愛犬のその乗せ方は違法? 道路交通法から考える、愛犬との安全なドライブ 【ペットとドライブにでかけたい!第1回】
愛犬とクルマで出かけたい――そう考えるドライバーは少なくありません。ドッグランへのお出かけや旅行、日々の移動まで、クルマは愛犬との暮らしを豊かにしてくれる存在です。
でも「犬をクルマに乗せることは法律的に問題ないの?乗せ方は?」と聞かれると、はっきり答えられる人は多くないのではないでしょうか。愛犬のために良かれと思ってしていることが、実は法律の観点から見るとリスクをはらんでいる――そんなケースもあり得ます。
結論から言えば、犬をクルマに同乗させること自体は違法ではありません。しかし、乗せ方次第では道路交通法違反と判断される可能性があります。本連載「ペットとドライブ」の第1回は、いちばん大切な「安全」をテーマに、まずは法律の観点から、なぜ愛犬の乗せ方が違反になり得るのか、そしてドライバーは何を意識すべきかを、ドライバーと愛犬家双方の視点から整理していきます。
道路交通法第70条が定めること
まず理解しておきたいのが、道路交通法の第70条(以下、法律)です。この条文は、安全運転に関する義務を定めた規定で、次のように書かれています。
(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
この条文の特徴は、具体的な禁止行為を細かく列挙していないことにあります。飲酒運転や速度超過のように「これをしたら即違反」と明確に線引きされている規定とは異なります。運転時の状況全体を見て、安全に運転できていたかどうかを判断するための包括的な規定です。
「安全運転を妨げる状態」が問題になる
また、法律で問われるのは事故が起きたかどうかではありません。重要なのは、ドライバーが安全に運転できる状態にあったかどうかです。運転時における車両の状態や積載物の状況、同乗者や同乗物の状態などを含めて総合的に判断されます。
ここでいう「同乗物」には、犬などの動物も含まれます。走行中の車内は、音や振動、加減速など、犬にとって落ち着ける環境とは言えません。そうした環境下、犬の動きが予測できない状態にあることは、ドライバーだけでなく愛犬自身にとってもリスクになるのです。
なぜ「犬の乗せ方」が法律に関係するのか?
「犬の“乗せ方”が法律の話になるの?」
そう感じる愛犬家もいるでしょう。しかし、道路交通法は交通の安全を守るための法律です。運転操作に影響を及ぼす可能性がある存在であれば、それが人であっても、荷物であっても、動物であっても、同じ基準で評価されます。
犬であることを理由に特別に許容されるわけではありません。さらに、見方を変えれば、愛犬の安全も、人と同じレベルで考えなければならないということでもあります。
愛犬を膝に乗せたまま運転する行為をSNSなどで見かけることがあります。飼い主としては「安心させたい」「そばにいさせてあげたい」という気持ちからの行動かもしれません。しかし、これは安全運転を妨げるおそれが極めて高い状態です。具体的には:
- ハンドル操作が制限される
- 犬が突然動くことで運転ミスを誘発する
- 視線が犬に向き、前方不注意につながる
- 急ブレーキや衝突時、エアバッグによって犬とドライバー双方がケガをする可能性がある
などのリスクが考えられます。犬の立場で考えても、運転席は決して安全な場所ではありません。愛犬を落ち着かせるつもりの行動が、結果的に危険性を高めてしまうこともあるのです。
ここで誤解されやすいのが「事故を起こさなければ問題ない」という考え方です。しかし、道路交通法第70条は、結果ではなく、運転時の状態を問う規定です。たとえ事故が起きていなくても「運転操作に支障がある」「前方への注意が明らかに散漫になっている」などと警察官が判断すれば指導や取り締まりの対象となり得ます。「何も起きなかったから大丈夫」ではなく、何も起きない状態を作れているかが問われる――それが安全運転義務の考え方です。
グレーゾーンになりやすい愛犬の乗せ方
では、どこまでが問題で、どこからが安全と言えるのでしょうか。実際には「この乗せ方なら絶対に違反」「この方法なら必ず合法」と明確に線を引くことはできません。例えば:
- 後席に座らせているが、固定していない
- 助手席に座らせているが、身体が自由に動く
- 抱っこしてはいないが、足元を行き来できる
などのケースでは、状況次第で安全運転を妨げると判断される可能性があります。判断の軸になるのは、犬が運転操作やドライバーの集中力に影響を与える可能性があるかどうかです。
では、ドライバーは何を意識すればよいのでしょうか。ポイントはシンプルです。犬が運転操作に一切影響を与えない状態を、物理的に作ることです。これは「厳しく管理する」という話ではありません。愛犬が予期せぬ動きをしてしまっても、事故につながらない環境を整えるという考え方です。
シートベルトやケージは「考え方を形にする手段」
犬用のシートベルトやクレート(ケージ)は、この「物理的に関与させない」という考え方を、具体的な形にするための手段です。これらの装備は:
- 犬の行動範囲を制限する
- 運転席への侵入を防ぐ
- 走行中の不安定さから犬を守る
という点で、安全運転義務の考え方と整合性があります。どの方法が適しているかは、車種や移動距離、愛犬の性格や飼い主の習慣によって異なります。大切なのは、愛犬にとってもドライバーにとっても、安心できる状態を作ることです。
道路交通法第70条はドライバーを縛るための条文でもありません。目的は事故を未然に防ぎ、運転者と周囲の命を守ることにあります。愛犬を車内で自由にさせておくことが優しさに思えても、それが原因で事故を起こせば命を守れない状況が生まれてしまいます。だからこそ、愛犬の乗せ方はマナーや愛犬家の「気持ち」ではなく、安全の問題として考えることが大切です。
次回予告:シートベルト編へ
次回は「犬用の“シートベルト”」などのグッズに焦点を当てて、安全運転義務の考え方を具体的にどう形にすればよいのかを整理します。愛犬の安全を守りながら、ドライバーも安心して運転し、同乗者もくつろぐことができるために知っておきたいポイントを紹介する予定です。
ペットとクルマの関係を、感覚ではなく根拠ある安全で考える――その第一歩として、ぜひ続けて読んでいただければと思います。
(文と写真:石川 徹)
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