「六本木のカローラ」「赤坂のサニー」バブルの中から生まれた“ガイシャ”ブーム・・・1980〜90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
マイホームを諦めた会社員が輸入車に目を向けた
2024年2月22日は、日本にとって記念すべき日になりました。日経平均株価が終値で3万9098円68銭をつけ、バブル景気真っ只中の1989年12月29日につけた3万8915円87銭を更新。実に34年ぶりの高値更新です。
このニュースに報道はお祭り状態。
「これはまだ通過点だ!」
「今の株価を押し上げているのは半導体関連なのでまだ本物ではない!」
「バブルがいつ弾けてもおかしくない!」
「もうすぐ大暴落して新NISAで投資を始めた初心者が大やけどするぞ!」
と、ポジティブ、ネガティブな意見が入り乱れて大騒ぎです。
筆者は個人的に「それよりも34年間も高値を更新できなかったことを検証しなさいよ」と感じながら、同時に「なんで最高値を更新できたのに世の中はあの頃のように浮かれていないわけ。もっと俺たちを浮かれさせてくれよ」と思ったりしています。
バブル景気が最高潮に達する1980年代後半、世の中はまさに浮かれまくっていました。この時期の筆者は高校生(しかも親は公務員)だったのでバブルの恩恵をリアルに体感することはほぼありませんでした。
それでも一時代を築いたマニュアル雑誌を読み漁ったり、DCブランドのバーゲンに朝から並んだりと、子どもながらに浮かれ気分を味わっていました。
一方でこの時代は会社員にとってはきつい部分もあったと思います。代表的なのは住宅。土地の値段が考えられないほど上昇し、さらに住宅ローン金利は1990年に変動型で8.5%ほど。会社員で都心にマイホームを持つのは夢のまた夢。新幹線通勤をする人が増加します。
そういえば筆者のバイト先の社員さんが80年代中盤に郊外に6畳ロフト付きの新築ワンルームマンションを何千万円かで購入して「これで俺も一生安泰だ」と話していましたが、彼は今何をしているのでしょう。
家を諦めるしかなくなった人たちが、新たに見出した夢。それが“ガイシャ”でした。BMWは1983年にE30型3シリーズを導入。そしてメルセデス・ベンツは1985年にコンパクトセダンの190クラス(W201)を日本に導入しました。
Lサイズのサルーンは無理でも、これなら買えると、両モデルは大ヒット。やがて会社員でも輸入車に乗っていないと女子から相手にされない、唯一許される日本車はトヨタ ソアラという時代が訪れます。
1990年には『アッシー』『メッシー』『貢くん』といった言葉が流行し、筆者の周りにいたごく普通の大学生や社会人になりたての女子までが「終電近いし、アッシー呼ぼう」と当たり前のように話していたのですから恐ろしい時代です。
バブル期の輸入車ブームを牽引した“六本木のカローラ”と“小ベンツ”
あまりにも多くの人が乗っていたことから“六本木のカローラ”と呼ばれたE30型。E30と比較される形で“赤坂のサニー”“小ベンツ”と呼ばれたW201。どちらも時代の中で両車を揶揄する言葉として使われました。しかしこの2モデルは歴史に残る名車です。たまたま日本のバブル景気の時にヒットしてしまったために蔑まされたりしましたが、もし程度の良い出物があったら手に入れたいと思っている人も多いはず。
02シリーズの流れを汲む3シリーズは1975年に初代のE21型が登場。E30は2代目モデルになります。ヘッドライトは全グレード4灯化。丸みを帯びつつもボクシーなデザインは衝撃的でした。日本で売れまくったのは好景気で輸入車に注目が集まったからだけでなく、このスタイルに多くの人が惹かれたからなのは言うまでもありません。
サイズは全長4325mm×全幅1645mm×全高1365mm。現代のクルマと比較してみると、全長はトヨタ ヤリスクロス、全幅はスズキ ソリオと同程度です。それでも当時は決して小さくは見えず、威風堂々したプレミアムセダンだと感じました。
ボディはセダンのほか、カブリオレをラインナップ。後にツーリングも追加されます。
W201型メルセデス・ベンツ 190クラスが世間に与えた衝撃は、E30以上でした。SクラスやEクラスなどに一般人が乗ることは無理だと思っていた中に登場した190は、「小さいから作りもそれなり」という妥協が一切ない、さすがメルセデスと言う仕上がりでした。
フロントの伝統的な大型のグリルと、スリーポインテッドスターのマスコット。FRセダンならではの長いボンネットフードや厚みを感じさせるボディ。Sクラスを彷彿させるリアスタイルからはメルセデス・ベンツらしい風格が漂っていました。
2トーンのボディカラーもSクラスやミディアムクラスのような高級感があり、憧れる人が多くいましたし、アッパークラスと同様のゲート式ATシフトも所有欲を満たす装備でした。
バブル絶頂期である1990年当時の新車価格はE30が348万円〜、W201が395万円〜。サイズは違いますが、発売されたばかりのトヨタ セルシオが455万円〜、日産 シーマが437万円〜だったことを考えれば、かなりのお値打ち価格と言えます。
神格化に一役買ったレーシーなスポーツモデル
E30とW201が今なお魅力が色褪せないのは、スポーツモデルが用意されていたことも大きく影響しているはずです。
E30は1986年にM3が登場。2ドアセダンをベースにボディを大幅改良して、大きく張り出したブリスターフェンダーの中に205/55ZR15タイヤを装着。搭載される2.3L直4エンジンは最高出力195psを発揮しました。その後、グループA仕様のスポーツエボリューションも発売されています。
W201は1986年にコスワースが手掛けた2.3L 16バルブエンジンを搭載した190E 2.3-16を投入。1988年には2.3Lエンジンを2.5Lにした190E 2.5-16を投入します。そして1989年には190E 2.5-16のエボリューションI、翌年にはエボリューションIIがデビューしました。エボリューションモデルはごく少量が日本に導入されただけだったので、実車を見られないフラストレーションからクルマ雑誌を食い入るように見ていた人も多いはずです。
これらはツーリングカー選手権へ参戦することを念頭に置いたモデル。ドイツツーリングカー選手権だけでなく、M3は全日本ツーリングカー選手権(グループA)のJTC-2クラスで活躍しました。1989年には190E 2.3-16もJTC-2クラスにエントリーしています。
この時期のグループAはフォード シエラが圧倒的な強さを見せた後、1990年にR32型スカイラインGT-RがグループAにデビュー。連勝を重ねてモータースポーツの話題を独占していましたが、実はM3のバトルも迫力があって面白いレースだったのです。
女性からの人気も高かったバブル期のドイツ車たち
E30、W201とは少し路線が違いますが、この時代はアウディとフォルクスワーゲンも人気がありました。1987年に日本に導入されたアウディ 80(B3)は角が取れたプレーンなデザインが女性から人気でした。
会社経営者が自身はメルセデス・ベンツのSクラスやSL、ポルシェ911などに乗り、奥様用のクルマとして80を選ぶイメージでした。広尾や六本木で女性が運転している80をよく見かけたものです。
フォルクスワーゲンで人気があったのはもちろんゴルフ。1984年に日本導入されたゴルフ2は当初三角窓がありましたが、マイナーチェンジで廃止されてピラー寄りにドアミラーが移動されます。
景気が良くて大学生になるとお祝いにクルマを買ってもらうという話が普通にあった時代。ゴルフ2は女子大生がよく乗っていたのを覚えています。私の友人も「パパに買ってもらったの。ドライブ行こう!」と重ステのゴルフ2で待ち合わせ場所にやってきたのを覚えています。赤いゴルフに女子が乗っているのはすごく華やかに見えました。
中古車市場を見ると、E30とアウディ80の中古車はほとんど流通しておらず、W201は30台ほど流通。状態のいい中古車だと190Eでも総額250万円近い値がついています。ゴルフ2は専門店があるため中古車は探しやすい状況。ただ、専門店で話を聞くと相場がかなり上がっていると言います。
いい感じで枯れたネオクラシックカーたちは今後値が下がる要因が出てくるとは思えないので、好景気に沸いたあの頃の空気感を味わいたい人は早めに中古車を探してみることをおすすめします。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:BMW、メルセデスベンツ、アウディ、フォルクスワーゲン)
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