熱烈なクルマ好きの“経験”が生きる「愛車の撮りどころ」…愛車広場カメラマンの目線①
GAZOO愛車広場で全国の愛車とそのオーナー様を撮影している名物カメラマン、平野陽氏。十人十色の愛車をさまざまなシチュエーションで撮影するプロは、ファインダーを通して何を見ているのか? 4回に分けてお話を伺いながら探っていこうと思う。
GAZOO愛車広場の定例企画として、全国各地の愛車とそのオーナーさんのカーライフを取材するべく2021年から開催している『GAZOO愛車広場 出張取材会』。その元となった『GAZOO愛車広場 出張撮影会』の第1回目から、ほとんどすべてで撮影に参加していただいているのが平野 陽(ひらの あきお)カメラマン。
毎回、さまざまなロケーションの中で、その日に初めて対面したクルマを撮影していくのだが、限られた取材時間のなかでそのクルマの良さやポイントなどをおさえていくのは、簡単そうに見えてなかなか難しい作業だ。
それを可能にしている理由のひとつが、彼自身が持つクルマに関する知識の豊富さといえるだろう。
今回は、そんな平野カメラマンにこれまでの経歴などを伺いながら『愛車をカッコよく撮影するためのヒント』なども探っていきたいと思う。
ーーまずは自己紹介をお願いします。
えー、いきなりそう言われると難しいなぁ。
平野 陽(ひらの あきお)、1971年生まれ。生まれも育ちも神奈川県藤沢市です。
ーー普段はどんなお仕事を?
新車から旧車まで、国産車も輸入車も、ドレスアップやチューニングなどジャンルを問わずクルマ全般の撮影をしています。強いていうなら、レースやモータースポーツに関する仕事は少ない感じかな。
ーーどんな車種でもオーナーさんとクルマトークが弾んでいますが、どうしてそんなにクルマに詳しいんですか?
自分で言うのも恥ずかしいけど、結局クルマが大好きだから、かな(笑)。
16歳でバイクに乗り始めて、18歳でアルバイトしていたガソリンスタンドの先輩から譲り受けた430型のセドリックに乗り始めて、じぶんで初めてお金を出して買ったのはY31型セドリック。アルバイトしてお金を貯めて、高校生のうちに新車で買って、コンピューターや足まわりまでイジっていたくらい、典型的なクルマ好きでしたね。
今は北米日産のアルマーダを輸入して普段の仕事用として乗っているほか、510型ブルーバードを3台とブルーバードワゴン、BMWのE36、マツダ・ポーターを所有しています。それと奥さんが乗るトヨタ・IQも。
E36は6連スロットル仕様にカスタムしている最中で、過去にはアメリカンな雰囲気にカスタムした日産・パオなども所有していたとか。
S14型のシルビアが発売されてまもない頃にSR20DETエンジンをブルーバードに換装。その後、NAエンジンを搭載したブルーバードも製作したという。
ーーブルーバードが多いですね!?
自分のカーライフの中では、510ブルーバードは欠かせない存在なんです。
1994〜1995年くらいに日産・シルビアに載っているSR20DETエンジンを搭載してドリフトしていたんですけど、それが日本だけでなく海外でも話題になったんです。世界的にもまだそれをやっている人がいないくらい先取りしたカスタムだったんですよね。
そのブルーバードのおかげでクルマ雑誌の仕事につながることもあったし、アメリカのイベントに行った時にも「オマエがあのファイブテン(510)のオーナーか!?」って話題が盛り上がったりして、たくさんの人と知り合ったり仲良くなったりするキッカケになりました。
現在も雑誌の連載企画でホンダ・オデッセイのK24型エンジンを搭載したブルーバードを製作中です。
ーーまさに人生を変えた1台ですね。クルマいじりはどうやって覚えたんですか?
セドリックに乗っていた頃は「セダンをイジって走れるようにするのがカッコいい」と思っていたけど、2年くらい経ってカリーナ(TA63)に乗り替えて、そのクルマをアルバイト先のガソリンスタンドでイジるようになっていったんです。
そのガソリンスタンドには整備士の資格を持った先輩がいて、その方からクルマをイジるための知識や技術を基礎から教えてもらったことが、今でもすごく活きてますね。解体屋さんから使えそうな部品を探してきて、流用するためにアレコレと加工する手段を覚えたのもこの頃です。
当時は電動工具やエアツールを使えるようになると加工できるレベルがワンランク上がって、自分はよく電動サンダーを使っていたので『サンダー平野』って呼ばれるようになったり(笑)
ーー流用や加工について、よく撮影しているオーナーさんとも話していますよね
自分のクルマはもちろん、当時まわりの仲間たちが乗って流行っていたAE86やE70カローラなどに関する流用ネタなんかも調べたり実際に試したりしていたし、その延長線で自分が乗っていないクルマの情報にも興味を持つようになった感じかな。
だから、撮影している時にも「あ、これはあのクルマの部品の流用ですよね」って、発見するたびについ楽しくなっちゃうんですよね。
それは流用チューンに限らず、ホイールだったりステアリングだったり、カスタムしている部分を見つけると「このオーナーさんはこういう方向性のカスタムが好きなんだな」「このパーツを選んでいるっていうことはこだわりがあるのかな」と気になるし、そこはポイントだから撮影しておこうって思いますよね。
どんなジャンルのクルマでも、担当ライターがオーナーさんにお話を伺っているうちに独自に撮影を進めている姿をよく見かける。どんな写真が撮れているかは、ぜひ愛車広場出張取材会の記事をご覧いただきたい。
ーークルマについての知識があるからこそ、限られた時間で撮影が進められる、と
もちろん、担当ライターさんがオーナーさんを取材して「ここを撮影してください」っていうパターンもあるけど、一緒に話を聞いていれば、撮っておいたほうがよさそうなポイントも見えてくるし、効率がいいですよね。
新車や旧車もたくさん撮影しているから『クルマ自体の特徴的な部分』も言われる前に撮っておこうって感じで進めています。
そうやって『撮るポイント』を把握しておくことができれば「曇っていて影が目立たない今のうちに内装を撮っておこう」「このボディカラーは日光が当たっている時の方が映えるな」と、状況を活かした撮影も余裕を持ってできるようになるんですよね。
ーーそれって、かなりの特殊能力では……
出張取材会は1台あたり1時間の取材枠で、アンケートを記入していただいたり、ライターがお話しを伺ったり、クルマを撮影ポイントに移動させたりと、実際に撮影できる時間は意外に短い。オーナーさんとライターさんが話している間に分かる範囲で撮影を進めておくことができれば、そのぶん、オーナーさんと一緒に撮影するカットなどに時間をかけることもできる。
結局は、自分にも余裕が生まれるのでウィンウィンでしょ(笑)
もちろん、いろいろなクルマやオーナーさんに出会えるのは、単純に楽しいっていうのもありますしね!
ーークルマが好きだからこそ、初見のクルマもカッコよく撮ることができる、と?
そうですね。クルマが好きだから「このクルマはこういう角度から撮るとカッコいい」とか「こういう背景で撮ったらこのクルマらしさが表現できるな」って思うし、カスタムにも興味があるから、「ホイールやエアロを変えているならそこが目立つようにしよう」「このパーツを強調して撮ろう」と考えます。
たとえば、アウトドア系カスタムをしたジムニーだったら舗装路じゃなくて芝生や砂利で撮ったほうが雰囲気が出るし、ローダウンしたセダンなら低く見えるようなアングルを探そう、みたいな。
オーナーさんのこだわりを理解しつつ、一歩引いた目線で冷静に『どう撮ったらこのクルマの魅力を最大限引き出すことができるか』を考えてシャッターを切る感じですね。
平野カメラマンと組んだライターさんが安心してオーナーさんの取材ができる理由がわかった気がします。次回は、そんな平野カメラマンがプロとして写真を撮るようになった経緯や撮影のアドバイスなども聞いていきたいと思いますのでお楽しみに。
(取材協力、写真:平野 陽 取材、文:太田 朗生)
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