次世代のエコカー『FCEV』。水素をエネルギー源として走る仕組みと日本での実情

  • 岩谷産業が運営する水素ステーション葵 (c)岩谷産業株式会社

    岩谷産業が運営する水素ステーション葵 (c)岩谷産業株式会社

先日までGAZOO.comでは、電気自動車(BEV)の国内外の動向や普及しやすい環境などについての連載コラムをお届けしてきた。
その中で「BEVの弱点を補う可能性がある電気自動車」として紹介したFCEV(燃料電池電気自動車)は、“次世代のエコカー”として注目されている。

では実際に、FCEVはどのようなところが注目されているのか、また国内外で普及するためにはどのようなことが必要なのだろうか。
そうしたFCEVに関してのコラムをお届けしていこう。

水素は自給できる資源として注目

水兵リーベ僕の船。
高校で化学を選択していた人ならきっと覚えているであろうそのフレーズは、元素の周期表を暗記するためのもの。今回のテーマである水素は原子番号1番であり、そのフレーズのはじめにくる「水」は水素を意味している。元素記号は「H」。地球上でもっとも軽い、無味無臭の気体だ。

そんな水素といえばどんなイメージだろうか?
多くの人は「燃えやすいから危険」と思うかもしれない。たしかにそれは事実だ。しかし、燃えやすくて危険なのはガソリンなど私たちが日常的に使っている燃料も同じこと。「気体なので漏れやすい」と言う人もいるかもしれないが、同じことは料理などで日常使っているガス燃料にもいえる。だから水素だけをことさら特別視する必要もないだろう。

そんな水素は、実は将来的に大きく期待されているエネルギー源である。最大のポイントは、日本国内で賄える可能性のあるエネルギー源だということだ。
ご存じのように日本はエネルギー資源に乏しい国。だから基本的に石油や天然ガスなどの化石燃料などを輸入に頼っている。そのため、オイルショックをはじめとするエネルギー危機で国内が大混乱になったことが幾度となくあった。また記事執筆時(2025年春)もそうであるように、為替レートの影響も含めて原油価格の高騰に振りまわされることだってある。
それがもし、国内で自給できるエネルギー源であればそういった不安定要素が減らせる。だから日本で作れるエネルギー源である水素に期待が高まるのだ。

  • MIRAIのFCEVのロゴマーク (c)トヨタ自動車

    MIRAIのFCEVのロゴマーク (c)トヨタ自動車

FCEVとはどんなクルマ?

さて、このコラムテーマはFCEV(燃料電池電気自動車)。そんな水素をエネルギー源として走る自動車のひとつである。まだまだ一般的な認知度が高いとは言えないFCEVだが、とはいえクルマに詳しい人でも“水素で走る自動車”といえば水素エンジンではなくFCEVを思い浮かべる人が多いことだろう。

FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)とは水素ステーションなどで水素を車両へ充填し、その水素を使って走る車両の方式のひとつだ。トヨタ自動車がスーパー耐久というレースで実証実験を続けている、水素を燃料として直接燃焼させる「水素エンジン」だとガソリン車のようにそのままエンジンで燃焼させて走ることができるのだが、まだ実用化されていないのが現状だ。

それとは異なるFCEVの特徴は、水素から化学反応で電気を取り出し、その電気を使ってモーターを回して走ることである。水素から電気を取り出すその仕掛けが「燃料電池スタック」と呼ばれるものであり、分かりやすく言えばFCEVは車内に小さな発電所を積んだ自動車と考えればいいだろう。

  • MIRAIの燃料電池スタック

    銀の箱体の下半分が燃料電池スタックで、上部のFC昇圧コンバーターで電圧が昇圧されてモーターやバッテリーに電気が送られる (c)トヨタ自動車

ところで、かつて理科の実験で「水の電気分解」をしたことを覚えているだろうか。水に電気をかけると化学反応で水素と酸素に分かれるものだ。燃料電池はその実験の逆である。
水素と酸素を反応させることで、水と電気を取り出すのである。FCEVはそうやって車内で取り出した電気を使って走るというわけだ。

水素は、水素ステーションで充填したものを使う。酸素は空気中にあるのでそれを取り込めばいい。生成された水は、エンジン車が排出ガスを吐き出すように車外へ放出する。そして起こした電気を使ってモーターを回して動力とする。それがFCEVの仕組みである。

モーターを回して走るといってもBEV(バッテリー式電気自動車)と違って充電の必要がないのは、集合住宅が多い日本の都市部のような住環境とのマッチングがいい。それも魅力のひとつであり、都市部でBEVを所有できないような環境でも、FCEVなら条件さえ揃えば所有しやすいのも特徴だ。FCEVはガソリン車でいうガソリンスタンドに相当する水素ステーションで水素を充填すればそれだけで走れるのだから。

現在、日本で新車購入できるFCEV車両はトヨタの「ミライ」や「クラウンセダン」のほかホンダ「CR-V e:FCEV」、ヒョンデ「ネッソ」などがある。しかし、市民権を得ているかといえば残念ながら「ノー」だろう。

自動車の販売データをまとめている一般社団法人日本自動車販売協会連合会の統計によると、2020年に日本で新規登録されたFCEVはわずか761台。2021年は前年の12月に新型ミライが発売された影響もあって2464台(この数でやっと小型車/普通車全登録の0.1%)が登録されたが、翌2022年には848台まで落ちてしまった。その後2023年は422台、2024年は697台という状況になっている。

なぜ、FCEVが普及しないのか。

  • クラウン(セダン)FCEV (c)トヨタ自動車

    クラウン(セダン)FCEV (c)トヨタ自動車

それには3つの理由があると考えられる。ひとつは車両価格の高さだ。たとえばトヨタのクラウンセダンの燃料電池モデルは830万円だが、同じクラウンセダンでもハイブリッドモデルは730万円で購入できる。
ホンダCR-V e:FCEVも、現時点で日本では燃料電池以外のパワートレインが導入されていないので直接比較はできないものの、809万4900円という値段はこのクラスのSUVとしてはかなり高価と言える。FCEVは値段が高いのだ。

ただしFCEV購入時には「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」として国から145万3000円(2025年5月現在)の補助金が交付される(加えて独自の補助金が用意される自治体もあり東京都なら最大190万円)。それを鑑みればクラウンセダンではハイブリッドモデルより安く購入できることになるが、とはいえ600万円前後というプライスは一般的に手の届きやすい価格とは言い難い。

  • (c)岩谷産業株式会社

    (c)岩谷産業株式会社

ふたつめの理由は、水素ステーションの状況である。一般社団法人次世代自動車振興センターの統計によると、2025年4月時点での水素ステーションの数は全国で154カ所。これは約2万7000カ所(資源エネルギー庁による2024年度末の統計)あるガソリンスタンドに比べると圧倒的に少なく、また首都圏、中京圏、関西圏、そして福岡周辺といった大都市周辺だけに集中しているのも事実だ。
そのため、自宅の近くに水素ステーションがある人は少なく、利便性が高いとは言えない状況である。さらにいえば、営業時間が平日の昼間だけという水素ステーションも少なくないから、24時間営業も多いガソリンスタンドよりも充填に自由がないのだ。

3つめはリセールバリューの低さである。中古車検索サイトなどを見ればわかるように、FCEVの中古車価格は同じ新車価格帯で販売されていたガソリン車やハイブリッドカーに比べると低い傾向にある。これは中古車価格が需要と供給の関係に基づいて決まること、すなわちFCEVの中古車としての人気が低いことに起因する。それは新車でFCEVを買おうというひとにとってはハードルのひとつになり得るだろう。

  • 初代MIRAIと2台目MIRAI

    MIRAIが初代から2代目となり、燃料電池ユニットの出力は155PSから174PSに、高効率化とタンクを2本から3本に増やしたことで航続距離が最大650kmから850kmに増えるなど進化を続けている (c)トヨタ自動車

上記から、FCEVは現時点では誰にでもオススメできるという類のクルマではないだろう。しかし、高い可能性を秘めているのもまた事実である。
だから自動車メーカーは歩みを止めず、研究・開発を続けているのだ。

次回以降のコラムでは、FCEVの可能性や水素がどこで製造され運ばれてくるのか、国内での水素普及に向けた取り組み、さらに海外での実情など、FCEVに関係する国内外の動向をお届けしていこう。

(文:工藤貴宏 写真:岩崎産業株式会社、トヨタ自動車)

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