離島暮らしで「ケータハム・スーパーセブン1600GT」という選択

島根県・隠岐諸島。日本海の沖合い約60キロメートルに浮かぶ4つの島からなるこの地域は、本州からフェリーで約3時間の距離にある。離島でクルマというと、足代わりに乗るコンパクトカーや農作業用の軽トラックを思い浮かべるかもしれないが、承久の乱で破れた後鳥羽上皇の流刑地として知られるこの島にも、カーライフを楽しむ人がいる

大辻雄介さん42歳。東京から隠岐郡海士町(中ノ島)に移住し3年になる。教育関係の仕事に就く大辻さんは、和装を普段着とする。「コスプレです」と言うが、町内で譲り受けたという着物に袖を通して立ち振る舞う所作はなかなか。自然でこなれていた。

和に傾倒する大辻さんの愛車は、1987年式ケータハム・スーパーセブン1600GT。本土でも珍しいクルマであるスーパーセブンはもちろん、中ノ島でただ1台。自分なりのライフスタイルを持ち、学習センター副長として生徒指導にあたる大辻さんに、クルマに対するこだわりを聞かせてもらった。

最初の愛車は「いすず・ジェミニ」

「マニュアルミッションのクルマを運転するのがとにかく好きなんですよ。19歳で免許を取って『いすず・ジェミニ』を先輩から譲り受けました」と話す大辻さん。以来、マニュアルミッションにこだわり、さまざまなクルマを乗り継いできたという。

「スーパーセブンの前は『フォルクスワーゲン・タイプ3』に乗っていました。これがまた気まぐれなクルマで」と笑顔で話す。「通勤にも使っていたのですが、クルマのご機嫌によっては走れない日もありましたね」とも。古い輸入車を通勤に使うのは何かと大変そうに思えるが、「気まぐれ」なところも魅力のひとつと捉えているようだ。

3日続けて夢に出てきた「スーパーセブン」

では、スーパーセブンに乗り換えるきっかけは何だったのだろうか?

「動画で走る姿を見て『おもしろそうだな』と思ったんですよ。それから三日三晩、スーパーセブンの夢を見ました。これは乗るしかないと思いましたね」

大辻さんは、この夢をきっかけにスーパーセブンを手にする。中ノ島に移住する2年前のことだ。しかし、奥様の反対はなかったのだろうか。

「妻はもともとあんまり反対しない人なんですよ。人生最後の大きな買い物にするから、と約束しました」

スーパーセブンのようにスイートスポットが狭いクルマを購入することに反対しない奥様は、とても懐が広いように思える。奥様もクルマ好きだったのだろうか。

「妻はクルマに興味がないどころか、運転免許も持っていませんでした。海士町に移住する前に免許を取得したぐらいです。僕は自分がほしいクルマを買ったので、妻にも一番乗りたいクルマに乗ってほしいと思って『何がいい?』と聞くと、『死なないクルマ』という答えが返ってきました。そこで妻にはボルボを選びました」

夫婦で乗りたいクルマに乗ることは、クルマ好きの夢ともいえそうだ。しかし、移住先は離島。専門店のない土地でスーパーセブンに乗り続けるのはいかにも大変そうである。移住に当たって乗り換えは考えなかったのかを聞いてみたが「まったく考えませんでした」と即答。乗りたいクルマが乗るクルマ。大辻さんにとってのクルマ選びの軸は離島暮らしでもぶれることはない。

さまざまな困難をものともしないスーパーセブンの魅力とは

移住後も車検は本州で受ける必要があり、目立ちすぎることをよしとしない教育関係の仕事をしている都合上、最初の1年間は島でスーパーセブンに乗ることを封印せざるを得ないなど、スーパーセブンならではともいえる困難があったという。離島ゆえ、クルマなしでの生活は難しくセカンドカーとして「スズキ・ジムニー」を手に入れたと話す。

それでもスーパーセブンに乗り続ける理由を聞くと、「いい瞬間があるから乗り続ける」との答えが。「晴れた秋空のもとオープンにして乗っている瞬間」がスーパーセブンに乗る醍醐味だという。

「このクルマを手に入れたことで物欲がなくなりましたね」と話す大辻さん。個性的なライトウエイトスポーツカーであるスーパーセブンを所有し、離島ならではの山あり海ありのワインディングを意のままに操り、駆け抜けることでもたらされる喜びが、大辻さんに大きな満足を与えているのだ。

今、このスーパーセブンは不具合のため車検が切れた状態で眠っている。春が来たら本州に送り、修理をして車検を通すという。「これからも乗り続けますか?」という質問には、少しの迷いもなく「もちろん!」と答えてくれた。

「次に乗ってみたいクルマはありますか?」という問いに、「いっぱいありますね。タイプ3を手放すときに『またフォルクスワーゲンに戻ってくると思うよ』とショップで言われたのが気になっています。タイプ2には興味がありますね」と笑顔で話す大辻さん。

離島に暮らし輸入車を維持する大変さをみじんも感じさせず、カーライフを楽しむ笑顔が印象的だった。その笑顔は「好きなクルマに乗ること」が人を幸せにすることの証だといえそうだ。


(上泉純+ノオト)

[ガズー編集部]