ジャパンモビリティショー2025 正直な感想…安東弘樹連載コラム

2025年10月31日(金)から11月9日(日)まで開催されていた(一般公開日)ジャパンモビリティショー2025(以下JMS)、私はプレスデー2日目の10月30日(木)と、自分がトークショーを担当した11月2日(日)の2回、観に行ってきました。

過去最多の522の企業、団体が出展したのですが、今回の入場者数は101万人と前回(2023年)より10万人ほど減ったとのこと。ただ、3連休の中日ということもあってか、私が訪れた11月2日は大盛況という雰囲気で、前回と比べて入場者数が減ったというイメージは残りませんでした。

しかし、プレスデー2日目の10月30日の印象は、確かに「あれ?海外メディアの方が少ない?」という印象を持ったのも正直なところです。

その日は、日本カー・オブ・ザ・イヤー2025-2026(以下、COTY)の10ベストカー発表のセレモニーがあったので、そのイベント出席も兼ねていたのですが、セレモニーが終了したお昼12時頃から2時間だけ各ブースを見て廻り、TOYOTAグループが展示している南展示棟以外の西展示棟と東展示棟の出展ブースを全て見ることができました。(他に仕事があったので2時間が限度でした)。

  • ホンダブース:「Honda Super-ONE Prototype」「Honda 0」シリーズが並ぶ

  • 日産:新型「エルグランド」

  • 日産:国内導入が発表された新型「パトロール」

海外メーカー・ブランドの出展が少ない

プレスデーで、大方のブースを見終えたときの私の正直な感想は
「JMSはドメスティック・ショーになったな」というものでした。
ガラパゴスとまでは言いませんが、日本メーカーによる、日本人のためのショー、そんな印象だったのです。

これは反感を買うフレーズだと覚悟はしていますが、悪い意味だけではありません。

日本が独自の路線を歩んでいるとも言えます。

その根拠ですが、まず最近(2010年代の東京モーターショー時代から)進んでいる完成車の海外メーカー、ブランドの出展の少なさです。

  • HYUNDAIブース

今回、出展した完成車海外メーカーは、ざっくりと申し上げると5社。しかも、その内3社はアジアメーカー、中国のBYDと韓国のHYUNDAI(ヒョンデ)と、KIA(キア)。
キアは来年から日本に参入してくる、ヒョンデ傘下のメーカーですので、実質2社と言っても良いかもしれません。

  • メルセデス・ベンツ:新型「GLC」

欧米メーカーは、メルセデス・ベンツとMINIを含めたBMWのこちらも実質2社だけ。

イタリア、フランス、イギリス、アメリカなどの主要自動車メーカーの出展もありませんし、ある程度日本でも存在感があるドイツメーカー、ポルシェ、アウディを含めたフォルクスワーゲングループの出展もなし。

やはり寂しいと言わざるを得ません。

しかも、当日COTYの10ベストカーが発表されたとお伝えしましたが、10ベストカーのうち、6車は日本メーカーの車で、4車が輸入車でした。しかし、ノミネートされた車は35車なのですが、そのうち25車は(海外メーカーの)輸入車だったのです。10ベストに選ばれたのは、輸入車が25車のうち4車。日本メーカーの車は10車のうち6車。

「日本」カー・オブ・ザ・イヤーなので当然かもしれませんが、日本市場でそれだけの数の新車を出してきていた輸入車メーカーが、それでもJMSには出展しないというのは、海外メーカーがいかに日本市場での「アピール」に力を入れていないかというのが伝わってきます。

確かに日本市場では、まだ圧倒的に数が少ない電気自動車(以下BEV)が、輸入車では最近は中心にならざるを得ないため、日本のアピールの場で出展しないのは理解できます。
しかし、私が個人的に寂しいと感じたのが、最近、日本のユーザーにアピールしやすい、いわゆる、ストロング・ハイブリッド車を「怒濤の様に」と言って良いほど、リリースしてきたフランスメーカーも出展していなかったことです。

私の周囲でも、車業界以外のほとんどの方は、フランス車がハイブリッド車をどんどん出していることを知りません。

フランスメーカーは、ここ暫く日本でディーゼルエンジンを推してきました。
そして、日本のユーザーにディーゼルの良さが浸透してきた矢先に、一気に電動化が進み困っていた、という販売店の方は、日本で馴染みが深いハイブリッド車が増えてきたことで、「これからは日本のユーザーにアピールしやすくなります!」とおっしゃっていました。

私は、JMSがフランスメーカーにとって、そのことをアピールできる最大のチャンスだと思っていましたが、まさかの出展なし。
私が自車でお世話になっているフランスメーカーの販売店の方は、JMSでの出展がないと知り「正直、ガッカリです」と仰っていました。

お察しします。としか申し上げられません…。

更に私があらためて「ドメスティック」と感じた理由は、一般公開日に、実際に来場していた方々に直接お話しを伺えたからです。

ありがたいことに、私がブースを見て廻っている際に、来場している方にお声がけいただくことが時々ありました。

その際に10組20人ちょっとの方に、今回のJMSについて色々と感想を聞くことができたのです。

まず、今回のJMS全体の印象を伺うとほとんどの方が「凄い」「楽しい」というポジティブな感想をお持ちでした。

ただ、小さいお子さんの中には「混んでる」「苦しい」と正直な感想を話してくれたお子さんも複数いらっしゃいました(笑)。
確かに一般公開日はかなりの混雑で、これは仕方がないでしょう。

それから、今回輸入車の展示が少ないことをどう思いますか?と伺うと、15人ほどの方が「気がつかなかった」とのお答え。残りの方は「寂しい」「残念」との感想でしたが…。

これには個人的に驚きました。

以前のモーターショーでは、憧れの?フェラーリやランボルギーニ、ポルシェやロールスロイス、ベントレーなどの新車を目の前で見ることができ、もう少し身近なフランス車やイタリア車、また迫力のアメリカ製SUVやピックアップトラックなど、実際に購入するかどうかはさておき、実車のシートに座れる展示などには長蛇の列ができていたものです。

さらに輸入車に興味はありませんか?と伺うと大半の方は、「興味がなくはないが、現実的には考えない」とのお答え。もちろん「実際に所有しているし、大変興味がある」とお答えいただいた方はいらっしゃいましたが、少数派でした。

実際に、海外メーカーの輸入新車販売台数は、2024年度は前年比6%減と最近減少傾向が続いているようです。不思議なのは台数のデータは存在しますが、新車販売台数の内の輸入車の割合を調べても5%~10%と曖昧な数字しか出てこず、確かバブル期の最後1990年は輸入車シェアが初めて10%を超えたというニュースを私は覚えているのですが、今回調べても何故か1980年代後半から5%~10%を推移しているとのデータしか見つかりませんでした。国内新車総販売台数は出ていますので、純粋に輸入車の台数で割れば「率」は出るのですが、公的な資料がありませんので、ここでは控えておきます。

日本メーカーの数も多いので輸入車の割合が少ないのは当然かもしれませんが、国によって個性が異なる素晴らしいクルマも世界中に存在します。

しかも環境負荷を減らすため、各国のメーカーが様々な方向性で叡智を結集していろいろな車をリリースしています。日本の道路環境や住環境には日本車が合っているのは当然かもしれませんが、日本の自動車ユーザーでも様々な状況で車を使っているでしょうし、好みも違います。

もしかしたら、ある国の、ある車が、その人にピッタリとフィットするかもしれません。

フランスのハイブリッド車かもしれませんし、ドイツのBEVかもしれません。実際に今現在、BEVの方が生活に合っているという方は必ずいらっしゃるのです。

だとすると、自分に向いている車に気付かないまま生活をしている、ということになります。

現状、輸入車メーカーのラインナップの中でのBEV率は高くなっていますから、もしかしたらデザインを含めて、これまで考えたこともないメーカーの車に出会える可能性があるのが、こうした大きなイベントなのではないでしょうか?

だからこそ、私は寂しく感じたのです。

実はここ10年以上、映画業界や音楽業界などエンタテインメントの世界でも、人気が国内コンテンツに集中する傾向があるそうです。

もちろん、日本のエンタメコンテンツが素晴らしいのが原因の一つではありますが、世界で受け入れられる音楽や映画が、最近は日本で受け入れられない、というより接触されないという傾向があるそうで、日本で知られている海外のアーティストや俳優が20年以上、変わっていないのも特徴だとか。

トム・クルーズやブラッドピットなら分かるけど、欧米で大人気のティモシー・シャラメやオースティン・バトラーは日本ではあまり知られていない。ジャスティン・ビーバーやテイラー・スウィフトまでは分かるけど、ドージャ・キャットや今年のグラミー賞で最優秀新人賞を獲ったチャペル・ローンは知らないと言うように、世界中の情報を家に居ながらすぐに入手できる、このインターネット社会になってからの方が、むしろその趣味嗜好が国内に集中しているという、なんとも矛盾した状況になっています。

私は何も、もっと輸入車に乗るべき、海外の映画や音楽を好きになるべき、と言っているわけではありません。

ただ、世界にある選択肢を知らないままより、知ったうえで日本の車やコンテンツを楽しむ方が、様々な価値観に触れる機会に恵まれるのではないかと感じているのです。

ワクワクする「新しい」クルマに出会いたい

JMSでの日本メーカーの展示を見た私の感想は、今、街の販売店で買うことができるクルマか、内容が殆ど分からないコンセプトカーのどちらか、という印象でした。

私がこの様なショーで最も興奮するのは、近日発売になる、これまでの日本車の中では見たことがないような新しいクルマです。

例えば1995年の東京モーターショーでは、2年後に発売になる世界で初めての量産ハイブリッド・カー、TOYOTAのプリウスが出展されました。

2007年の東京モーターショーでは、日産R35GT-Rが初めてお披露目されました。

両車とも、もうすぐ実車が世に出てくるけど、これまでにないワクワクする日本の新しいクルマ、ということで興奮したのを覚えています。

今回の「現実的な」新しい日本のクルマに関しては、既存のパワーユニットを少し改良して搭載されたミニバンや、既に中東を中心に海外で販売されているクルマを日本に「再来年」導入する予定というもの。これには既存のエンジンが積まれています。

また20年以上前から製造されているパワーユニットを載せた、東南アジア生産のSUV。
初めてのストロング・ハイブリッドエンジン搭載の軽自動車は来年には販売されるかと思いきや、残念ながら「未定」。

個人的には、私の「初めての愛車」をモチーフにした、スポーツタイプのコンパクトBEVが実際に来年の2026年に発売されるとのことで、少しの興奮を覚えたのが救い?にはなりました。

  • BYDブース:軽EV「RACCO(ラッコ)」

逆に海外メーカー、例えばBYDは、初めてスライドドアを持つBEVの軽自動車を発表しました。搭載するバッテリーはスタンダードとロングレンジモデルの2種類。正式な数値の発表はされなかったのですが、ロングレンジモデルのバッテリー容量は40kwhと推測されており、航続距離は370kmという情報もあります。もしそうなると、日本の軽自動車規格のBEVよりも航続距離が大幅に向上することになり期待できます。

しかも、パワーシート(電動調整シート)も付いています。

BYDのお家芸、リン酸鉄リチウムイオンを使ったブレードバッテリーを使っていますが、これはコバルトなどのレアメタルを使わず、安全性や耐久性もこれまでの販売車で実証済みです。

思わず、「ついにスライドドアの軽のBEV!40kwh!パワーシート!」と、心の中で叫んでしまいました。

これまで「スライドドアで、航続距離が倍なら考えても良い」という軽自動車のBEVに関しての意見を多くネット上で見てきました。

そう感じてきた方も多いのではないでしょうか。

実際に多くの日本の軽自動車メーカーの方々が「本来は我々がやらなければならないことをBYDにやられてしまった」と語っています。

ただ、「バッテリーを完全自社で開発、製造しているBYDと同等のクルマを同じ価格で販売するのは難しい」と、あるメーカーの方はおっしゃっていました。

実際に販売が始まった際、日本のユーザーはどのように判断するのか。いろいろな意味で楽しみです。

  • BMWブース:アジア初公開 新型「iX3」

また、新しいクルマという意味では、来年発売予定のアジア初展示のドイツメーカーBMWのSUVは、これまでとは違う800V高電圧システムを搭載し、充電時間の短縮化と高出力化が図られていて、満充電での航続距離は800kmを超えます。

このクルマは日本語で「新しいクラス」という意味の「ノイエ・クラッセ」を謳う最初のモデルで、素材、設計、技術、生産方法などを刷新したクルマです。私個人的には、「これが来年発売されるのは凄いな」とワクワクしました。
しかし、BEV自体が日本では馴染みが薄いことから、JMSに来場していた方からは、さほど注目されていなかった印象です。

更に、気になったことといえば、日本では喫緊の課題である自動運転に関する展示が、無かったわけではありませんが、具体的な内容や具体的な時期についての展示が見られなかったことでしょうか。

またプレスデーには自動車メーカーの垣根を越えてSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル:ソフトウェアの更新によって車両の機能や性能を変えられるモビリティ)や双方向のコミュニケーションの方法を提案するメーカーから、プレゼンやデモンストレーションを受けたのですが、現在、既にアメリカや中国で実装されているものより単純な内容のデモでしたが、途中バグが出てしまい、複雑な心境になったこともお伝えしておきます。

トヨタグループ

  • トヨタブース

そして、プレスデーには時間がなくて見られなかった、南展示棟のTOYOTAグループのブースは一般公開日に訪れましたが、流石の大盛況で、今回の目玉の一つである、「センチュリーブース」は60分待ちでしたので、直接見るのは断念しました。

レクサスやDAIHATSUも含めた展示はコンセプトカーが目白押しで、TOYOTAの勢いを感じるには十分な規模と展示と言えます。

しかし1995年のプリウスの様な、来年、再来年には実際に購入できるが、全く新しいクルマというものが無かったのが残念でした。今回、目玉のセンチュリー・クーペは再来年には販売されるとのことですが、その際のパワーユニットは現行センチュリーと基本的には同じ、と私を含めた複数のジャーナリストは推測しておりまして、全く新しいクルマというものではありません。

未来を感じるモーターショーとは

そして最後に、今回のJMSに新しさを感じなかった点をお伝えしておきます。

JMSの2ヶ月ほど前、9月にドイツのミュンヘンで開催された、IAA Mobility 2025(以下、IAA)について、様々な動画コンテンツを見ただけでなく、実際に取材に行っていた日本のジャーナリストの方に詳しく話を聞く機会がありました。

今年のIAAはメッセ・ミュンヘンという展示会場だけでなく、ミュンヘンの旧市街がそのまま会場になり、街のオープンスペースは入場無料。街全体が展示会場になっていますので、オープンスペースでは旧市街の広場などで自由に休憩ができて、当然ながら閉塞感はありません。沢山の飲食店ブースも出展されていたそうです。中世から残っている歴史的な建物を上手く利用して、夜には壮大なプロジェクションマッピングが披露され、幻想的な雰囲気のイベントになっていたようです。

ちなみにJMSは前売り券が2700円で当日券は3000円。但し、当日、窓口での販売は無くオンライン購入のみ。高校生以下は無料でした。

そしてJMSで気になったのが、やはり閉鎖空間に沢山の方が来場しているため、小さなお子さんにはかなり厳しい環境だったからか、至る所でお子さんの泣き声が聞こえていたことです。

無理もありません。私も10年ほど前に、当時小学生だった二人の息子をモーターショーに連れて行きましたが、特に次男は人の多さに若干パニックになり、それ以来「二度とモーターショーには行かない」「人の背中とお腹しか見えなかった」と言っていました…。

しかしオープンスペースの「街」で行われたIAAの映像を見ると、その様相は全く異なります。IAAの開催中は雨模様でしたが、普段の街を歩いているのと同じですので、弊害は特に感じられませんでした。

クルマに興味がない人やたまたま通りかかった人が、世界中の最新モデルを実際に目の当たりにできる。とても素晴らしい光景で、実際に取材したジャーナリストも、展示の内容にも会場の雰囲気にも圧倒されたと仰っていました。

ちなみに今年のIAAの展示社数も750社とJMSより多いのですが、それより完成車メーカーの数の違いが顕著です。

IAAにおける完成車メーカーだけの展示社数は見つけられませんでしたが、取材したジャ-ナリストの方の話ですと、ヨーロッパだけではなく、アメリカやアジアも含めて、国際モーターショーの文字通り世界中の自動車メーカーが集まっていた印象で、ドイツメーカーよりドイツ以外の国のメーカー、特に中国を中心としたアジアメーカーが多かったのが印象的だったとのことです。

街を使ってオープンスペースで開催していることから「自動運転」のデモンストレーションも行われ、そのジャーナリストの方は、これからの世界のモビリティの姿と「未来」を身近に感じたIAAだったと仰っていました。

様々な法規の違いや自動車に対する社会全体の理解も違うことから、日本で同様の展示は難しいかもしれませんが、何かコレまでとは違う「箱の中で、関連会社がクルマや製品を並べる」以外の方法を模索しても良い時期かもしれません。

最後に

今回は、いつもより長いコラムになりましたが、恐らく他のジャーナリストの皆様とは全く違う視点や評価だと思います。

私の意見に賛同できない方が多いのは承知の上で、あえて違う目線で書かせていただきました。

一応お伝えしておきますが、大先輩の某レーシングドライバー系のジャーナリストの方とは会場で立ち話をして「全くの同意見」というお言葉をいただいたことも書き加えておきます。

JMSに今回、実際に行かれた方は、どんな感想をお持ちになったでしょうか?

文、写真:安東弘樹