「上海自動車博物館」は世界の名車・珍車が勢ぞろい!

約40台のヒストリックカーを含む80台あまりの実車両を展示するのが、中国・上海にある「上海汽車博物館」だ。「汽車」は中国語で「自動車」を意味する。同博物館へは、上海市内中心部から地下鉄とバスで約1時間半。周辺には国内外のカーディーラー、メーカーが立ち並ぶほか、沿線にはF1中国GPが行われる上海インターナショナル・サーキットもあり、この一帯が中国クルマ産業・文化の集積地であることがわかる。

メインの展示は「歴史館」「珍蔵館」「探索館」の3エリア

建延面積28,000平方メートルの建物には、大きな吹き抜けと10,000平方メートルの展示スペースがあり、5つのフロアがゆるやかなスロープでつながれている。クルマの歴史を学ぶ「歴史館」(ヒストリー・パビリオン)、中国のクルマ文化史とコレクターズカーを扱った「珍蔵館」(コレクション・パビリオン)、クルマの機構や最新技術についての「探索館」(エクスプローラー・パビリオン)が見学のメイン。このほかに、展示ホールや会議室などが上層階に設けられている。

「自動車第一号」から中国自動車文化の変遷まで

ベンツ・パテント モトールヴァーゲン

自動車第一号は諸説あるが、世界初のガソリン自動車とされているのが1886年にカール・ベンツが製作した「パテント・モトールヴァーゲン」だ。鉄パイプと木製プレートで構成されたフレームに4ストローク単気筒ガソリンエンジンを搭載した同車の最高時速は15km/h。カール・ベンツはこのクルマをドイツで特許申請している。

オールズモビル・カーブド・ダッシュ

上海にディーラーが置かれ、市場に投入されたことから、自動車黎明(れいめい)期の上海の路上でよく見られるようになった初期のクルマのひとつとして、オールズモビルの「カーブド・ダッシュ」(1904年式)が展示されている。同車は、米国における最初の量産車のひとつであり、アメリカ合衆国郵便公社が配達時に使用するクルマとして初採用されたものであることが併せて紹介されていた。

トヨタ・カローラ

そのほか、日本におけるファミリーカーの先駆けとして、1969年式のトヨタ・カローラが展示されていた。1966年に登場した初代モデルである。

フォルクスワーゲン・サンタナ

現在でも上海市内で多く見られるフォルクスワーゲン・サンタナは、上海トラクター自動車工業社と独・フォルクスワーゲン社が共同で生産・販売を行ったもの。部品やコンポーネントをドイツから輸入し、中国で組み立てられた。以降30年にわたり、派生モデルも含めて広く活躍している。このクルマは1983年式。

北京ジープ・BJ212

展示内容から中国の自動車産業・文化が大きく変わったことも見てとれる。中国は、1945年に左側通行から右側通行に変更。中ソ関係の変化から旧ソ連からの軍用車輸入を止め、1975年に自国産の北京ジープ・BJ212を生産開始した。

フィアット・126P

そして改革開放方針のもと、1988年には家族向けセダンとしては初となるフィアット・126Pの輸入販売を開始した。激動の歴史を受け、そのマイルストーンともいえるこれらの車種が「チャイナ・オートモービル・メモリーズ」として展示されている。

マニア垂ぜんの「珍蔵館」には中国ならではの紅旗も

「珍蔵館」にはその名の通り、なかなか見ることができないクルマが多く展示されている。

メルセデス・ベンツ300SL

ガルウイングドアが特徴のメルセデス・ベンツ300SL(1955年式)。現代にも継承されている同社の高級スポーツカー、SLクラスの初代モデルである。

ポルシェ・356C

初めて車名にポルシェの名を冠したポルシェ・356C(1964年式)は、戦後の小型スポーツカーの代表ともいえる一台。

BMW・イセッタ300

フロント部がウインドーごと開くユニークなドアを持つBMW・イセッタ300(1960年式)は、今ではなかなか見かけることができない、ドイツの「バブルカー」と呼ばれるマイクロカーのひとつ。

メッサーシュミット・KR200

第二次世界大戦中に戦闘機の生産を手がけたメッサーシュミット社による三輪乗用車「KR200」(1958年式)は、「漫画家・鳥山明氏の作品にも描かれた」と同車の説明文で言及されていたのが興味深い。

マセラティ・ギブリ

当時、ランボルギーニ「ミウラ」と並ぶ高級スポーツカーとされた、マセラティ・ギブリ(1970年式)は直線的なボディーラインが大いに目をひく。奥に見えるグリーンのクルマは、アストンマーチン・DB4だ。

ホンダ・N600

1970年代には日本のみならず、米国でも人気を博したホンダ・N600(1970年式)も時代の空気を感じさせる一台だ。

紅旗・CA770

中国の自動車メーカー第一汽車の高級車ラインにあたる紅旗(ホンチー)・CA770は、新体制下の中国で、初めて開発・生産が行われたクルマ。要人のパレードなど、公用車として多く使われている車種だ。

「探索館」ではフェラーリ4姉妹がお出迎え

左からフェラーリ・330GT、モンディアル、512BB、ディーノ・308 GT4

フェラーリ・330GT(1966年式)、512BB(1982年式)、ディーノ308 GT4(1975年式)など、ここが中国であることを忘れてしまいそうになるラインナップだが、そう思ってしまうのはもはや時代遅れなのだろうか。

フォルクスワーゲン・ポロ

第四世代となるフォルクスワーゲン・ポロ(2002年式)のカットモデルでは、衝突安全性能やアクティブ・セーフティ性能をアピール。

エンジンやトランスミッションなどを体感しながら学ぶコーナーも。さらにゲームセンターさながらの自動車ゲームコーナーがあり、子どもたちが夢中でハンドルを握っていた。

珍車中の珍車、シトロエンのキャタピラ車も!

吹き抜けを見下ろす回廊には、シトロエンのハーフトラック「Autochenille」(1931年式)が展示されていた。前輪が通常のタイヤ、後輪がキャタピラとなったハーフトラックである同車は、創業者アンドレ・シトロエンが計画・実行した「東方への旅」で使用した14台のうちの1台とされている。「東方への旅」は43人が探検隊を組織し、14台のハーフトラックを駆り、地中海を出発。ヒマラヤ越えを成し遂げ、中国・北京までの12,115kmを10カ月で走破した探検旅行を指す。

自動車史を学びつつ、さまざまな車種を間近で見ることができる上海自動車博物館。クルマ好きなら半日は見学に充てたいところだ。

「上海汽車博物館」
住所:上海安亭博园路7565号
電話:021-69550055
HP: http://www.shautomuseum.gov.cn
入場料:60元(約1020円)
開館時間:9時30分~16時30分(入館は16時まで)
閉館日:月曜日

(上泉純+ノオト)

[ガズー編集部]