どこまでも高みを目指し、技術と情熱を注ぐ『無限』スピリッツは、限界のその先へ挑み続ける
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スーパーフォーミュラで2021年、22年と2年連続ドライバーズチャンピオンを獲得したTEAM MUGEN
「ホンダ」と「無限」。このふたつの名を聞けば、モータースポーツファンならば熱きレーシングフィールドを想像するだろう。F1をはじめとするフォーミュラカー、グループAやSUPER GTなどでの輝かしい戦績がその根拠となる。
加えて、市販のホンダ車用アイテムに刻まれた『無限 MUGEN』(以下:無限)のパーツを装着、所有することによるステイタス性もまた然り。それらの背景には、クルマに対する高い志と、それを貫く職人の情熱があったに他ならない。
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創業当時のエンジンベンチ室。計測機に据えられているのは、無限が最初に手掛けたエンジン『MF318』。
1973年に埼玉県朝霞市で産声をあげた無限は、本田技研工業の創業者、本田宗一郎氏の長男である、本田博俊氏の手によって創業を開始する。父が築いたホンダとは資本関係は持たず、独立系のエンジニアリング企業としてのスタートであった。
『無限』の根幹には、常にレーシングフィールドがあり、極限の性能が求められるモータースポーツフィールドを主戦の場としてきた歴史がある。レーシングエンジンの開発・製造を主軸としながら、その志は、時にホンダを超える挑戦でもあり『もうひとつのホンダ』と言っても過言ではない存在感を放ち続けた。
創業直後にFJ1300でデビューウィンを挙げたMF318エンジン
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シビックベースのFJ1300用のエンジン「MF318」
設立間もない1973年。最初に取り掛かった仕事は、シビック1200のエンジンをベースに、無限の手によって製作された『MF318』エンジンであった。FJ1300フォーミュラ用として、英国のGRD(Group Racing Developments)製、GRD373シャーシに搭載された。
MF318のカタログスペックは、OHC4気筒8バルブの1273ccで、圧縮比は11.0と当時としては相当高い圧縮比に設定。そして、そのパワーは135ps/8000rpm、12.8kgm/6500rpmと、今から半世紀も前にリッター100psを超えるという高度なエンジニアリングが施されたものであった。
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FJ1300のデビューウィンを飾ったGRDシビック
そして、1973年11月11日。MF318を搭載したFJ1300が迎えた初戦は、鈴鹿サーキットで開催された『全日本選手権 鈴鹿自動車レース F2000/FJ1300チャンピオン』レース。
名手、高武富久美が駆るゼッケン15番の『GRDシビック』が、いきなりの優勝を果たすこととなる。
その驚愕のリザルトによって、当時主力であった日産のA12型エンジンを搭載していたエントラントは、次々とMF318エンジンにコンバートするなど、一気に『無限』の名を世に知らしめた。
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鮮烈なデビューとは裏腹に、その後は苦戦が強いられていたMF318エンジン。しかし、77年のFJ1300シリーズで7戦全勝。中嶋 悟がシリーズチャンピオンを獲得した
その後、フォーミュラカーレースでは、1980年代は、無限製のエンジン搭載車が全日本F2選手権でチャンピオンを獲得。1990年代のF3では、日本国内だけでなく、世界各地で無限製エンジンが勝利を収めるなど、輝かしいリザルトを積み上げた。
そんな中でも、1992年から参戦したフォーミュラの最高峰、F1への挑戦というのは大きなトピックとなる。
F1で4勝を挙げた無限エンジン
1991年のホンダは、V型12気筒エンジン「RA121E」を搭載するマクラーレン・ホンダMP4/6でアイルトン・セナが3度目のワールドチャンピオンに輝いた。そのV12エンジンと並行してティレルに提供していた3.5ℓ V型10気筒エンジン「RA101E」をホンダと共同開発するという形で参画、1992年からは無限ホンダとして参戦を開始。最初のエンジン供給はフットワーク。1994年にはチーム・ロータスに供給、資金難にあえぐチーム状況ではあったが、すべて新規設計の「MF351HD」を投入した第12戦では予選4番手を記録するなど、そのポテンシャルを発揮するシーンもあった。
1995年からはリジェに供給を開始、この年から排気量が3.5Lから3.0Lに変更になるも3位と2位と2度の表彰台を獲得している。そしてリジェとの2年目となる1996年のモナコGPでは、無限『MF301HA』エンジンを搭載したリジェが、オリビエ・パニスのドライブによって初勝利を挙げた。
1998年にはジョーダンにエンジン提供を開始し1勝、1999年には2勝を挙げコンストラクター選手権3位の獲得に貢献するなど、エンジンメーカーとしての確固たる地位を築いていた。
その後、2000年にはホンダがワークスとしてのF1復帰を決め、2000年シーズンをもってその役割を終える形でF1の活動から撤退したが、この時期の無限は、独立企業でありながらも、事実上“ホンダのもう一つのF1部門”とも言える存在であったと言っても良いだろう。
また、国内のツーリングカーレースでの活躍も見どころは多い。80~90年代のグループAレースや、全日本ツーリングカー選手権(JTC・JTCC)では、シビックやアコードをベースにしたマシンで数々の表彰台を奪取。
1998年からは全日本GT選手権(JGTC)、そして、2005年から始まったSUPER GT(GT500クラス、GT300クラス)に至るまで、常に最前線で戦い続けている。
多様なホンダの市販車向けのカスタムパーツを開発
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1984年に登場した『MUGEN CR-X Pro.』。ホンダCR-X用として、ボディキット、エンジンパワーアップキット、サスペンションキットが組み込まれている。
レース畑で活躍していた一方、アフターマーケット向けの商品開発にも早くから着手していた。1980年代に入ると、ホンダ車を知り尽くした職人達による“走りのための提案”として、市販車向けのカスタマイズパーツ事業を本格的にスタートさせる。
まずは、シビックやCR-X、インテグラなど、若者が好むであろう車種の、ボディキットやエンジンパワーアップキット、サスペンションキットなどを次々とリリース。それら、各種アイテム群はドレスアップの目的にとどまらず、実際に走行性能を高めるための“本物のチューニング”として評価された。
もともとスポーティなクルマをベース車として選定しているだけに、そこに無限のアイテムを乗算することで、飛躍的な高性能化を実現。ノーマルでは決して味わえない至高のドライビングプレジャーが提供された。
2025年現在のカスタマイズパーツ群は、スポーツタイプのクルマだけでなく、セダンやミニバン、SUVにコンパクトカー、そして軽自動車など、エアロパーツを中心に、インテリア系パーツやアルミホイール、車種によってはステアリングやマフラーなど、多くのホンダ車ユーザーの気持ちを高揚させるに十分なラインアップを誇る。
それらのアイテムは、ベース車の持つ良いところを残しながら、その要素をさらに引き立てる絶妙な設計が施され、所有者の満足度を満たしてくれるものばかりである。
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2007年に登場したコンプリートカー第一弾、300台限定の『MUGEN RR(シビックタイプR)』。15psアップの240psを発揮するエンジンに、エアロパーツ、足回り、ブレーキのみならずブリヂストンタイヤまでが専用設計。インテリアも専用品を多数採用している
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2012年に登場した300台限定の『MUGEN RZ』は、CR-Zをベースにしたハイブリットカー。36psアップさせた156ps+モーターの20psで、「SPORT」「NORMAL」「ECON」と3つのモードを選べ、過激な走行性能からエコモードまで多様な走行体験が可能だ
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2016年に発売したコンプリートカー第三弾となる『MUGEN RA』は、S660がベースとなっていて、660台限定。専用のビルシュタインダンパーとホイールの軽量化(4本合計-5.8kg)でリニアなハンドリングを実現。赤を多用したインテリアもその気にさせる
一般ユーザーに向けてリリースされている商品の、最高峰とも言えるのが、「MUGEN RR(シビック)」、「MUGEN RZ(CR-Z)」、「MUGEN RA(S660)」といった『コンプリートカー』ではないだろうか。
MUGEN RRとMUGEN RZはエンジンはもちろん、足回りやエアロパーツまで、走る、曲がる、止まるというあらゆる性能を極限まで引き上げ、MUGEN RAは特に足回りにこだわりその走りの質を高めている。さらに、見た目や質感に至るまで1台1台丁寧に組み上げられた車両には、まさに無限の魂が込められた珠玉の逸品である。
2025年現在はリリースされていないのが残念であるが、とくに熱心な無限ファンにとっては、喉から手が出るほどに所有してみたいクルマであることは間違いない。これらコンプリートカーは、中古車市場でもプレミア価格がつくなど高い人気を誇っている。
2003年。無限は新体制となる「株式会社M-TEC」として再編。これによって経営体制を強化しながら、無限ブランドを継続する形で飛躍の道を歩んでいる。2023年には創業50周年を迎え、さらなるグローバル市場を視野に入れた新たな挑戦も始まっている。
現在の無限は、スーパーフォーミュラやSUPER GTなどを始めとする、多岐にわたるモータースポーツ活動を展開。ホンダ車用のカスタマイズパーツだけでなく、二輪車用のパーツもラインアップされ、大盛況となっている。
ホンダという巨大企業では実現しづらい繊細な挑戦や、自由な開発精神を体現し続けてきた無限。レーシングフィールドで鍛えられた技術を市販車に、そしてユーザーからの声を再び商品やレースで還元する。その絶え間ない往復こそが、無限のものづくりの核心と言えるのではないだろうか。
この先、たとえ自動車業界の全てが「EV」や「AI」、「自動運転」へと舵を切ったとしても、無限の役割は終わらない。我々が『走る歓び』を求め続ける限り、無限はその先頭を走り続けるだろう。
『無限』とは、技術のことではない。“限界を超える魂”のことであるからだ。
(写真:M-TEC、本田技研工業)
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