初公開の工場に潜入! 知られざる「霊柩車の世界」(後編)
霊柩車の現代事情と歴史についてお伝えした前編に続いて、今回の後編では、なんと霊柩車の製造工場に潜入取材しました。「いままで取材はすべて断ってきた」という車両部から、特別に許可をいただき、内部を見学させていただいたのです。洋型霊柩車の製造過程とともに、宮型霊柩車の設計図や彫刻、彫金、内装など、貴重なものを見ることができました。
- 東礼自動車株式会社 千住ビル。となりに工場がある。
いざ、初公開の霊柩車工場へ!
前編でインタビューした、東礼自動車株式会社 村田常務も立ち会いのもと、車両部 千住製作工場の工場長に内部を案内していただきました。現在は、宮型霊柩車の製作が少ないため、今回ご紹介するのは洋型霊柩車の製造現場です。ベース車両は、トヨタ・クラウン。工場では板金、木工、塗装などを行っており、7名が働いていました。
ベース車両のボディをカットし、棺が入るようにボディが延長されたところ。まだ内装は施されていませんが、8割がた完成している状態です。ボディが伸ばされただけでなく、屋根も高くなるよう加工されています。
クルマのボディは曲面で構成されているため、ただ切って伸ばすだけでは綺麗な仕上がりにはなりません。ご覧のように、いくつものパネルを継ぎ足して、自然な形を作り出していきます。
リヤゲートは、別の車種のリアゲートパネルにクラウンのトランクリッドを接合して製作しています。
「屋根の部分はハイエースなんですよ」と工場長。1からパーツを作り出すのではなく、使えるパーツを有効活用するのがポイントなんですね。
黒い斑点は、微妙なアール(曲面)を作るためにハンマーで叩いた跡で、すべて手作業です。まさに職人技ですね。ランドマークの位置も書いてありました。ランドマークとは、霊柩車特有の飾りのことです。
- 霊柩車特有の「ランドマーク」
「普通車」と呼ばれる、エスティマをベースとする霊柩車の内装も見せていただきました。「棺を入れるスペースを空けるため、3人乗りに改造してあります。外側は一切手を加えていません。最近は普通車のニーズが増えているので、1年に7~8台くらい作っていますね」とのこと。
- 改造中の普通車(エスティマ)の内部
宮型霊柩車の「お宮」の中は?
工場内には、廃車となった宮型霊柩車の「お宮」部分だけが残されていました。
この宮型はウレタン加工(日に焼けないようにするための塗装)が施されているため、長持ちするそうですが、昔はヒノキを無垢で露出させていたため、1~2年で木が赤く変色してしまっていたそう。
「変色したヒノキを白く戻すため、一度お宮部分を外して、木の表面を削ってまた乗せる、という作業をやるんです。ただ、2回くらい削るとサイズが変わってしまいます。そのため、白木のお宮の使用期間は7年ほどでした」
- 外側の彫刻。木の表面に塗装が施されているのがわかる
- 宮型霊柩車の内部。棺を入れるためのレールがある
- 天井部分には美しい装飾が施されている
彫刻と彫金は職人さんによる別作業で、それ以外はすべて工場で作っていたという宮型霊柩車は、1台完成させるのに1年近くかかっていたそう。現在は、新規での宮型霊柩車の製作は少なくなり、既存車両の載せ替え作業の方が多くなってきています。ただ、工場には当時の設計図も残されていました。
- 宮型の設計図。紙ではなく板に書いてある
「葬送とは、亡くなった人を『黄泉の国へ送る』という文化のはずです。しかし最近では、葬儀自体が簡略化、簡素化される傾向にあります。霊柩車は亡くなられた方を運ぶとともに、残されたご遺族の気持ちを汲み、人の心をお運びするもの。それを忘れないでほしいですね」と語る村田常務。
霊柩車は単なるクルマというだけでなく、「葬送文化」という側面も持ち合わせているのだな…、そんなことを改めて感じることができた工場見学でした。
(村中貴士+ノオト)
[ガズー編集部]
取材協力
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