トヨタ、日産、ホンダの開発者が本音で語る「超小型モビリティの未来」

10月8日(土)から10日(月)の3日間、東京・お台場で「東京モーターフェス2016」が開催されました。このイベントでは、さまざまな展示や体験プログラムが実施されたほか、「WIRED Future Mobility Session クルマから未来を考える3日間」と題したトークセッションも開催。今回は、いくつか行われたトークセッションのうち、「超小型モビリティこそ東京の未来!国産ビッグ3の挑戦」の模様をお伝えします。

このトークセッションには、進行役を務めた「WIRED」日本版・編集長の若林恵さんとトヨタ、日産、ホンダでそれぞれ超小型モビリティの企画や開発を担当する谷中壯弘さん、土屋勝範さん、松永稔さんの4名(以下、敬称略)が登壇しました。

超小型モビリティの価値は8万円!?

若林:この3名は仲良しで、かなり意見交換やディスカッションを重ねてきた、と聞きました。

谷中:はい。正直言いまして、みんな苦労しているんですよ。

松永:前に進めたいけど、どういう手があるんだろう? まずは話し合ってみようよ、ということで始まりました。

左から若林恵さん、谷中壯弘さん、土屋勝範さん、松永稔さん

若林:超小型モビリティは、今までの価値観のように「出世するにつれてアップグレードしていく」というものではないですよね。

土屋:おっしゃる通りです。今後はお客様に合わせた「多品種小ロット」の方向へ向かっていくだろう、と思います。

谷中:所有するのではなく、「平日は1人で乗るからこれ」「週末は家族で遠出するからこっち」と、オンデマンドで消費する、といったパッケージサービスの形もあるかもしれませんね。

若林:以前、i-ROADで街中を走ったのですが、おばちゃんから話しかけられるんですよ。で、最初に聞くのが「これ、いくらするの?」。逆に「いくらだったら出す?」と聞くと、「まあ、8万円かな」と。まだかなり溝はありますよね。電動アシスト自転車に代わるものとして考えると、タダで配っちゃいましょうよという気もしますが、それは無理でしょうか?

土屋:ビジネスの発想を変えれば、あるのかもしれませんね。携帯電話も一時期0円で売っていたけど、実際にはお金がかかっているわけで。

松永:スマートフォンは、みなさん月1万円ぐらい払っている。システムがまわるのであればそういうスタートの仕方もあるのではないかと思います。

トヨタ・ i-ROAD

行政サイドとの連携が課題に

若林:今は行政の認定制度によって走っていますが、公道での走行を実現するためには、どのようなハードルがあるのでしょうか?

谷中:「ニワトリが先か、タマゴが先か」の話になるんですが、ある程度のボリュームで市場に投入していかないと進んでいかないな、と。2人乗りのi-ROADは、今のところ世田谷区と渋谷区しか走ることができない。もし手放すとなった場合に、中古車市場が成立していないと売れないという現実論の話もあります。「バイクの駐車場に停めていいの?」「専用レーンは?」といったルールやサービスをもっと作っていくべきだと考えています。

若林:行政サイドからはどのような評価を得ているのでしょうか?

土屋:「可能性はある。しかしまだ社会受容性というのが見えない」というご意見ですね。もう少し実証実験を増やしていかないといけない。ただ、我々としても実証実験だけに莫大な投資もできないという状況に陥っていますね。

若林:実証実験では、どういうデータをとっているんですか?

松永:プローブデータ(車両に搭載したGPSから得られる時刻や移動軌跡などの情報)は非常に貴重です。都市と地方によってもかなり違います。そういう知見を大学の先生にシェア、分析してもらって「次はこういう交通社会が実現する」といった発信に使ってもらえると、世の中を変えていける。そういう入り口が少し見えたかな、という段階ですね。

土屋:ビジネス目線で言うと、「安全運転をしてくれたお客様には、保険料を安くする」というぐらいしかまだできていない。そういったデータも1社だけでなく、各社で共有していかないといけないですね。

若林:ヨーロッパでは、「都市の中心部からクルマを排除しよう」という流れが起きていますよね。未来の都市のあり方について、どう考えていらっしゃいますか?

松永:人が集中する地方都市と、「それでも私はここに住みたいんだ」という小さなコミュニティー、その両方が残るべきかなと思います。

土屋:地方では公共交通が衰退しているという問題もありますよね。そういったところに新しいモビリティが補完できればいいのかな、と思っています。

谷中:動きたいときに動ける、ドアツードアで動けるというベネフィットも重要ですよね。

超小型モビリティならではの活用法を

若林:一方で、高齢者や病気の人など、自由な移動ができない人にも目を向けなくてはいけませんよね?

松永:高齢者は、ご近所に移動するのも大変です。ホンダにも「モンパル」という電動車いすがありますが、もっと使いやすく、値段もお求めやすいものにしていかないといけないですね。

土屋:この前、輪島の商工会議所に行ったんですが、地元のお年寄りが「警察に免許返しちゃったんだけど、不便でしょうがない」と言っていました。「免許がなくても乗れるもの」となると、また行政の話にはなってしまうのですが、何かしらの手段は考えないといけないですね。

谷中:「身体機能の低下」と「移動のニーズ」、その両面で捉えないといけない。生活の中にもっと溶け込んでいけるモビリティはないだろうかというのは、今後も考えていきたいです。

若林:自立走行、自動運転については?

松永:スムーズに導入していけば、社会の活性化にもつながると思います。

土屋:渋滞の解消、事故削減など様々なメリットはありますし、それを超小型モビリティに搭載することもいずれできるようになるだろう、と思います。

谷中:まったく同じですね。結局、「自動運転の技術を使って、何をするの?」という話で。例えば駅の裏のスペースに自動的に停まるとか、超小型モビリティならではの活用をしていきたいです。

若林:自立走行が主体となった社会において、自動車メーカーのポジション、果たすべき役割についてはどうお考えですか?

谷中:都市生活を考えたときに、人が入って出て、動いて、食べ物やゴミを運んで……という「絶対的な移動」を誰かがキチンと提供し続けないと、モビリティは成立しない。「カーメーカー? 全部ITでいいんじゃない?」という単純な二元論ではないという気はしています。

各社が模索しているニューモビリティの未来。ライバル会社が連携することで、その可能性は広がっているように感じましたが、まだまだ課題も多いようです。しかし、超小型モビリティや自動運転の未来が近づいてきていることは、間違いなさそうですね。

(村中貴士+ノオト)

[ガズー編集部]