クルマと背景のバランス。鉄道撮影で学んだ“風景の切り抜き方”…愛車広場カメラマンの目線②
GAZOO愛車広場で全国の愛車とそのオーナー様を撮影している名物カメラマンの目線の先を追う連載コラム。前回は『クルマが好きで知識があるからこそ見つけることができる撮影ポイント』について話してもらったが、今回はもっと広い“画角”に関するお話だ。
ーー前回は愛車遍歴からクルマの知識が増えていった話を伺いました
ガソリンスタンドでアルバイトしながらクルマいじりを覚えて、そうやって積み重ねてきた知識が撮影の時にも活きているって話ね。
そのガソリンスタンドのアルバイトをしながら写真の専門学校を卒業して、就職したのをキッカケに「ちゃんと動くクルマが必要だ」となって、スバル・レガシィツーリングワゴンを買ったんです。
ところが、2台持ちになったものだから、メインカーのブルーバード(P510)は『しばらく動けなくても大丈夫』と大掛かりな作業をするようになってしまって……、ブルーバードにSR20エンジンを搭載したのは、まさにその集大成というかんじですね。
それに2台、3台と複数所有することに対して抵抗がなくなったのも、それがキッカケだったなと(苦笑)。
ーー複数所有やカスタムの話も気になりますが、まずはどんな職場に就職したんですか?
世界中のお祭りや民族などの写真を管理するライブラリのお仕事でした。写真家の先生が撮影してきた写真を整理しておいて「この写真を使いたい」という方に販売する、完全な事務仕事でした。
ーー平野 陽カメラマンは日本全国どこにいっても名所や特産品を知っているイメージですが、そのライブラリの仕事も関係しているんですね?
そうですね。各地のお祭りだったり、観光名所だったり、その土地の名産品だったり、かなり頭に入っていると思いますよ。だから、写真を撮る時には背景の風景だったり建物だったり“その場所ならではの雰囲気”もけっこう意識するかな。
ーーそんなお仕事から、クルマの写真を撮るカメラマンになったキッカケは?
それは『旧車』と『鉄道写真』ですね。
ある日、そのころ一緒に遊んでいたメンバーたちと一緒に旧車雑誌の『オートワークス』に愛車を取材してもらう機会が巡ってきたんです。そこで知り合った編集部の方に「え?カメラマンなの?じゃあ撮影の仕事もしてよ。旧車に詳しいんでしょ?」っていう感じでカメラマンとしてお仕事をさせてもらうようになりました。
当時はクルマを撮影するカメラマンって、レースやモータースポーツを撮影している師匠に弟子入りして、アシスタントとかをしながら教わって、それから独立するっていうひとが多かったので、経歴としては珍しかったんですよ。
職場には電車通勤していましたし、その頃までクルマは“撮るもの”じゃなくて“趣味で乗るもの”で、言ってみればクルマ趣味のために仕事をしていたようなものでした。
だから、最初の頃はクルマを撮るのに試行錯誤、見よう見まねって感じでしたね。写真の専門学校でも、機材の使い方とかは習ったけれど、クルマをカッコよく撮影する方法なんて勉強していなかったので。
自分でオールペンしたというスターレット(KP61)と、レガシィツーリングワゴンの次に機材車として使っていたというブルーバードワゴン(VN510)。
ーー写真じゃなくてクルマ好きだったことがキッカケだったと。確かに、昔の写真は同じ人が撮ったとは思えないかも…
失礼だなぁ!
ーーすみません(笑)
でも、そうやってお仕事をもらっているうちに、他のクルマ雑誌のお仕事もするようになっていって、23歳の時にライブラリの仕事を辞めてフリーカメラマンとして働くようになりました。
昼間はカメラマンとして働いて、夜はクルマをイジれるガソリンスタンドのアルバイトもやりながら、クルマ遊びも続けていたって感じですね。
ーーもうひとつの『鉄道写真』というのは?
神奈川県の藤沢生まれだというのは前回お話したと思いますが、小さな頃から江ノ電とか小田急といった電車や、飛行機を見るのが好きで、趣味で写真を撮っていたんです。そして、撮った写真を近所の写真館で現像してもらっていたんですが、そこで「いい写真だからコンテストに応募してみたら?」って言われて、応募してみたら見事に入選!
最初は中学校2〜3年生だったと思うんですが、そこでアドバイスをもらいながら高校の頃もたくさんの賞をもらうことができました。写真のテクニックも磨けるし、賞金ももらえるしで一石二鳥でしたね。
高校を卒業して、写真の専門学校に入学したのも、鉄道写真が好きだったから「これを仕事にできたらいいな」という気持ちがあったからで、そんな経緯もあってフリーカメラマンになってすぐの頃には、鉄道写真を扱う雑誌のお仕事もするようになったんです。
ネコ・パブリッシング社が出版していた『レイル・マガジン』。1994年に発売された125号の巻頭特集で4ページにわたって平野カメラマンの撮影した写真が使用されていた。
鉄道写真って、撮れる時間や回数、場所も限られるので、同じ人が同じ車両をたくさん撮るっていうのが難しくて、ひとつのページにいろいろなカメラマンが撮影した写真が載ることが多いんです。
でも、自分の写真が気に入ってもらえて、4ページの巻頭企画を丸ごと自分の写真だけで構成してもらえたことなんかもあって。あれはちょっと嬉しかったし、自慢でもあるかな。
ーーそれはすごいですね! ほかのカメラマンと何が違ったんでしょう?
実は、自分の写真は、「まわりの風景」を中心にしていたんです。
例えば、クルマだと『シチサン』って呼ばれるような、車両全体が写った写真は鉄道でも基本なんですけど、そういうのじゃなくて周りの風景の中に溶け込むような写真を好んで撮っていたんです。
実を言うと、その車両というか被写体は「この車両を撮りたい」というようなこだわりはなくて、なんでもよかった(笑)。鉄道が好きというよりは「電車が走っている風景が好き」って感じかな。
ーーそれって、ライブラリのお仕事も影響しているんですか?
そうですね。風景とか景色の中に電車やクルマが写っている、というような写真は、ライブラリで管理していた写真の影響も大きいと思う。その風景やロケーションを活かして、そこにどう被写体を置いて切り抜くかっていうのは、けっこう意識しますね。
クルマを撮影する時も同じなんですが、これって師匠がいて「クルマを撮る時はこうするんだ」っていうセオリーを教わっていたら、違っていたと思うんですよね。そういうセオリーを教わらなかったからこそ、自分の好きなように撮れた。それは、いいか悪いかは別として、自分の写真の特徴のひとつかもしれないです。
ーー風景や背景を意識するというのは、具体的にどんなふうに?
たとえば上の鉄道雑誌に掲載されている鉄道写真なら、周りに田んぼや雪景色が写っていることで「こういう場所を走っているんだ」と感じることができますよね?
それから、進行方向や後ろに線路があることで“走っている感”が増します。
クルマの写真も、画角のド真ん中ではなくて、進行方向や後ろに少し広めに余白を残すことで勢いのある写真に見えるんです。
それから、たとえば富士山とか建物とか、大きなものを背景にするときも、両方を真ん中に配置するよりは、背景物のセンターがクルマの右や左に来るようにズラして配置するほうがバランスよく見えると思います。
ーー以前、クルマを大きく見せようと写真をトリミングしたら平野カメラマンに怒られたのを思い出しました(笑)
「その余白部分の風景も含めて考えて撮った写真なんだー!」ってね。というわけで、一見ただのスペースに見える部分も、ちゃんと考えや思いがあって撮っているので、ぜひそういう目線で写真全体を見てもらいたいし、自分で写真を撮る時には背景も意識してみてはいかがですか?というお話でした。
ちなみに、鉄道雑誌のお仕事をやっていたおかげで、おなじ出版社から発売しているクルマ雑誌の編集部を紹介してもらって、そのお仕事もするようになったんだけど、その雑誌では連載企画を担当させてもらうなど、深いお付き合いとなりました。
そして、雑誌連載といえば、おなじ頃に出会った北米の日本車カスタムを紹介する雑誌のおかげで、昔から興味を持っていたことが実現できるようになったんです。
というわけで、そのお話はまた次回。
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