こだわり満載の愛車を撮影する時に、実際に考えていること…愛車広場カメラマンの目線④

GAZOO愛車広場で全国の愛車とそのオーナー様を撮影している名物カメラマンの目線の先を追う連載コラム。最終回は「GAZOO.com」で撮影する時にどんなことを意識しているのか? 機材から撮影の考え方までいろいろと質問してみました。

  • 出張取材会 in 奈良で撮影する平野カメラマン

    GAZOO愛車広場 出張取材会で撮影をおこなう平野 陽カメラマン。写真は奈良県の朱雀門広場で開催した取材会のひとコマ。WRXオーナーの息子さんが撮影やカメラに興味を持って見守り「カメラが欲しい!」とお父さんにおねだりしていたので、ぜひカメラを手に入れて写真を撮ったら『モビこと』に投稿してほしいですね。

ーーいちばん最初に写真の撮り方を教わったのは?

2回目のコラムで少し触れたんですが、小学生くらいから鉄道写真を撮っていて、そのフィルムを近所の写真館に現像に出していたんです。当時はデジタルカメラなんてなかったですからね。

そしたら、その写真館の店主さんが、ある日、現像した写真を見ながら「こういう時はもう少しこうしたらいいよ」と、アドバイスをしてくれるようになったんです。
風景の切り取り方とか画角とかもそうですし、それ以外にも「このシチュエーションなら絞りを1段階あげると、黒色が締まってカッコいい雰囲気の写真になるよ」といったテクニックもいろいろと教えてもらい、そこで『仕上がりを想像して撮る』ということを覚えました。

ちなみに、明るさの設定に関しては、デジタルカメラならもっと手軽にできるし、その場で確認もできるので、みなさんも、ぜひいろいろ試して撮ってみるといいと思います。
あとからフォトショップなどを使って明るさやコントラストを加工することもできますが、せっかくなら撮る時にも「どういう写真になるか?」を意識してみると楽しいですよ。

ーー他にはどんなことを意識していますか?

  • トヨタ・スプリンター(AE86)
  • トヨタ・スプリンタートレノ(AE86)

同じクルマを撮る場合でも、レンズや目線の高さなどを変えるだけで違った印象の写真に仕上がる。どれが正解ということはないですが、愛車を撮影する際にはいろいろと試してみると面白いですよね。

クルマを撮る時には、そのクルマの特徴を強調できるように撮影したいなと考えます。
たとえば、みなさんも思い浮かべやすいスプリンタートレノ(AE86)を撮るとしましょう。

スポーツカーはフロントがすっと伸びているのがカッコいいイメージがありますよね。だからちょっと広角めのレンズを使って、少しフロント寄りに近づいて、画角の端にノーズを持っていくようにして撮影します。すると、レンズの歪みでフロントノーズがより長く強調されて見えたりします。

クルマの撮り方を習う時って、長距離から望遠レンズで撮る方がクルマの形が歪まないので良い、というのが基本ではあるんですけど『正確に見える写真=カッコいい』というわけではないじゃないですか?
水平や垂直についてもおなじで、基本はもちろん『建物や地面に対して水平や垂直を意識する』なんですけど、さっきのようにAE86をレンズの歪みを利用して撮る時にはかならずしも水平や垂直には拘りません。

もちろん、富士山とか水平線とか地平線を背景に写し込むときには水平じゃないと気持ち悪いなぁ、とか状況にもよりますし、無駄に斜めにすればいいってものでもないですが(笑)。

ーーそれは愛車取材の時にも意識していますか?

  • スバル・BRZ
  • トヨペット・コロナハードトップ

そうですね、ローダウンしているのがアピールポイントのクルマを撮る時には、低さを強調するためにローアングルを狙うけれど、低く構えすぎると地面との隙間が見えてカッコ悪いなということもあります。

あと、僕は小さくて丸いフォルムのトヨタ・IQみたいなクルマが好きなんですけど「車体の長さと幅のバランス感が良いんだよなぁ」と思っているので、レンズで歪まないように、長めのレンズで横めから撮るとかね。

やはり、そのクルマの持つキャラクターとか、オーナーさんがこだわっているポイントを理解して、できるだけそれを写真で表現できるといいなって考えながら撮影しています。
実は『愛車がいちばんカッコよく見える角度』って、そのクルマのオーナーさんがいちばんわかっていると思うし、撮影テクニックを駆使して場所選びも撮影時間も無限にかければ、すごく良い写真が撮れると思うんです。

でも我々は、与えられた環境の中で必要なカットを決められた時間内で撮るのがお仕事なので、いかに短時間で“その瞬間のベストショット”を見つけられるかが腕の見せ所なんですよね。そして、クルマについてもカスタムについても、知識が多いほど、そのヒントを見つけやすくなると思っています。

  • 出張取材会 in 福岡で撮影する平野カメラマン

ーー使用する撮影機材についてはどうですか?

どれだけ機材を持っていけるか、撮影場所でどこまで機材を広げて使って良いかなど、これも状況に応じて一概には言えないのですが、出張取材会の撮影では必要以上にストロボを使わないようにしています。

というのも、ストロボを使うと、陰影がついてカッコいい写真になるけれど、そういう写真はどちらかというとカスタム誌向きで、取材会ではやりすぎた陰影はつけないほうが、いい雰囲気の写真になると思っています。

逆にいうと「ストロボを使えばいいや」みたいな安易な考え方はできなくて、自然光のなかでどういう向きにクルマを置いて、どこに陰影を作るかをすごく考えて撮影します。これは新車雑誌の撮影とかに近い考え方で「カッコいい写真が必ずしも良い写真というわけではない」ってかんじかなぁ。

  • 日産・スカイラインGT-R(R34型)

    沖縄の取材会で撮影したこの写真は、カメラから向かって左側からストロボを1灯だけ使用。「背景の夕日を活かしたいけれど、オーナーさんの表情も出したかったので、逆光で影になるオーナーさんの顔とクルマのフロントにストロボを当てることで両立させています」と平野カメラマン。

  • 逆光を生かした車内の撮り方
  • 逆光を生かしたクルマの撮り方

「日差しが強いからといって日陰に入れてしまうと青っぽくなるしフラットな雰囲気になるので、そんな場合はあえて逆光に配置して、それを反対から撮ると、陰影っぽく見えて面白くなりますよ」と平野カメラマン。

ーーたしかに、クルマを動かしながら考えているような時がありますね

あまり日差しが強いと陰影も強くなるし、内装を撮影する時にも影が気になってしまったりするので、曇り空だと撮影は進めやすかったりします。風景としては青空がいいけど(笑)。

あとは、エンジンルームや内装を撮影する時は、影が気にならないように建物の日陰に移動して撮影したりすることもありますよね。クルマを移動する時間はロスしてしまうけれど、そのほうが早くいい写真が撮れると判断する場合もあります。

それ以外にも、曇り空のときに黒いボディのクルマを撮るとボンネットやルーフが白く写ってしまうなど、ボディカラーと天候の関係性もあるし、ほんとにその時の状況次第でいろいろ変わってきますよね。

さっきも言った通り、自分の愛車を趣味で撮影するなら、時間やタイミングをいくらでも選べるワケだから、いちばん条件のいい時に、じっくり時間をかけて撮影するのがベストだと思います。

でも、仕事で撮影する場合は天気も場所も選べないし、出張取材会はそれぞれの参加者さんの撮影時間も限られているので、そのなかでいかにベストを尽くせるか?ってことですよね。

  • 白いボディカラーは晴れの日は難しい
  • 赤いボディは晴れの日にピンクっぽくなる

ドピーカンの日に白いボディのクルマを撮るとボディラインが出にくいし、赤いクルマは日が当たると端がピンク色のなるという。また、日陰での撮影は全体的に青っぽくなる傾向で、日差しが強い日ほどその傾向は顕著に現れるという。自分で撮影する際は天気も選んでみるとよいかも?

ーーなるほど。ではレンズ選びについては?

取材会の時は、ワイドから望遠まで使える24-105mmのレンズをメインに使っています。ちょっと専門的な話になってしまいますが、f値4のレンズなので、絞りを開け気味に撮って背景をボカすことができるので、見せたいものを見せてそれ以外をぼかすことができるんです。

ほかにも70-200mmと16-35mmのレンズを持って行っているのですが、それらを使う機会は多くないかな。

取材会の際に使用する機材については「飛行機や電車移動もあるので所有している機材をフルセット持って行くことは少ないです。できるだけ機材を使わずに撮影するという手段は、海外取材の頃から意識していましたね」とのこと。

ーーほんとにいろいろ考えながら撮影しているんですね

取材会は1台あたり1時間と限られた時間での撮影ですが、そのなかで全力を尽くして記念になるような写真を撮れるよう心がけているので、ぜひみなさんも近くで開催される場合にはエントリーしてみてください。

そして、その際にはぜひ、せっかくなので洗車をして、車内も掃除してからきていただけたら嬉しいですね!

ーー平野 陽カメラマン、ありがとうございました! これからも愛車広場でその愛車の魅力を引き出す撮影をお願いします!!

GAZOO愛車広場の撮影を担当する平野カメラマンからお話を伺い、4回にわたってお届けしてきたコラム。自分の愛車を撮影する時に、少し心がけるだけでも素敵な写真が撮れそうなヒントがあったのではないでしょうか?

そして、撮影の技術はもちろん、実はクルマ好きとしての知識が増えれば増えるほど、それを活かしてカッコいい写真を撮ることができる(かもしれない)ので、ぜひみなさんも参考にしてみてくださいね!

(取材協力、写真:平野陽 文、写真:太田朗生)