ただいま86歳!? 1930年製シトロエン・ C6試乗レポート

アンシエントホテル浅間軽井沢を訪れるのは今回で2回目だが、なんだか自分の家にいるようなくつろぎを覚えるのでいつも不思議になります。ここには非常に貴重な1930年製のシトロエン・C6があり、今回敷地内で乗せていただく機会をいただきました。

C6を収めるために建てられたガレージが庭にあるホテル

このクルマのために作られた空間。極めて居心地がいい

木々に囲まれた軽井沢の奥まった場所にあるこのホテル。庭の一角にウッディーな雰囲気の良いガレージがあり、そこにC6が収まっています。クルマの展示をしようと思って立てたガレージに、この古いシトロエンを収めたのではなく、このシトロエンが来ることが決まってからガレージを建てたのだそうです。

このガレージでは、蓄音機や暖炉とともに季節の飲み物をいただきながら、クラシックカーの横でゆったりとした時間を過ごすことができます。

ここだけずいぶんと昔にタイムスリップしたような雰囲気

訪れた日はC6を納品した東京・大田区のアウトレーヴが、文化芸術をはじめとした人生に潤いをもたらす提案を行う新会社「株式会社ポン・ド・レーヴ」を設立。そのお披露目を兼ねたツーリング・コンサートが開かれていました。終了後は食事をしながら皆で親睦を深めました。

この日駆けつけたクルマたちの一部

長く日本に棲息していたというこのシトロエン・C6は、シトロエンの創設者アンドレ・シトロエンが乗っていたクルマだそうです。
またアンシエントホテル浅間軽井沢の田中社長は他にシトロエンを複数所有するエンスージアスト。「秋口からは宿泊客を軽井沢散策にお連れできたら」と語っていました。

その優雅な出で立ちとは裏腹に、今のクルマとは段違いの勇ましい音がするものだ。このクルマも動態保存のありがたみは存分に実感することができる

1930年のC6でホテル内をドライブ!

今からおよそ86年前に作られたというこの貴重なクルマを、今回はエンジンの始動から、このクルマの住処であるウッドガレージの周りを2周ほどさせていただきました。

大きな車名を表すプレート

シトロエンというと「前衛的」というイメージはほぼ無条件反射的に頭に思い浮かぶものです。しかし昔のクルマはそんなに他のクルマと変わらないのかな? というのが、最初目の当たりにした時の印象でした。

この日駆けつけたシトロエン・AMI8。このクルマも珍しい。特にこの並びは、今や日本でなくとも非常に貴重な2ショット

1930年のクルマのため、エンジンをかける前に儀式を経なければなりません。そのためにボンネットを開けたとたん、やっぱり個性的なクルマだな、と思わされました。

あれ? エンジンは? 大きなフードの中が一見、空なのではないか。

そう思うほど低い位置にエンジンが搭載されているのです。すでにFRのなんたるか、FFのなんたるかを知り尽くし、適切な搭載レイアウトにするばかりか、重心レイアウトまでも考えられた無理のないレイアウトだな、と感じさせられました。

ボンネットを開けると、極めてその搭載位置が低いことがわかるだろう

エンジンルームの奥の燃料のコックを開けるとフューエルラインを通りガソリンがエンジン側に送り出されます。手で少しポンピングしてあげて気化させたガソリンを送り込みます。

あとは運転席に戻り、バッテリーのキルスイッチをオンにして主電源を入れ、イグニッションを引いてあげるとエンジンが始動します。あまりにあっという間の出来事でちょっと拍子抜けするほどでした。

儀式の方法。①まず、エンジンルームの一番奥にあるガソリンのコックを開く
②次に手でポンピングし、キャブレターにあらかじめガソリンを送り込む
③運転席に座りバッテリーのキルスイッチ(左)をリリースして④右のスターターを引く

一旦エンジンがかかれば、さすがの2400ccOHVエンジン。常に十分なトルクを発生し続けており、ゆっくりとクラッチを繋げばスーッと前に動き出します。クラッチもしっかりしていて不自然な感覚はありません。極めて低い回転数でもクルマのコントロールがしやすく、とても86年も前のクルマに乗っているとは感じられませんでした。

運転席周りはシンプルそのもの。しかし当時の高級車らしく、細部に至るまで、内装のつくりなどは大変細かい

ただ、ステアリングはめっぽう重いのです。ただそれも動き出してから回せば、操作できないものでもないし、逆にそのくらい大幅にアナログなポイントがないと1930年製であることを忘れそうでした。

2周したら車両感覚もすっかり自分のものに。こんな狭いガレージへの進入も切り返しなしで出来るようになった。扱いに気を使うばかりで運転をした感覚が乏しいというようなこともなかった

今のドライブでは何不自由することはありませんが、こんなクルマで昔のドライブに思いをはせるようなピクニックに出かけてみたい。そんな気にさせるクルマでした。

ここにはアンドレ・シトロエンその人が載っていたかもしれないと思うと感慨深いものがある。車体のサイズは最近まで日本で販売されていたシトロエンのモデル「C5」ほどながら、高さもありキャビンの広さなどはかなり大きい
コーションプレート。ロゴを見るとC6のロゴはかなりモダンで、最近まで製造されていたC6のそれに限りなく近い
マセラティとも関係の深かったシトロエン。自社の高級 ジーティーカー「SM」のためにエンジンをマセラティに作らせことも

(中込健太郎+ノオト)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road