クルマが人生を変えたとき。発酵料理研究家 高橋香葉×マツダ・ロードスター

「カーライフ」とよく言いますが、クルマに付随したカーライフがあるのではなく、人の人生がまずあって、そこに寄り添うようにクルマがいるもの。決してマニアックでなくても、そこには様々なエピソードがあります。クルマに囲まれて暮らしているなかで、つい忘れてしまっていたことを意外な人から教えられることも少なくありません。

旧知の仲である発酵料理研究家で温泉ソムリエでもある高橋香葉さんから、頂いたメッセージには、彼女の決して尽きない「ロードスターへの想い」がしたためられていました。

癒される場所であり、鼓舞するもの。

愛車の写真が現在手元にないのが目下の不満。同年式同グレード同色のクルマを見つけた際は直ちに撮影をすると言う高橋さん。彼女はシルバーの2代目ロードスターを忘れることができません

「ロードスターがなければこの仕事は絶対にしていません」(高橋さん、以下同)

そう断言したのは、発酵食品料理研究家の高橋香葉さん。様々な食品のプロデュースやメディアで活躍中の彼女。この道へ進まれたきっかけを聞いたところ、最初にでてきた言葉がこれだったのです。

高橋さんがマツダ・ロードスターを購入したのは26歳の頃。当時愛知県で会社員生活をしながら、ロードスターを購入するための貯金を始めていた彼女。興味を持ったきっかけは雑誌の記事だったそうです。

「ヘアメイクアップアーティストの藤原美智子さんの記事を読んで『これだ』と決めました」

その記事には、住む場所とクルマは身の丈にあったものにこだわらないことが成功の秘訣。どんなに背伸びしても自分の気に入った場所、クルマを選ぶべきと書かれていたそう。かく言う藤原さんが当時乗られていたのが、ブルーのユーノス・ロードスターだったのだとか。瞬く間に憧れ、そのクルマを手に入れたい! と思い、こつこつと貯金をする日々が始まるのです。

「ロードスターを絶対買う、そして絶対それに見合う素敵な女性になる、そう決心しました。このクルマに出会ったからこそ決心できたし、それに向けて努力もさせてくれたんだと思います」

ロードスターが、女性ならではの向上心をしっかり受け止めることができるクルマ、と言うことは新鮮な発見です。

そして、100万円が貯まった頃、ディーラーの中古車で、2代目の大変キレイなシルバーのロードスターと出会い、現金一括で購入。彼女は念願のロードスターを手に入れました。

「ボンネットへの映り込みが印象的だったのです。ライトの上の辺りに少し凹面になっている場所があるでしょ。景色が映り込む時のあそこの表情が好きなんです」

高橋さん曰く、森が映り込むと「湖ができるよう」な凹面は最新型NDロードスターでも健在

納車されてからは、休みのたびに出かられたそう。また、仕事で上手く行かないときなどは、ひとりでロードスターを連れ出し、クルマの中で泣いたことさえあったと言います。

「走るといろんなこと忘れさせてくれました。そして、がんばろうと思えたんです」

ロードスターの購入について、最初は家族から反対されたそうです。

「荷物も詰めないし、そんな派手なクルマよしなさい」と、とくにお母様は反対だったとか。しかし、“素敵な女性になるために”購入したロードスター。ある日、お母様を隣に乗せ、蒲郡プリンスホテル(現:蒲郡クラシックホテル)までドライブへ。そのとき「いいクルマね」と言われ、とても嬉しかったのだそうです。
ご両親に認められる“大人の女性への道“もロードスターとの暮らしの中で、課題のひとつだった高橋さん。この出来事以降、ご両親とこの蒲郡のホテルへ行くのが恒例行事になったのだとか。ただし、ロードスターはふたりしか乗れないため、ご両親は別のクルマで出かけられたそうですよ。

「麹」へ導いてくれたのはロードスター

ある日お休みを利用して千葉へ出かけた際、運命の出会いがあったそうです。当時忙しさに様々なことを犠牲にしていた高橋さん。「これじゃいけない」と思っていた矢先、旅先でフラっと一軒のお醤油屋さんに立ち寄りました。
それが今も富津市佐貫にある「宮醤油」さん。予約もせず訪れた高橋さんが見学させてほしいと言うと、快く見せてくれたのだそうです。

「各工程で職人さんが丁寧に案内してくださって、また、生き物を扱うように醤油と向き合うその姿に感銘を受けました」

インタビューの当日にお持ちくださった宮醤油。マスプロダクトではない丁寧な仕事を受け継ぐ、今でも高橋さんお気に入りの逸品

この宮醤油との出会いがきっかけで食べるものにも気をつけるようになり、麹や発酵のことを勉強するようになったのだそう。

「あの時ロードスターに乗っていて、自分の相棒としていつも一緒だったからこそ、今があるんです」

彼女は、繰り返すように話してくれました。

伝染するロードスター愛、そして別れ。

その後東京に活動の拠点を移してからもロードスターは良き相棒でした。料理研究家への道を歩き出した頃などは、荷物もたくさん運んだりしたそうです。駐車場も安くはなかったそうですが「払ってでもそばにおいておくことが大事」そう思えるクルマだったのだとか。

愛知県まで帰るのも新幹線ではなくロードスター。東名高速道路という一本道を走ると、いろんなことを忘れさせてくれるのだそうです。

「乗ること自体がストレス解消。東京を仕事が終わったあとに出て深夜に実家に到着、という時間だと渋滞もなく快適。到着するとぐっすり眠れます。静岡辺りを通るころにはストレスがなくなるので『帰省しなくてもいいかな』と思ったこともあるんですよ」

そんなある日、大学の同級生を久しぶりに隣に乗せ、家まで送ってあげた時にこんなことがあったそうです。

「『かよちゃんがいいって言うから、注文しちゃったロードスター』って言われた時は嬉しかったです。それも、新車ですよ!」

そんな周囲まで“愛”が伝染するほどに愛していたロードスターですが別れの時が来ます。きっかけは引っ越し。クルマを置くための車庫がなくなってしまいました。

「さすがに寂しかったです。それでも今も最新型のロードスターの、チェックだけはかかさないんです」

最後にこう話してくださいました。

「同じ景色で、ロードスターが見せてくれる景色が同じなのに、自分が見ている景色は確実に変わったと思います」

そして、今後も新しいロードスターにまた乗りたいという高橋さん。その眼差しの先に「買うからには見合う女性を目指し続けなければならない」というある種の覚悟があるように感じずにはいられませんでした。

インタビューを終えて

神田明神門前の麹の専門店「三河屋綾部商店」さんのご主人ご夫妻と高橋さん

ここは、甘酒をいただくことができます。爽やかな甘みと、すっきりとキレのよい味わいの甘酒の香りは、華やかさを感じます。仰々しさはなくとも爽やかな乗り味の最新型ロードスターは、これに通じるキャラクターを感じるものです。

神田明神の参拝の方にも大人気のロードスター。「これなんと言うクルマなの?」と言うと「マツダのロードスター」と言って解説が始まる高橋香葉さん。それをメモするご夫人

歳月を重ねロードスターにも、ヒストリーと呼べる「旨味」のようなものが醸し出されてきました。発酵食品のスペシャリストも、このことに気がついているような気がしてならないのです。

古くから生活の知恵として発酵食品を取り入れてきた日本で生まれたこのクルマが、再び高橋香葉さんの手元で熟成されていく日が再び来るのが、実に待ち遠しい。私にとってもそんな一日でした。

神田明神にお参りした記念に
三河屋さんで頂いた甘酒。ショウガの粉を振っていただきます。自然の甘さですっきり

取材協力:
三河屋綾部商店 http://www.ntv.co.jp/burari/990612/info7.html
マツダ株式会社 http://www.mazda.co.jp/
千葉県富津市の佐貫にある「宮醤油」 http://www.miyashoyu.co.jp/

(中込健太郎+ノオト)

[ガズー編集部]