(恐らくお二人とも80代以上)をご自宅まで送るためのタクシーを呼んでいる電話の会話が聞こえてきたのです。「二人をご自宅までお願いします」
すると「そうですか…、お客様と相談してみます」と話して電話を切りました。
受付の方は、その御夫婦に「2社のタクシー会社に電話をしてみましたが、今、タクシーが無いそうです」と申し訳なさそうに伝えます。すると御夫婦は、「暫く、ここで待たせてもらって構いませんか?タクシーが空くまで待ちます」との御返事。
正に喫緊の課題だと痛感したのです。
ちなみに私が住んでいるのは千葉市内の住宅街で、過疎地ではありません。この病院と薬局は小さいながらも多くの患者さんが通う場所です。そんな地域でさえ、移動がままならない方が少なくないのです。
少し手が空いていそうでしたので、薬局の方に、「こういうことは多いのですか?」と訊いてみたところ、ここ1、2年でタクシーが使えないことが増えたそうで、困っているとのこと。
そこで「ライドシェア」については、どう思いますか?と重ねて伺ったところ、あまりライドシェアについて御理解はされていないようでしたが、「誰かが、あの様な御夫婦をご自宅まで安全に届けてくださるのなら頼りたい」との御返事でした。
その「安全に」というのが担保されるかどうかが最大の課題だとは思います。
例えば、割合としてタクシーよりライドシェアの方が事故や事件が少なかったとしても、新規のシステムで、1件でも事故や事件が発生した場合、特にこの日本に於いては参入が滞る傾向があります。
それを我々ユーザーがどう判断するか。
さらにタクシー業界からの「既得権益の侵害」との反発が強い中、既存事業者との共存をどのように構築するのか。ドライバーの資格や運転技術、車両整備の水準をどう担保するのか。万一の事故対応や保険制度の整備はどうするのか。
そして、ライドシェアは既にアメリカや中国で実装されている自動運転タクシーとの兼ね合いまで現実味を帯びてきています。そういう意味では日本の論争は周回遅れになっていくかもしれません。そうすると将来的には「自家用車を所有する必要性」にも関わってきます(私には辛い時代が来るかもしれませんね…)。
そう考えると、今現在でさえ、タクシーかライドシェアか、という二者択一で考えるべき問題ではなく、双方が補完し合う「移動の多様性」が求められる時代に、利用者にとって安全かつ便利であり、提供者にとって持続可能である仕組みを築けるかどうか、それがこれからの日本社会の課題と言えるでしょう。
皆さんは、どうお考えですか?
私は薬局で見かけた御夫婦を、正直、自分のクルマで送りたいと思いました。ただ、いきなり見ず知らずの男が「ご自宅まで送りましょうか?」と申し出てきても、お二人も困るでしょう。ふと、「もしライドシェアが普及していたら、自分は登録するかもしれない」と思ったのは確かです。
ちなみに、これは良いことではないかもしれませんが、最近、週に2日程度はコンスタントに休める様になってきました(笑)。
私は、いくら運転しても足りないと常に思っていますので、「ライドシェア」は、この性質を利用できる数少ない仕事です。その上で移動に困っている方を安価で助けられて、収入にもなる。私個人的にはライドシェア、今回のことで前向きに考えるようになりました。
文:安東弘樹







