GLM×旭化成のコンセプトカー「AKXY」開発の経緯と狙い
1980年代以降、社会に浸透し始めた「エコ」。現代社会はエコに生きることが求められ、モータリゼーションを取り巻く環境でも、ガソリンに変わるクリーンエネルギーの使用が主題となりつつある。6月4日(日)には、インド政府が国内で販売する自動車を2030年までにすべて電気自動車(以下EV)に限定するとの政策を明らかにするなど、EVに注目が集まっている。
トミーカイラZZのプラットフォームに旭化成の素材やシステムを搭載
このような世の中の流れに沿う形で、旭化成は5月17日(水)、EVメーカー「GLM」とコラボしたコンセプトカー「AKXY(アクシー)」を発表した。スポーツカーとSUVを融合した次世代クロスオーバー車で、全長約4.7メートル、幅約1.8メートル、高さ約1.6メートルの3人乗り。GLMのスポーツEV「トミーカイラZZ」のプラットフォーム(フレームなどの車台と、モーターなどのパワートレイン)を活用し、「実際に走れること」が特徴となっている。
そもそもGLMは、京都大学院の2年生だった現社長の小間裕康(こま ひろやす)さんがEVの開発・販売を行う企業として2010年4月に設立したもの。2006年に発足した京都大学のVBL(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー)のEV開発プロジェクト「京都電気自動車プロジェクト」に端を発し、ゼロから開発したEV車「トミーカイラ・ZZ」は、国産EVとしては初となるスポーツカータイプの量産モデルとして注目された。今回発表された「AKXY」は、この「トミーカイラ・ZZ」のプラットフォームをベースに、旭化成の部材やシステムを搭載している。GLMは今後、これまで得た車両開発のノウハウを活かしながら、プラットフォームや部分的な設計技術などを他社に提供する事業を本格始動するという。
AKXYに搭載した旭化成のシステムと部材は27品目。軽量化に繋がる素材で、鉄やアルミニウムの代わりとして高機能樹脂やシートの人工皮革、エコタイヤ向けの合成ゴムなどが使用されている。
また最先端技術として、センサー(感知器)などを使用し、さまざまな情報を計測・数値化する「センシング技術」も搭載。人の顔をカメラで撮影しながら心拍数を計測する、非接触型の脈派検出技術(非接触バイタル・センシングシステム)や、室内の二酸化炭素の濃度を感知する技術(CO2センサー)を車体に組み込んでいる。これは将来、運転中の脈派や車内のCO2量でドライバーの状態を確認し、異常が認められた場合、アラーム通知する、といったことが可能なことを示している。
今回は、「AKXY」の開発や今後のプラットフォーム事業などについてGLMの技術本部長・藤墳裕次(ふじつか ゆうじ)さんにお話を伺った。
なぜ、旭化成とコラボをしたのか?
- お話を伺った藤墳裕次さん(左)
---そもそも、どのようなきっかけで「AKXY」の開発に至ったのでしょうか?
2015年に旭化成様からお声がけいただいたのがきっかけです。旭化成様では、自動車関連事業に一層注力し拡大していくという事業戦略の中、各種素材や素材メーカーとして特徴的なセンサー・システム等の事業や技術を、自動車メーカーや部品メーカーに知っていただき、未来に向けて新しい価値の創出をしたいとの想いをお持ちでした。当社としても、プラットフォーム活用が念頭にあり、このプロジェクトが生まれたのです。プロジェクトが進む中では、どのようなコンセプトカーを開発するべきかを旭化成のオートモーティブ事業推進室のメンバーと何度も議論しました。
---旭化成とのコラボでどのような利点があったのでしょうか?
旭化成様は多岐にわたる自動車部材を有しており、互いに未来を語りながら開発するパートナーとしてメリットを感じました。また当社にとって、世界的な化学メーカーと「クルマを共同開発できた」ということ自体が非常に大きなメリットであり、財産です。また素材メーカーの考えを知ることができ、今後どういった依頼の方法が良いのかなども学ばせていただきました。
---今後、GLMはプラットフォーム事業をどのように展開したいとお考えですか?
今回の「AKXY」は、プラットフォーム事業の本格始動となるプロジェクト、という位置づけです。モジュール化した当社のプラットフォームや開発ノウハウ、そして自動車関連企業・機関との協力関係を使えば、自動車メーカー以外でも自社オリジナルのEVを開発することができる、という点を打ち出します。これを通じて、EVに新規参入したい各国企業の開発部隊の役割を担う考えです。
- GLMが手がけるEVスポーツカー、トミーカイラ・ZZ
EVは、ガソリン車より参入障壁が低く、かつ環境対応という社会的ニーズの高まりを受けて、世界のさまざまな業種が注目しています。しかし、いくら障壁が低いとは言え、量産を目指した開発となると、高い技術力や莫大な初期投資が必要となり、ゼロからビジネスを立ち上げるのは困難です。そのような背景から、当社のプラットフォーム事業は、新たな市場を切り開くものとして、欧州やアジアを中心に国内外で注目を集めています。連携を検討している企業も、IT企業や電気メーカーのほか、EVを使ったモビリティ(移動手段)を自らの事業に組み込もうとしているサービス事業者まで多岐に渡ります。
---環境にやさしいEV車は、今後、世間でどのような存在になるとお考えですか?また藤墳さん個人は、どのようなクルマを作っていきたいと考えていますか?
どうしてもガソリン車と比較されがちですが、EVは新しいクルマとしての魅力があり、まだまだ伸びしろが大きく、とても将来性があるものと感じています。クルマそのものの楽しさをもっと追求できる可能性もあるでしょう。私は、誰もが乗りやすいクセのないクルマではなく、何かひとつだけは突き抜けた点を持った、開発する自分たちが純粋に「楽しい!」と感じられるクルマを作り続けたいと考えています。
さまざまな企業がEV開発に乗り出し、ユニークで斬新なEVが当然のごとく一般道を走る世の中も、すぐそこまで来ているのかもしれない。
(別役ちひろ+ノオト)
[ガズー編集部]
取材協力
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