もしトンネル事故や路面冠水に遭遇したら? 「道路情報表示システム」
国道や高速道路などでよく見かける電光掲示板。渋滞情報や注意喚起など、ドライバーにとっては当たり前の存在ですが、これっていつ頃から始まったのでしょうか?
今回は、道路情報表示システムやトンネル非常警報システムなどを扱う「岩崎電気株式会社」にお伺いしました。ご説明いただいたのは、国内事業企画推進部の坂田信之さん、山谷正人さん、木田政広さんです。
- (左から)岩崎電気株式会社 国内事業企画推進部 坂田信之さん、山谷正人さん、木田政広さん
――御社で扱っているシステムには、どのような種類があるのでしょうか?
弊社は国土交通省、都道府県、NEXCOなどにインフラ設備を提供しています。一般に電光掲示板などと言われますが、道路に関係する主なものとしては「道路情報表示システム」「トンネル非常警報システム」「路面冠水警報表示システム」の3つになります。
・道路情報表示システム
提供する内容により、さまざまなタイプがあります。一般のドライバーがよく見るのは渋滞や工事情報ですが、気象情報を提供する「気象表示板」、津波警報の発令を迅速に知らせるための「津波警報表示板」等もあります。
各管理事務所では情報を収集するコンピューターを設置し、一元管理する形をとっています。道路管理者は国土交通省、都道府県、NEXCOなどで、管理者ごとにシステムを導入しています。そのため、同じように見える表示板でも管理者が異なる場合があります。
- 出典:TESLA(建設電気技術) 「基礎講座」Vol. 173 情報表示用LEDユニット動向 2011年3月号、およびVol. 176 道路情報板の表示方式の変遷及び視認距離
・トンネル非常警報システム
トンネル内で事故が発生した場合は、すぐに「押ボタン式通報装置」を押してください。すると、トンネルの外側にある表示板に「トンネル内 事故発生」という表示が出ます。信号機が点滅し、サイレンが鳴って警報が流れることでトンネル内へのクルマの進入を防ぎ、追突事故などの二次災害を防止することができます。もちろん、道路管理者にも瞬時に通報されるようになっています。押ボタンに併設して警察や消防署に通報するための非常電話もあります。
- トンネル非常警報システムの動作概要 出典:岩崎電気 資料
順番としては、まず押ボタン式通報装置を押し、警報を表示させてから非常電話を使用してください。非常電話で警察や消防署に通報しただけでは表示板に警報がでないため、他のクルマがトンネル内に入ってしまい、二次災害の発生リスクが高まってしまいます。また一般の携帯電話では、山奥のトンネル内で繋がらないおそれもあります。確実に通報できる非常電話の使用を推奨します。最近では道路管理者が、サービスエリアなどで「非常電話の使い方」の啓蒙活動を始めています。いざというときにうまく使えないと意味がないですからね。
- (左)トンネル非常警報表示板、(右)押ボタン式通報装置と非常電話 出典:岩崎電気 資料
ただし、通報があっても遮断機が下りるわけではないので、入ろうと思えば入れてしまいます。「トンネル内 事故発生」の表示を見た時は、決してトンネル内に入らないようにしてください。
これらの設備は、トンネルの長さと交通量(トンネル等級)によって整備する非常用施設が決められています。500m以上のトンネルであれば非常電話、押ボタン式通報装置、非常警報装置(警報表示板)を設置しなければいけないことになっています。
- 出典:道路トンネル非常用施設設置基準・同解説 (社)日本道路協会
警報表示板は、通常時は何も表示されませんので、ほとんど気にしないドライバーが多いでしょう。「無駄なものを」「なんのために設置しているのか」と思うかもしれませんが、実は命を守る重要な設備なのです。道路情報表示板に比べると馴染みが薄いですが、こちらの方が重要度は高いのではないでしょうか
・路面冠水警報表示システム
アンダーパス等の水が溜まりやすいところに設置しています。最下部の地点に水位センサーを設置して、表示板に「冠水走行注意」「冠水通行止」などの表示を出します。
水位が10cmになれば注意喚起、20cmになると普通車はマフラーにかかってしまうので「通行止」を表示させることが多いです。
自動通報装置もあり、非常時には管理者に通報されるようになっています。これも「トンネル非常警報システム」と同じで、通常時は何も表示されません。
- 路面冠水警報表示システム 出典:岩崎電気 カタログ
――ゲリラ豪雨の増加で、設置数も増えているのでしょうか?
10年ほど前に発生した冠水による事故をきっかけにして、全国的に整備が進んだように感じます。新しいアンダーパスを作る場合には、このシステムを設計段階から組み込んでいる所も増えてきました。
ただこれも、入ろうと思えば入れてしまいます。表示だけでは弱いということで、冠水時には入らせないような遮断機を併設する場合もあるようです。
――こういった表示板は、いつ頃からあるのでしょうか?
社団法人建設電気技術協会発行の「30年誌」によると、昭和42年に可変情報板(字幕式、電光式)を試験設置している記録があり、この頃から道路情報板の設置が始まったものと思われます。
当時の道路情報板は大別して、透光式、字幕式、電光式の3種類です。
- (左から)透光式、字幕式、電光式 出典:TESLA(建設電気技術)「基礎講座」Vol. 176 道路情報板の表示方式の変遷及び視認距離
その後、電光式からLEDへと変わりました。LEDもかなり省エネ化しており、当初に比べると消費電力が1/10~1/15になりました。表示色についても電光式の単色表示だったものが、最新の LED 式では15色マルチカラーで白や水色も表示できるようになりました。
- 出典:TESLA(建設電気技術)「基礎講座」Vol. 173 情報表示用LEDユニット動向 2011年3月号
――全国にどれくらい設置されているのでしょうか?
一般財団法人・道路新産業開発機構「道路情報管理施設等の設置状況」によると、道路情報板は25,457基、警報表示板は7,869 基 となっています。
メーカーとしては「カーナビの普及によって、需要が減るのではないか?」という危惧もありましたが、実際には減っていません。公共性のあるインフラとして認知されている、ということでしょうか。
- 道路情報管理施設等の設置状況(平成27年4月1日現在) 出典:一般財団法人・道路新産業開発機構/道路行政セミナー2016年12月号「平成26年度道路交通管理統計の概要」(国土交通省 道路局 道路交通管理課)
渋滞や交通規制の情報だけでなく、トンネル事故や冠水の警報システムもあるのですね。普段あまり目に留めない表示板にも、それぞれ重要な役割があることが分かりました。
ドライバーにとって避けることのできない、トンネル事故や冠水などの非常事態。もし遭遇したら慌てず、冷静に行動するよう心がけましょう。
(村中貴士+ノオト)
[ガズー編集部]
取材協力
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