気になるオールシーズンタイヤの実力、本当のところ・・・カーアイテム活用術
冬用タイヤへの履き替えというのは、カーライフにおいて重要な儀式だ。積雪が多い地域ならスタッドレスタイヤは冬の必需品だが、非降雪地帯となると悩ましい。ただ異常気象の影響もあってか、雪国でなくとも、九州も含め日本各地で、突然大雪に見舞われて交通が混乱することもある。
その際に、雪に慣れていない人たちは雪道に対して油断しすぎ、とよく言われる。雪が降り積もったり、凍った路面を、夏タイヤのまま走っているのだから、そう言われても当然だ。
しかし、雪道を走るのが1シーズンに数回程度しかない場合などは、スタッドレスに交換するのも正直抵抗があるのも事実。雪に備えてスタッドレスにするのがベストな選択とはいえ、4本交換すればけっこうな費用がかかるし、外した夏タイヤの保管場所にも困る。でも、やっぱり雪道でスリップするのは避けたい。
そこで最近注目を集めているのがオールシーズンタイヤで、各タイヤメーカーからリリースされているので興味がある方もいらっしゃるのではないだろうか。その名の通り、すべての季節に使えるタイヤとはいえ、注意点はある。今回は冬タイヤの悩みを解消しつつ、オールシーズンタイヤの実力に迫ってみる。
夏タイヤ、スタッドレスタイヤ、オールシーズンタイヤの特性をおさらい
改めて聞かれると明確に答えられないのが、夏タイヤとスタッドレスタイヤ、そしてオールシーズンタイヤの違い。夏に履くのが夏タイヤというようなことではなく、一般ユーザーにも知っておいてほしい性能を、下記に簡単にまとめてみた。
●夏タイヤ
舗装路でのグリップを重視したゴムを使っていて、濡れた路面でのウエットグリップも安全性という点で重視される。省燃費からハイグリップまで、様々な製品がある
●スタッドレスタイヤ
雪道だけでなく、凍結した路面でもある程度のグリップを発揮する冬専用タイヤ。乾いた路面も普通に走れるのもメリットで、チェーンのように路面に合わせた脱着は不要
●オールシーズンタイヤ
オールマイティな性能を確保していて、年間を通じて使用できる。乾いた路面だけでなく、ある程度の雪道も走行できるが凍結路面には弱い。
といったところ。それぞれの特徴を見ただけでも走行条件や季節に合わせてタイヤは選択したほうがいいことがわかるハズ。
このように見るとオールシーズンタイヤの使い勝手のよさが際立っているが、よく考えたらほぼすべての路面を1本でカバーできるというのはどういった特性をもっているのか疑問だったりする。今回はこの点を深堀りしてみよう。
タイヤの性能をしっかり引き出す日常点検方法
どんなタイヤであっても、本来の性能を最大限に引き出して、タイヤの寿命までしっかりと使い切るには日頃の点検が重要になる。最近ではセルフスタンドが増えたことから、スタッフによる声がけも減り、メンテナンス不良が増えている。猛暑時のタイヤトラブルが増えた遠因とも考えられる。
タイヤの点検というと難しいように思えるが、基本的には外観の点検と空気圧の点検・補充のみ。とくに空気圧の不足は燃費はもちろん、走行時に発熱を招きバーストにもつながるので、給油時でいいので月に1回程度の点検をしたい。セルフスタンドでも、スタッフにお願いすれば見てくれる。また外観の点検は3カ月毎には行いたい。
ブリヂストンタイヤによると、溝の深さは「残り溝4mm以下が夏タイヤの寿命」として交換を勧めている。
オールシーズンタイヤのルーツを知って、目的を知る
海外で生まれたオールシーズンタイヤ
ドライ路面も雪道もすべて同じタイヤで対応できれば、一年中使えるということになる。もともと広い北米では気候が地域により様々で、また日本のように高速道路で滑り止め装着規制が出ることはないので、オールテレーンタイヤと呼ばれるタイヤが普及している。
テレーンとは地形のこと。オールテレーンタイヤはすべての路面に対応しているという意味で、サイドにA/TやT/Aという刻印が入っているので見るとわかる。
またマッド&スノータイヤというのもあって、ドライ路面に加えて、泥地と雪道も走れるという意味なので、オールテレーンタイヤと意味は同じ。こちらの刻印はM&Sとなる。これらのタイヤは純正装着もされていて、アメリカ車のタイヤとしてお馴染みだったりする。
オールシーズンタイヤとオールテレーン/マッド&スノータイヤの違い
アメリカで昔から使われているオールテレーンタイヤやマッド&スノータイヤは日本で今売られているオールシーズンタイヤの仲間となるが、厳密に言うと異なる。
アメリカ車でお馴染みのものはドライ重視で、若干柔らかいゴムと横方向に広がった溝を備えてはいるものの、雪道性能はそこそこ。ニュースで見るアメリカを突然襲った寒波でツルツルとスリップするクルマはこれらのタイヤを履いていることが多い。
だが、様々な条件下を同じタイヤでカバーするという考え方自体に価値があるもので、それが現在のオールシーズンタイヤにも通ずる。やはり履き替えるのは手間だし、保管も困る、費用もかかるというのは、どの国でも同じだ。
オールシーズンタイヤはなぜ1年を通じて使えるのか
スノーフレークマークに注目
長い距離を一気に走ることも多いヨーロッパでも異なる路面に対応するタイヤの需要が高く、しかも速度域も高いので、ハイスピードでもグリップする性能が求められる。
オールシーズンタイヤでもヨーロッパで現在普及しているのは、雪道を重視したもの。これは刻印を見てもわかり、M&Sに加えて、山の中に雪の結晶が入ったスノーフレークマークと呼ばれるものが入っている。日本で今売られているオールシーズンタイヤは基本こちらにあたる。
これが入っていれば、スタッドレスタイヤには及ばないものの、雪道を走行することは可能で、冬の高速道路で見る雪の規制でも通行は可能。ちなみにすでに紹介したアメリカ車でよく見かけるM&Sマークだけのタイヤは冬用タイヤとは認められないので、規制区間を通行することはできない。
チェーン規制に注意
雪による通行規制はよく見かけるものの、それとは別にチェーン規制があるのをご存知だろうか。全国で豪雪による交通障害が発生した過去を鑑みて13区間(高速道路=7区間、直轄国道=6区間 ※2024年8月現在)が指定されていて、積雪量によって規制が行われる。
これはスタッドレスタイヤでも通行は不可で、チェーンを巻いていないと通行できないというかなり厳しいものとなっている。ちなみにチェーンには従来からの金属、樹脂製に加えて、布製も含められている。
チェーン規制が行われる道路とエリア
引用:国土交通省「チェーン規制Q&A」
https://www.mlit.go.jp/road/bosai/fuyumichi/tirechains.html
オールシーズンタイヤの特性と進化
引用:日本グッドイヤー Vector 4Seasons Hybridのカタログより
https://www.goodyear.co.jp/products/tires/4seasons/4seasons.html
雪道は問題なくても、氷結路には注意
日本ではグッドイヤーが先陣を切りつつ、今や各メーカーがラインナップする人気のタイヤカテゴリーとなっている。たまに雪が降る非降雪地のクルマでは保険的に使えるし、性能も夏タイヤやスタッドレスタイヤと比べて大きく劣るわけでもないのでなおさら。また非降雪地からウインタースポーツに出かける人にも人気で、マッド&スノータイヤであるので最近ではアウトドアで非舗装路を走ることが多い人にも注目されている。
ただ、凍結路、つまり凍った道では夏タイヤレベルしかグリップしない点には注意が必要だ。オールシーズンタイヤも冬でも硬くならないゴムを使用していたりするが、冬の道に特化したスタッドレスタイヤには敵わない部分があるのは当然のこと。
スタッドレスタイヤはツルツルの氷上でもグリップするように、表面に発生する水膜の排水性を高めたり、引っ掛け能力を高めるために混ぜものをしていたりする。そもそもトレッドの形状自体が、まったく異なる。
そのため、自分の使い道を考えた際、凍結路を走ることが多い人は避けたほうがよく、スタッドレスタイヤにしたほうがいい。逆を言えば、それ以外は大きく遜色があるわけではなく、ドライ路面も含めてグリップ力は十分。それは試乗してみても感じるところだ。いざというときの保険としては問題ない性能を発揮してくれる。
最近ではドライ性能、雪道性能を高めているのはもちろんウエット性能向上にも力が入れられていて、オールマイティなタイヤとしての性能に磨きをかけているうえに、SUVやミニバン用、商用車用も登場して、その裾野は広がっている。また温暖化によって降雪地帯でも雪が積もらない時期が発生しているだけに、今後さらに人気は高まるだろう。それだけに、性能や特性をよく知ってから購入するようにしたい。
雪が降ってからでは欲しいサイズがすぐになかったり、交換作業待ちが発生したりする可能性があるため、寒くなる前に検討するのがおすすめだ。
(文、写真:近藤暁史)
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