海外経験を重ねて得た“撮影の幅”と“情景の生かし方”・・・愛車広場カメラマンの目線③
GAZOO愛車広場で全国の愛車とそのオーナー様を撮影している名物カメラマンの目線の先を追う連載コラム。今回は、フリーランスのカメラマンとして仕事を始めてしばらく経った頃に、大きな転機となった海外取材について。クルマやカスタムに関してはもちろん、写真の撮り方や機材についても大きな学びがあったそうです。
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平野カメラマンが海外取材をライフワークとするキッカケになったという、エイ出版社が発行していた別冊ライトニング『ビンテージオート』誌
ーー前回のコラムの最後に、新たな出会いの話をしていましたね?
そうそう、フリーカメラマンとして働くようになってしばらくしてから、あるクルマ雑誌と出会いました。それが別冊ライトニング『ビンテージオート』という雑誌。
通常、雑誌のページを作るときは個別取材やイベント取材などを積み重ねていくことが多いと思うんですけど、このときは「1〜2週間くらいアメリカに行って取材してたくさんページを作った方が、新鮮で目新しいネタをたくさん取材できるのでは?」という考え方の編集長に、企画からネタ探しまで一任されて頻繁に渡米するようになったんです。
もともと専門学校を卒業して就職したライブラリの仕事で海外の写真をたくさん見て憧れていたし、自分のクルマもアメリカンなスタイルを意識したものが好きだったんです。
ライブラリ在籍中にも付き添いで数回、海外に行ったことはありましたが、そのときはクルマには関係のない仕事だったので、いざクルマの撮影で海外に行けるとなると、とてもワクワクしたし、勉強になりましたね。
そしてひとりで(もしくはライターと)「どういうクルマを取材したら読者に伝わるか」と考えながら試行錯誤することで、いろいろな世界を知って視野が広がり、未知の環境で“どうにかして撮影する”力も磨かれたと思います。
毎年ハロウィーンの時期にアメリカ・ラスベガスで開催される世界最大規模の自動車パーツ見本市(トレードショー)『SEMA SHOW(セマ・ショー)』。GAZOO.comでも平野カメラマンといっしょに何度か取材に訪れた。
https://gazoo.com/feature/event/sema/
ーー今でも平野カメラマンは海外取材が多いイメージですが、その原点というわけですね。取材のネタ探しなどはどうやっていたんですか?
当時は今ほどSNSなども発達していなかったので、SEMAショーやJCCS(ジャパンクラシックカーフェス)など大きなイベントに行って、その参加者に「撮影させてくれませんか?」と声をかけて、イベントの翌週などに撮影させてもらう、という方法を続けていました。
アメリカは仕事の時間がキッチリ決まっていて、平日でも早朝や仕事終わりなどに時間をとって付き合ってくれるオーナーさんが多かったのはありがたかったですね。
最近はSNSが発達したおかげで、日本にいても面白いクルマを探して連絡を取ることができるようになったので、かなり楽にはなりましたけど、当時の『現地でナンパ』作戦のおかげで「初対面のオーナーさんと仲良くなって、愛車へのこだわりを聞き出して撮影する」というスキルをかなり鍛えられました。それをつたない英語でやっていたわけだから、なおさらですよね。
そして、自分もクルマが好きでブルーバードに乗っているというのも、話題作りのために役立ったと思います。
海外取材で特に記憶に残っているクルマは?と聞いてみたところ「ニュージャージーのゼロヨン大会で見たプエルトリカンのドラッグマシンたちすごかった!7秒台とかで走るのに、ストックボディなのがカッコいいんですよね」と平野カメラマン。
ーー当時のアメリカではどんなクルマを取材していたんですか?
フェアレディZ、スープラ、シビック、ブルーバードなどなど、日本の旧車をカスタマイズしたクルマが多かったですね。
もう30年近く前のことですが、当時すでにキャブレターをインジェクション方式に変更するカスタムとかを実現しているオーナーさんもいて、日本よりだいぶ先を行ってるな〜って驚きました。
そういうクルマをたくさん取材できるんだから、雑誌のネタとしては新鮮で面白かったと思います。
それに、現地の情報やパーツを日本に持ち帰ってきて「自分たちも海外に負けないカスタムカーを作ろう!」って、気合いが入りましたね(笑)。
この頃から仕事用の愛車もメルセデスベンツA160、北米仕様のボルボXC70やXC90などを乗り継ぐようになった。ちなみにマツダ・ポーター、日産・パオ、奥様のトヨタ・IQなどを所有していて「丸くて小さなクルマが好み」とのこと。
実は、アメリカで見ていて参考になったのはクルマだけじゃなくて、撮影機材やその方法も日本より進んでいて、そちらも参考にしていました。
たとえば、クルマを動かして背景が流れるように撮る『流し撮り』を、クルマにカメラを吸盤とアームで固定し、車体を手で推しながらスローシャッターを切るんです。そうすることで、すごく狭い場所やガレージ前なのにスピードが出ているよな「どうやってそのアングルで流し撮りしているんだろう?」っていう写真が出来上がったり、エンジンが壊れて動かないクルマを走っているように撮ることができたりとか。
「海外雑誌などの写真を見て不思議に思っていたけど、こうやって撮っているのかぁ〜」と参考になることもたくさんありました。
また、撮影機材についても、ストロボをリモートコントロールできる発信機や、日本では高額アイテムだったカッコいい折りたたみのレフ板などを買って帰ってきては、日本で使っていました。
今ならインターネットで手軽に購入できるけれど、当時はまだそう簡単に手に入らなかったので、同業者から「その機材、どこで買ったの?」なんて聞かれることもありましたね。
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当時の日本では屋外でストロボ撮影を行う際にはジェネレーターからケーブルをつないで撮影するなど大掛かりな機材が主流だった。いっぽうアメリカでは無線の発信機を使って撮影していたため、ちょっとした状況でも手軽にストロボを使っていたのだとか。「日本だと『どうする?ストロボ準備する?』と悩むような場面でも気軽に使えるので、ちょっとしたアドバンテージになることもあったかな。今ではあたりまえだけどね」と平野カメラマン。
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アメリカの中でもハリウッドに近いロサンゼルス周辺は撮影機材も最先端のものが集まっていて、平野カメラマンは『samy's camera』というショップや、ニューヨークの『B&H』を訪れて機材をチェックしていたという。
ーー取材対象のクルマだけではなく、撮影に関しても学ぶことがあったと?
もともと意識していた「風景」とか「情景」を考えながら撮影するという方法も、海外ではよりいっそう磨かれた気がしますね。
なにしろ、数日前に出会ったオーナーさんの都合に合わせて取材するわけですから、いつもいいロケーションで撮影というわけではなく、時には近くの広場だったり、ただの道路だったりと、その状況はさまざまなワケです。
ストロボを使ってクルマだけをライティングして、背景を暗くして目立たないようにしてしまうことも可能ではありますが、与えられた条件のなかで、その場所の雰囲気などを生かしてどれだけカッコよく撮影できるかを考えながら撮影していました。
建物、道路標識、街路樹…使えるものはなんでも使って、日本では撮ることができない『現地で撮影した写真』を撮るように心がけていました。これは、日本で撮影するときでも同様ですね。
背景に「その場所らしい何か」を映り込ませる手法は、アメリカでもフル活用。クルマのキャラクターを表現するために利用することもあるという。
ーー海外取材ではたくさんの学びがあったわけですね
あの頃のお仕事には、今でも本当に感謝しています。
ちなみにその雑誌では、現地で取材している様子を日記のように誌面でも紹介していたんですが、その経験は現在の雑誌連載などにも活きていますね。
三脚にカメラを固定してタイマーをセットし、自分が映るようにクルマいじりの様子を撮影するなんて、ほかのカメラマンさんはなかなかやらないんじゃないかな(笑)。
フィルムの頃は「現像してみたらちゃんと写っていなかったから撮り直しだ(泣)」なんてこともあったけど、今はデジタルカメラだからその場で確認しながらできるので楽ちんですね。
取材レポートやDIY企画など、自ら撮って出演することもあるという。現在製作中のブルーバードもメイキング連載が誌面で紹介されるなど、マルチに活躍中だ。
本当に多彩な平野カメラマン。次回はちょっと真面目に(!?)愛車取材の際に意識している撮影のポイントや、使っている機材について聞いてみようと思います。
(取材協力、写真:平野陽、文:太田朗生)
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