多彩な地域公共交通のあり方が一堂に。「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2016」
東洋大学白山キャンパス(東京都文京区)で、10月29日(土)30日(日)の両日「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2016」が開かれた。都市部を除いた日本の大部分の地域では、ほぼ「くらしの足=自家用車」だ。しかし、学生や生徒、高齢者など自家用車での移動がかなわない人々にとっては、都市部と同じく公共交通が移動手段として重要な位置を占める。
昨今、住民の「生活の質(Quality Of Life)」に直結する公共交通のあり方そのものが、多くの市町村、事業者により模索されており、このようなフォーラムが開催された。今回は、同イベント2日目のポスターセッションから、新たな取り組みをいくつか紹介したい。
タクシーで「地域への恩返し」
岡山県内を中心に、東京から広島県尾道市まで幅広くサービスを提供する両備(りょうび)タクシーグループは、子どもや妊婦、ファミリーなどこれまでタクシー利用者の中心ではなかった層に向けたサービスを展開している。
「おこさまタクシー」では、子どもをドアツードアで送迎。事前の情報登録後、希望時間の3時間前までに連絡をすれば、通常のタクシーメーター料金に「おこさまタクシーサービス料」として500円で同サービスを受けることができる。タクシー乗務員は「応急手当普及員」、または「小児普通救命講習」を受けた者が担当。乗車または降車のタイミングで保護者への連絡も行われる。塾や習い事、部活など、子どもたちが移動手段を必要とする場面は多い。共働きの家庭にとって、自家用車での送迎に代わる安全で手軽な手段となりそうだ。
また同グループは、陣痛時にかかりつけの病院へ妊婦を送り届ける「こうのとりタクシー」も展開。かかりつけの病院を事前に登録しておくことで、付き添いがいなくても、迅速な送り届けが可能となる。無料で登録ができ、通常のタクシー料金のみで利用できるといった利便性の高さが口コミで広がり、サービス対象地域では2015年出産予定者のうち32%もの人が登録したという。
そのほか、グループ内にスーパーマーケットを持つ強みを生かした「まごころタクシー」と呼ばれる買い物代行サービスも利用者を増やしつつある。当初は利用者として高齢者を想定していたが、子育て世代の利用も多いそうだ。
創業から107年を迎える同グループ。「地域への恩返し」と「生活の質」の向上を掲げ、サービスの方向性を模索するとしている。
「クレーム対応の一元管理」「ロボットガイド」で一歩先のサービスへ
タクシー業界に向けた、クレーム対応を代行するサービスも伸びを見せている。日本全国で、10数の会社や組合に所属の4〜5000台をカバーするサービスを提供するのは、RMJグループの日本アイラック株式会社だ。
リスクマネジメントを手がける同社がタクシー向けに打ち出した同サービスでは、月あたり2〜300件、年末年始になると4〜600件のクレーム対応を代行しているという。一件につき平均すると0.5時間を要することから、規模がそれほど大きくない事業者にとっては、助かるサービスだ。まるごとの代行から、一次窓口のみ、窓口の教育のみなど、さまざまなカスタマイズも行っているという。
2017年1月には、来日観光客向けの通訳ロボットを提供するサービスも登場する。タクシーデータサービス株式会社の通訳ロボット「タクシードロイドSota」は、センターコンソール上で後部座席に向かって着座し、乗客の話す外国語を日本語に訳し乗務員に伝える。人工知能を搭載し、経験を積むことで「成長」するという。2020年の東京オリンピックでの活躍が期待される。
いずれも、個人客を乗せ運ぶというタクシーの役割を、ソフト面で進化させるサービスと言えそうだ。
地域を見つめ利用者増を模索する公共バス
タクシーが独自のアイデアで取り組みを展開する一方、バスは地域に寄り添った取り組みを見せていた。
沖縄では「バスマップ沖縄」を作成し、Webと紙版で展開。本当は便利なのに「わかりにくくて不便だ」とされる沖縄のバスのイメージを変えるきっかけを作った。バスマップ沖縄によって、利用者の3割弱が「バスの利用頻度が増えた」とし、6割が「案外便利だった」と答えた。潜在的な需要を掘り起こしたと言えるだろう。
「バスは不便だと思われているけど、実は乗ってみればそうではない。バスに対する『食わず嫌い』なのでは?と感じる」とバスマップ沖縄の谷田貝哲さんは話す。
兵庫県では、兵庫県バス協会の肝いりで3カ月間限定の社会実験「バス旅ひょうご」が実施されている。参画した市町、バス事業者の協力を得て、4種類の企画乗車券を作成。ガイドマップやWebサイトを含めビジュアルにも力を入れた。Webサイトを通じて頻繁に最新情報を更新するほか、ユーザーの声を掲載するなどの企画を展開。県内のみならず、大阪をはじめとする他府県の「旅好き」も取り込んだ。来年度はより多くの市町やバス事業者を巻き込んで、より広域での展開をもくろむ。
石川県輪島市では地元商工会が軸になり、半径1.5から2キロメートルの地域移動を便利にするゴルフカートを改造したバス、「エコカート」を活躍させている。ゴルフカートを改造して軽自動車として登録したこのバスは、商工会のメンバーがハンドルを握る。速度はそれなりだが、平地が中心で交通量がそれほど多くないため、十分実用に耐えるという。軽自動車より導入コストが安く、電気で駆動するため、将来の自動運転化ももくろんでいるという。現在は「道の駅輪島ふらっと訪夢」を起点として、輪島マリンタウン、大型ショッピングモール、病院を結ぶ2ルートを4台が無料で運行している。「エリア拡充よりも、台数を増やす、または自動運転化を進めたい」と地域の需要を見極めている様子だ。
その地域性と需要に見合った「くらしの足」は地域の住みやすさの向上につながる。いずれのブースにも地方自治体からの視察や、交通事業者が熱心に質問をする場面が見られた。直面する人口減と向き合い、対策するヒントが詰まった「濃い」フォーラムという印象を残していた。
(上泉純+ノオト)
[ガズー編集部]
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