軽自動車の未来は?…安東弘樹連載コラム

軽自動車の乗り味

ここ最近、メーカー主催の新しい軽自動車の試乗会に参加したり、自宅近くの販売店に赴き、「一般の」ユーザーとして新型車を試乗する機会が数回ほどありました。

勿論、それぞれのメーカーによって、クルマには個性があり、力を入れるポイントも違い、そのデザインに感服することがあったり、使い勝手の工夫に唸らされたり、各メーカーのご苦労や努力を感じて、それはそれで頭が下がります。

ただ、私にとっては全ての軽自動車が同じ乗り味で、そこがやはり私が思う今の軽自動車の弱点だと感じました。

乗り味が同じ様に感じられるのも、当然と言えば当然で、私が試乗した全てのクルマが同じ排気量で同じ3気筒のNAエンジンとターボ付きの2種のパワーユニット。そしてトランスミッションも全てCVT。すなわちパワートレーンの「種類」が基本的に同じなのです。

十数年前までは4気筒エンジンのモデルが存在したり、それなりにメーカーや車種毎に個性が見られましたが、現在ではMTのスポーツカータイプの軽自動車も少なくなり、軽自動車の多くが同じ様なフォルム、パワートレーンに統一されたと言っても過言ではありません。

そして主流はハイトワゴンと言われる、スライドドア式のモデルです。
その中でも特に、車高が高く、ほぼ直方体のフォルムを持つスーパーハイトワゴンが人気で、軽自動車の新車販売台数の半分以上が、このカテゴリーで占められています。

室内も広く、使い勝手にも優れ、移動手段として人気なのは納得と言えるでしょう。

しかし、どのクルマに試乗しても、私がどうしても好きになれないCVTのラバーバンドフィールは「健在」で、交通の流れに乗るためにはアクセル開度が大きくなり、特に高速道路を走行すると実質燃費は悪くなります。

私は試乗する際には、走行前にトリップコンピュータをリセットし、燃費を検証するのですが、渋滞に遭遇することがなくても、20km~50km前後の距離を走行した後の燃費は、どのクルマも大体12km~15km/L程度で、この数字は少なくとも私が日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員になった2017年以降、殆ど変わっていません。

CVTの特徴として、所謂モード燃費が良くなる傾向があるためか、各モデル共にカタログ上は20km/Lを軽く超えていますが、実際は総じて「燃費が良い」という実感は少なくとも私は得たことはありません。
燃料タンクが小さいクルマが多いので実は航続距離も長いとは言えません。

長距離を走るドライバーが比較的少ないためか、実際に航続距離が短いという感想を持つ方は少ない様ですが、このガソリン高の時代に負担が増えていると感じる方はいらっしゃるのではないでしょうか。

そして何より、軽自動車の価格自体も高価になってきており、今や当初の軽自動車の役割が変わってきているのは明白です。

軽自動車の歴史と変化

では少し軽自動車の歴史を紐解いてみましょう。
日本で最初に軽自動車の制度が始まったのが1949年(昭和24年)ですが、実際に本格的に量産され始めたのは1955年でした。
その時の排気量は360ccまで。その後、サイズや排気量の拡大が続いていきます。

1976年(昭和51年)に排気ガス規制への対応や整備されてきた高規格道路を走行することを想定し、排気量が550ccまで引き上げられました。
1990年(平成2年)に排気量が660ccまで引き上げられ、衝突安全性能の向上や様々な快適装備も装備されるようになります。

そして1998年(平成10年)にはボディサイズが少し拡大し、それ以降現在まで規格は変わっていません。

今回、このコラムを書くためにあらためて調べてみて驚いたのですが、既に27年間に渡って規格が変わっていないのです。その間、自動車そのものを取り巻く環境や技術革新はかなり進んでいるのですが、言葉を選ばずに申し上げると、軽自動車だけ放置されていると感じるのは私だけでしょうか?

出力の自主規制が64PSになったのは上限の排気量が550ccだった1987年で、それ以来変わっていないのにはもっと驚きました。
実に38年間も変わっていないのです。

しかし、安全装備や快適装備は、その間もずっとアップデートされており、重量、価格ともに3、40年間で約2倍になりました。

しかしエンジン出力やサイズの規格は同じまま。室内空間の捻出のために車高を高くするのは当然の成り行きかもしれません。
そしてカタログ値はともかく、実質燃費の向上を実現するのが難しいのも理解できます。

11年ぶりのフルモデルチェンジを果たした、ある軽自動車の試乗会で、テストドライブが終わった後、動力性能の向上を感じることができず、メーターの燃費計を見ると、燃費もあまり芳しくなかったので、11年前のモデルとパワートレーンは、どこか変わった所はありますか?と開発担当のエンジニアに伺ったところ…、

「変えた所はありません」との返答。
伺った私の方が気まずくなり、実に変な空気になってしまいました。

ヒンジドアから電動スライドドアに変わったこのモデル。重量増もあるため、当然実質燃費が良くなる訳はありません。

私はこのモデルを糾弾したい訳ではありません。むしろ軽自動車を取り巻く環境に対して危惧しているのです。

規格は30年近く変わっていない中で、周囲の環境だけが変わっており、コストを掛けられず技術革新もままならない状況で、原材料費高騰や安全装備の向上などにより価格は上げざるを得ない。

しかし、最後に規格が変わった年(1998年)と現在で日本人の平均年収は変わらないどころか、微減している現実があります。

更に今後、排気量の拡大の噂もありますが、税額は上がることはあっても下がることは考えにくいでしょう。

コストを鑑みると劇的なエンジン性能の向上は難しく、今や実質燃費のアドバンテージは軽自動車には無くなっています。

そして、2022年に発売された日本メーカー2社の軽自動車規格のBEV(電気自動車)の2車種(実質1車種)も、発売以来、電費や出力性能の向上は見られません。

その間に韓国メーカーからは全長3.8m 全幅1.6m 全高1.6mという日本の軽自動車と普通登録車の中間位のサイズで、電気自動車としての動力性能も航続距離も日本の軽自動車規格BEVを大きく上回るクルマが日本市場に登場しました。

更に、日本の軽自動車規格に合致する「軽電気自動車」の中国メーカー参入もほぼ決まっています。

諸般の理由から爆発的に普及するとは思えませんが、価格も含めて日本メーカーの脅威になることは否定できません。(先述した韓国メーカーのコンパクトBEVは各種補助金を差し引くと電動ガラスサンルーフやシートベンチレーターまで付いた上級グレードでさえ、日本の軽自動車のターボ車など高機能装備車とあまり変わらない価格になります)

軽自動車の未来

長年、日本国内で独自の進化を遂げてきた軽自動車ですが、長引く不況の中、原材料費や燃料そのものの高騰への対応をどうするか。
そんな中、長年アップデートされない規格などで、性能的に限界が見えてきた日本の軽自動車の未来は何処へ向かうのか。最近、軽自動車の「最新モデル」に触れるたびに、そんなことを深く考えるのです。

試乗会などで、私はメーカーの方に将来の自社の軽自動車の方向性、ビジョンなどを伺うのですが、企業秘密で言えないという雰囲気ではなく、「本当に悩んでいる」のが伝わってくるのです。

新車のパワートレーンが11年前と同じ、というのを教えてくださったメーカーのエンジニアの方が「暫くは、これで勘弁してください」と苦笑しながら仰っていたのが、とても印象的でした。
私は別に、そのメーカーやエンジニアの方を責めたかった訳ではなく、近年の軽自動車の進化を知りたかっただけなのですが、その試乗会の後、私の心の中に浮かんだ言葉は…「心中、お察しします」でした。

ただ、最近お話しを伺う各メーカーのエンジニアの皆さんは「若い」のが特徴で、静かではありますが「闘志」のようなものが漲っているのを感じています。

その若いエンジニアの方々が必ず、日本の軽自動車界に新しい旋風を巻き起こしてくれると私は信じて待つことにしました。

軽自動車の未来は明るい!
そう思いましょう。

文:安東弘樹