もっと長距離を走りたくなる!  ZENOS E10試乗レポート

「雨天の場合試乗会は中止です」

事前にそう告げられていたので、前日は少しそわそわしたものです。いてもたってもいられず、雨のそぼ降る中、真夜中から箱根の集合場所に向かい待機してしまいました。「メディア向け試乗会」という、仰々しいものではなく、「興味のあるメディア関係の方、お集まりください」というノリのお披露目会。試乗会の開始時間には、朝まで降っていた雨も上がり、気持ちのいい気候のもと、上陸したばかりのZENOS E10のステアリングを握ってきました。

量産車ではできない造形も非常にアクティブな感覚にさせる

英国の小型スポーツカーZENOS(ゼノス)E10

触れ込みとしては「車重700キロ、最高出力200馬力」。現在市販されているクルマは、安全装備や付帯装置が多いので、車重は重たくなる傾向にあります。そのため1500キロ前後の車重のクルマも珍しくないなか、このクルマは半分程度の車重しかありません。200馬力の俊足を満喫したいのではなく、「何か異次元の軽やかさの香り」乗る前から楽しみでなりませんでした。

そして、トラックで運ばれてきたZENOSが私たちの前に姿を現すや、すぐにステアリングを握る機会が回ってきたのです。

背後にミドシップされるフォード製のエンジンは操っていて好感を覚える。艶やかだったり官能的だったり、そんな小手先の演出ではなく、クルマとして爽快感があるのだ
シフトチェンジは軽妙にスナップすれば良い。クラッチはしっかりした感覚だ

遮るものが「何もない」クルマ

「どうぞ。それでは行ってらっしゃい」

そう言って送り出してくれたのは、株式会社グループエム ゼノス事業部の甲斐さん。目の前のZENOS E10に乗り込もうとするも、ドアがない。サイドウィンドウもありません。聞けば、フロントウィンドウも基本はなく、オプションで注文装着するのだそうです。これはなかなかスパルタンです。
乗る時には、一度運転席の上に立ち上がります。そこからフロントウィンドウの上端に手をかけしゃがみこんで運転席に潜り込みました。一連の動作は慣れるとさほど窮屈な印象はありません。一応トノーカバーと、エマージェンシー用の雨よけとしての簡易的な幌は用意されるとのことですが、それをしたまま乗り込むのはかなり至難の技です。

エンジンをかけると、メーター類から入ってくる情報は最小限。運転に集中出来る環境は、まるで遊園地の絶叫マシーンに乗った時のような開放感、タイト感、軽快感を覚えます。シートの作りも決して凝ったものではありませんが、不思議と体にフィットします。そしてサイズもたっぷり。一度収まると、むしろ愉快になるようなワクワクさせるものがあるのです。

余分なものは何もない。しかし余分なのだからなくていいのだ。「断捨離済み」な車内は徳を感じさせるような雰囲気がある

シフトをローに入れ、スタートする瞬間「あ、軽いな」と感じました。ドライバーの背後に搭載されているエンジンが、自分を追い越して行きそうなほどスッと前に動きます。同時にフォードの直噴2000cc4気筒エンジンは、元気にまわり、心地よいメカニカルノートを聞かせてくれました。内燃機関としてとてもまっとうだなあ、と思わせるトルクのわきだしを感じるのです。
芦ノ湖の関所跡のあたりから登り坂で5速に入れ、1000回転前後でそのまま踏み込んでも、ノッキングのような症状も一切表に出さず加速しながら登っていってくれる。実はかなりリベラルで乗り手を選ばない、そんなクルマでもあるのだなという印象を覚えました。

あとから設置されたというフロントウィンドウは実にいい仕事をします。名だたるオープンカーと比べても巻き込みの少なさでは、比肩しうるレベルなのではないでしょうか。少しペースを上げても、巻き込みに鬱陶しさを感じませんでした。

そして窓がないから、多少雨が降ったとしても「曇らない」。これは無視できないメリットではないでしょうか。風土や気候と戯れながらライトウェイトスポーツカーを操ることは、文学に浸るのに似ているな、なんて思ったりしたものです。遮るものがないことは、このクルマのピュアリティを担保する上で、重要なファクターだと思いました。

ボディにはリサイクルカーボンも採用されている。エコロジーであるそのこと自体もひとつの価値だが、中空構造になり強度的にも奏功するのだという。こういう発想は新時代のスポーツカーらしい

相当に硬いボディとしなやかなアシ

メインフレームは贅沢な押出成型のアルミニウム製。このフレームやコックピットを形成しているハニカム構造のドライカーボンのボディは、軽い中でもしっかりとした感じを与えます。アシのしなやかさは、かなりペースを上げていってもあくまでコントローラブル。クルマの「fun」な部分を堪能することができます。

ボディ自体は硬めなこともあり、それなりにガタピシしますし、荷物なんかも積めません。2名乗車で旅行に行くのは少し厳しいかもしれませんが、アシのしなやかさのおかげで、長い時間乗っていてもさほど疲労を感じません。この点はもっと長距離を乗って試してみたいと思うほどでした。

アシの仕事が最大限効果を出せるよう、ボディは高い剛性を誇る

視界良好。死角が少ない

一見奇抜なボディながら、簡素な作りのミラーとボディ形状が作る視界がわりと良かったこと。これは実は個人的に感心させられた点でした。ボディの周りがよく見えたので、安心して運転できます。また、わりと大きなカウルがパッセンジャーの背後にあるのですが、角度、位置関係の兼ね合いで、視界を遮るようなこともありませんでした。

足元のタイヤのブランドが「AVON」。こういうのを見ると英国車だなあと思ってしまう

このあと導入される、よりハイパワーなE10sも含め、700万円を挟んでの価格帯になるでしょう。これを選べる人は経済力以上に何かゆとりのようなものを感じると思うのです。前述の甲斐さん曰く「すでに本国に対し、10台を超えるオーダーを打診しています。継続的なオーダーを入れることで、仕様等でもコミュニケーションをとりながら日本に向けてクルマを作ってもらえるのです。今後は、日本においては必須であるエアコンの設置や、助手席の足元が少し広すぎるので、そこにフットレストのようなものがあったほうがいいのでは、といった交渉もしています」とのこと。「まずは日本で一人でも多くの方に乗っていただきたいので、イベントなどにも積極的に参加していきたい」と意欲的でした。

株式会社 グループエムの甲斐さん(一番左)の熱い話を聞く。「まずは一人でも多くの人に知ってほしいのです」と甲斐さん

(中込健太郎+ノオト)

[ガズー編集部]

関連リンク

MORIZO on the Road