人をアクティブにさせる! 福祉機器展のクルマたち

「クルマに乗っていると歩かなくなる」と言われることがありますが、逆に「クルマがあるからこそ、いろんなところに出かけることができる」という人たちもいます。ハンディキャップがある人や年長者にとっても過ごしやすい世の中にしていこう、という流れの中、最近はどんどん外に出ることで、体の衰えを抑えるといった考え方も強くなってきたように感じます。

今回で43回目を迎える国際福祉機器展は、17の国と1つの地域から527の企業や団体が参加、約20,000点もの最新の福祉機器が展示される世界有数の介護・福祉機器の展示会です。その中から、自動車に関する出展をご紹介したいと思います。

国内メーカー

トヨタ自動車のブースには8台のウェルキャブ車が展示されていました。目的、用途など幅広いシチュエーションに対応させた装備が提案されており、クルマの車種のみならず付帯商品の品ぞろえも充実。

例えば、「もっと楽しいドライブをしたい」というニーズに応えて作ったのが、オリジナル車いす「ウェルチェア」。トヨタのスロープ車を使ったときに、より乗り降りしやすく、簡単に固定でき、座り姿勢にもこだわった車いすです。 また高い段差、大きなドアの開閉、長時間トイレに行けない環境といった、高齢者がドライブを億劫に思ってしまう様々な要因に対応した「フレンドリー用品」というものが幅広く用意され、それらに適応した車種も増えてきているそうです。

ハイエースのデイサービス向けのモデル。広い間口はハンディキャップのある方にも利用しやすいつくりであるのはもちろん、5ナンバーサイズのコンパクトなボディはサポートするスタッフにとっても取り回しが良い。さらには折り畳み式の手すりで、車いすなしの利用者やリハビリ中の人には、身体機能をむしろ維持し鍛えさせるような狙いも込められている。「外へ連れ出し、うちにこもらせないクルマ」といった印象だ
車いすのまま2名+車いす2台を折りたたんで格納。車いす利用者が最大4名乗車可能。その状態で、さらに2名乗車できる。一度にたくさんの人を送迎できるため、工夫次第でかなり幅広いバリエーションにも対応できる
リフトのコントローラーは収まりがよく取り出しやすい。こういうところにもトヨタ車らしさを見ることができる
幅広いラインナップは自家用車としても選択可能。その解説は手話を交えて紹介された

日産のブースでは、トヨタに比べると少ない車種構成ながら、それぞれの用途に合わせた細かい仕様設定の多さ、きめ細やかなメーカーとしての心配りを垣間見ることができました。エマージェンシーブレーキ標準装備のセレナのチェアキャブ、スロープタイプも来春には発売が予定されています。しかし日産の方のお話では「やはりなんといってもキャラバン」なのだそう。幅広い仕様で対応している送迎タイプが用意されており、現場からの支持はかなり厚いようです。

車いすのまま4名乗車可能なキャラバンは、福祉関連の施設からは根強い支持を集めているという
新型セレナの福祉車両も大々的に展示されていた。ベース車両もかなり人気車種であり、モデルチェンジ直後とあって来場者の興味も高かったようだ
春にはいよいよ新型セレナにもスロープタイプが追加される。製造を担当するオーテックジャパンは今年創立30周年。まさに次の歴史を刻み始める第一歩といってもいいモデル。より緩やかな傾斜と幅広のスロープを携えて、カタログモデルに加わる予定

個人ユーザーから支持を集めている軽自動車のダイハツとスズキも、小さなキャビンの中で無駄のない機能と最大限のユーティリティを両立させたカタログモデルを用意しています。経済性も兼ね備えた福祉車両は、よりすそ野の広いユーザー層を想定しているラインナップです。これからの日本の社会における、我々の移動がこうした小さな福祉車両にかかっている、そんな気さえしたのでした。

ボディサイズはさほど変わらないものの、ルーフの高さ、ドアの形状などでユーティリティのバリエーションも豊富だ
アトレーリヤシートリフトのコントローラーは裏がマグネットになっており、このようにボディに一時的に貼っておくこともできる
スズキスペーシアのスロープ付き。リアの構造を専用のものにすることで省スペースのスロープを実現している

そしてマツダのブースでは、手だけで運転できるロードスターが展示されていた。年内には手動運転装置付きのアクセラとロードスターを販売開始するとのこと。「いかにも福祉車両化」したロードスターではなく、片手で操作できる仕様であってもあくまでもロードスター。そんなメッセージが聞こえてくるようなクルマでした。福祉車両展示であっても、ドライバーズシートに座って記念撮影をするといったサービスもあり、あくまでロードスターの喜びをより多くの人に味わってほしいという思いが伝わってきます。助手席が車いす置き場になっているタイプ用に、車いすを覆うカバーも展示車には付けられていました。

赤いノブを操作することで操縦が可能。この仕組みを取り付けるのにスペース的に干渉する部分も多いので細かい部分で、ベース車両にも手が加えられている

そういえば、会場の中ではスロープの角度、リフトの動き、操作の質感、動作の滑らかさなど、かなり様々な点を質問、チェックしている人の姿を目にしました。業界を挙げていいものを作っていこうという向上心の表れでしょうか。

ホンダ・フリードの車いす使用車。先代モデルのコピーでも謳われた「ちょうどいい」は健在だ

今あるクルマを福祉車両にしたい、自由に好きなクルマを選びたい。そんなニーズにこたえる運転補助装置を扱う企業も出展していました。

フジオートはこの業界では老舗といえるでしょう。体格に合わせた設計で自分だけの1台を作ってくれる会社です。シンプルながら、そのポリシーやモノづくりへのこだわりのようなものが感じられる展示でした。

すでに用意されているアタッチメントの数々。対応力ではどこにも負けない、を来場者に強く印象付けていた

海外のメーカーも出典

こうしたものは国産品だけではありません。海外にもいいものがあります。輸入車のディーラーを手掛けるGSTが輸入するのは、グイドシンプレックス。イタリアでは老舗のメーカーがつくる、イタリア製の運転補助装置です。アルファロメオ・4Cに取り付けられ、展示されていました。

グイドシンプレックスは2ペダルのモデルであればほぼ網羅できる、懐の深さが自慢だ

また車いす利用者が運転席に乗り込んだ後、車いすを後部座席の部分に収納するリフトを兼ねた装置なども展示されていました。

こうしてみると、車種を限定する必要もないし、クルマに身体的な理由で乗れないということも、ほぼなくなってきているというのが今回福祉機器展で感じたことです。そして、クルマは人を歩かせなくする存在などではなく、むしろ寝込ませないための存在なのではないでしょうか。エコや自動運転だけじゃない。クルマの未来の一部を、ここに見た気がしたのです。

(中込健太郎+ノオト)

[ガズー編集部]

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