国が変われば交通安全も変わる!「2017 NCAP & Safety Forum in Tokyo」レポート

クルマの安全性能を、自動車メーカーとは関係ない第三者が評価するのがNCAP(自動車アセスメント)という制度です。それは日本だけではなく、欧米やアジアにも広く存在しており、それぞれに自国で販売されるクルマの安全性能をジャッジメントしています。

そんな世界のNCAP関係者が集い、それぞれの活動や今後を報告しあうフォーラム「2017 NCAP & Safety Forum in Tokyo」が2017年8月1日(火)と2日(水)に東京で開催されました。フォーラムに参加したのは欧州のユーロNCAP、アメリカのIIHS(全米損保協会交通研究所)、アセアンNCAP、韓国のKNCAP、そして日本のJNCAP(自動車事故対策機構NASVA)という面々です。

初日に行われたパネルディスカッション

2日間にわたるフォーラムを通して強く感じたのは、お国が違えば道路事情も違って、交通事故の対策も、まったく異なるということ。たとえば日本のNCAPが注力するのは、テレビなどでも話題になっている、高齢ドライバーの事故対策。実際に2018年からは、アクセルとブレーキの踏み間違いでの事故を防ぐ装置の評価を予定しています。また、経済産業省と国土交通省も、衝突被害軽減の自動ブレーキとアクセルとブレーキの踏み間違い時の加速抑制装置が付くクルマを「セーフティ・サポートカーS」/「サポカーS」と呼ぶキャンペーンをスタートさせました。ところが、他の国の状況を聞いてみれば、高齢ドライバーを特に問題視しているのは日本だけ。他の地域は、それぞれ異なった問題を抱えていたのです。

アセアンNCAPのカイリル・アンワル氏

オートバイの事故を減らすためにクルマの装備を検討中のアセアン

たとえばアセアンNCAP。こちらはマレーシアやタイ、インドネシアといったアセアン10か国で販売されるクルマを対象に2011年にスタートしたもの。わずか6年の歴史しかありませんが、それでも市場で販売される約80%のクルマのテストを実施。ほとんどのクルマにエアバッグが装着されるようになり、ESC(横滑り防止装置)の装備率も高まってきたといいます。そんなアセアンNCAPが、注目しているのが、なんとオートバイの事故防止でした。確かに、アセアン地域の庶民の足は、まだクルマよりもオートバイという状況です。そこでアセアンNCAPは、クルマVSオートバイの事故を減らすために、クルマに斜め後方の死角をカバーするブランドスポットモニターの普及を考えているとか。まだ草案レベルですが、どうやって評価テストを行うのかも検討しているというではありませんか。

IIHSのデヴィッド・ズビー氏

バック走行時の事故とシートベルト未装着問題に悩むアメリカ

アメリカのNCAPであるIIHSも、日本とは相当に事故実態が異なっているようです。なんと、注力しているのは、後退時の事故の対策でした。なんでもアメリカでは、毎年300人ほどの人が、後退時の事故で亡くなっているというのです。そのため後退時にクルマの後ろに人がいた場合、自動でブレーキを作動させるリバースAEB(自動ブレーキ)の評価を検討中と言います。ちなみに、リバースAEBに関しては、IIHSだけでなく、アメリカのもうひとつのNCAPであるNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)も同じことを考えているとも。

さらにアメリカならではの問題が、シートベルト装着率の低さ。その対策として「ギヤシフト・インターロック」の実験も紹介されました。これは、シートベルトを装着しないと、ギヤチェンジができなくなる装置の付いたクルマを用意。そのクルマに乗った人たちが、どれだけシートベルトを装着するようになるかという実験です。確かに1週間ほどでシートベルトの装着率は高まりましたが評判は最悪。あまり実用的ではなく、なにか良い方法はないものか~という困った状況だというのです。

KNCAPのユン・ヨンハン氏

輸出がメインなので、国内事情にあわせづらいという韓国

韓国の自動車メーカーは、日本と同様に国内市場ではなく、グローバル市場が商売の土俵。そのため自動車の安全装備や規格は、販売先であるアメリカや欧州、中国の要望に応えるのが優先されるとか。つまり、韓国国内事情は後回しになっているというのです。そのため、これまでのKNCAPはユーロNCAPとアメリカのNCAPをミックスしたような内容になっていたそうです。最近になって、ようやく独自の計画が進められるようなったとも。ちなみに、韓国ではバスによる事故が問題視されていて、その対策も、これからの課題だと言います。

ユーロNCAPのアンドレ・ジーク氏

自動運転に期待し、実用化の準備を着々と進めるユーロ

ユーロNCAPが注目しているのは自動運転技術です。現在の自動ブレーキや自動でのステアリング操舵といった運転支援技術の先にあるものとして、自動運転技術がクルマの安全性に大きく貢献できるだろうと考えていると言います。そのためにユーロNCAPでは、自動運転技術が実用化されたときに、どのように評価し、格付けするのかの研究に、現在、熱心に取り組んでいるそう。自動運転には、どのような機能があるのか? どのようなテストが必要なのか? 問題点や課題点は何か? などなど、準備に余念がありません。実際に、自動運転技術が実用化されたときの評価方法は、ユーロNCAPが主導していくのではないでしょうか。

また、通常のパッシブセーフティでは、側面衝突の新しいテストを導入予定とか。側面衝突のテストは、これまでもありましたがユーロNCAPが注目しているのは、乗員が乗っていない、クルマの反対側の側面から衝撃を受けたときの安全性です。英語で「Far Side Occupant Protection」で、直訳で「遠い方の乗員の保護」となります。これは、クルマの反対側からの側面衝突では、乗員はシートベルトから抜け出してしまい、反対側のドアにぶつかったり、もしくは助手席側の乗員と人同士がぶつかってしまうという危険です。そのため、座席の真ん中にエアバッグを追加するなどの対策が必要であり、その用意ができているクルマを評価しようというのです。まだまだクルマの安全性能は高められるというわけですね。

図の右側から衝撃があった場合、乗員は右側に振られることになる

クルマの安全性能は、国などの規制だけでなく、NCAPのような第三者の評価があってこそ高まるもの。また、国や地域によって交通事情は異なるというのが実感できたフォーラムでした。

フォーラムの参加者の多くは、自動車メーカーやサプライヤーのようであった

(鈴木ケンイチ+ノオト)

[ガズー編集部]