【スーパー耐久】2台のSKYACTIV-Dで臨んだ「TEAM NOPRO」の富士10時間

夏の暑さと秋の涼しさが織り混ざった9月最初の週末、富士スピードウェイで日本屈指の耐久レース「スーパー耐久シリーズ2017 第5戦 富士SUPER TEC」が開催されました。

このレースは、決勝が朝8時から夕方6時まで10時間にわたって行われる耐久レース。速さだけではなく、クレバーな戦略やマシンの信頼性、そしてドライバーのタフさが試されるハイレベルな戦いが、エントラントを待ち受けます。

■スーパー耐久とはどんなカテゴリー?

来シーズンにはFIA-GT4規定クラス「ST-Z」にエントリーがあると思われる。コースのキャパシティがちょっと心配
来シーズンにはFIA-GT4規定クラス「ST-Z」にエントリーがあると思われる。コースのキャパシティがちょっと心配

「スーパー耐久シリーズ」は、1990年に始まった「N1耐久シリーズ」を前身とし、車両規定の変更・拡大などを経て現在に至ります。「SUPER GT」と比べ改造範囲は狭いものの、市販のエアロパーツを装着できるなど、独自性を持っています。

参加チームの大半がメーカー直系ではないプライベーターなので日本最高の“草レース”と言われることも特徴のひとつ。現在は、FIA-GT3規定マシンで構成される「ST-X」クラスからマツダ・デミオやホンダ・フィットといった小排気量コンパクトカーで構成される「ST-5」まで7つのクラス分けられ、60台近い台数で競われています。

あまりの台数が多く、また速いクラスのマシンと遅いクラスのマシンでは100km/h近くの速度差があることから、多くのサーキットでは安全のためにクラスを2分割にした2レース制を今シーズンから導入していますが、今回の「富士SUPER TEC」は全クラス一斉にスタートの混沌としたレースが展開されました。

■TEAM NOPROとは?

筆者が今回のレース期間に焦点を置いたのは、「ST-3クラス」と「ST-5クラス」にエントリーしている「TEAM NOPRO」です。

このチームは、神奈川県三浦郡葉山町にあるマツダ・ロードスターやデミオのアフターパーツを開発販売するショップ「ノガミプロジェクト(NOPRO)」が運営するチームで、過去には初代ロードスター(ロータリーエンジン搭載!)で全日本GT選手権に出場した実績を持っています。

2012年からマツダのコンパクトカー・デミオでスーパー耐久に参戦。2015年シーズンからは高燃費かつトルクフルな新世代ディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」を搭載したデミオにスイッチし、昨シーズンの最終戦ではクラス2位の戦績を残しています。今年は熟成が進んだデミオと、2.2LのSKYACTIV-Dエンジンを搭載したアクセラの2台でエントリー。

ニューマシンのアクセラは、今戦からNOPROの新型エアロパーツを装着し、空力性能と冷却性能を高められています。これによってフロントまわりは、ST-Xマシンに引けを取らないアグレッシブなイメージとなりました。この新型エアロパーツは、バンパー、フェンダー、ボンネットの3点セットで発売予定とのことです。

■予選:デミオはクラス8番手、アクセラはクラス9番手

予選の前日には強い雨が降りコースコンディションが心配されましたが、夜明け前には雨も上がり、予選スタート時には青空でドライコンディションとなりました。

スーパー耐久の予選は「Aドライバー+Bドライバーの合算タイム」でスタート順位を決めます。各ドライバーに与えられた時間はたった15分間。予選は2グループに分けて行われるとはいえ、お互いのアタックランを邪魔しないよう、走るタイミングが重要になります。ST-3クラスのアクセラはST-Xクラス(GT3マシン)と混走になるのでより困難なものです。

そんな中で行われた予選結果は、ST-3クラス17号車「DXLアラゴスタNOPROアクセラSKY-D(谷川達也/野上達也/野上敏彦)」が総合44位、クラス9位。ST-5クラス37号車「DXLアラゴスタNOPROデミオSKY-D(関豊/梅田剛/井尻薫)」は総合52位、クラス8位に。予選後は、ピット作業の練習を夜遅くまで繰り返していました。

■決勝:デミオ37号車が念願のクラス優勝を飾る!

TEAM NOPROの勝利の女神、桜井さちさん。彼女も長くチームを支える不可欠なメンバーだ
TEAM NOPROの勝利の女神、桜井さちさん。彼女も長くチームを支える不可欠なメンバーだ

決勝が行われた日曜日の明け方はやや肌寒く感じましたが、スタート前には太陽がさんさんとコースを照らし、やや暑い中で10時間の戦いが幕を開けました。

全クラスが同時に走行するので、速いクラスのマシンがきたらうまく抜いてもらわなければ、アクシデントの原因となってしまう
全クラスが同時に走行するので、速いクラスのマシンがきたらうまく抜いてもらわなければ、アクシデントの原因となってしまう

スタート直後、アクセラ17号車は他車との接触でリアバンパーにダメージが……。すぐさまピットで応急処置をしてレースに復帰しました。デミオ37号車は、順調に周回数を重ねていきます。

37号車は、同クラスのマシンよりピークパワーでは一歩譲りますが、ディーゼルターボの厚いトルクを活かした“攻めのセッティング”により、コース後半の登りセクションではライバルを凌ぐペースで走行。グイグイ順位を上げていきました。

3時間を経過した直後、1コーナー(TGRコーナー)にオイルが撒かれたことによるセーフティーカー導入でST-5クラスの戦いに動きが起こりました。トップを走行していた88号車「村上モータースMAZDAロードスターND」は、ピットイン。しかし、セーフティーカー導入後のピットインとして60秒のストップアンドゴーペナルティーを受けてしまい、2位を走行していた37号車がトップに立ったのです。

「アクセラ、ピットイン!」その声がピットに響いたのはスタートから4時間半。もうすぐ折り返し地点というときでした。ピットに滑り込んだアクセラは、素早くリアタイヤとリアバンパーのテープ補強をし、ドライバーを変えずに何事もなくピットアウト。取り外されたタイヤを見ると片方がバーストしていました。しかしその後は、大きなトラブルやアクシデントにも遭遇せず、クラス7番手を維持。あと1つ順位を上げれば初のポイント獲得です。

初優勝に向けて快走を続けるデミオ37号車。ドライバーとチーム監督を兼任している野上敏彦選手は戦況をじっと見つめる
初優勝に向けて快走を続けるデミオ37号車。ドライバーとチーム監督を兼任している野上敏彦選手は戦況をじっと見つめる

一方のデミオ37号車は、順調にトップで周回を重ね2位以下を引き離しつつありました。ダンロップコーナーの立ち上がりから右コーナーまでアプローチを見ていると、立ち上がりの力強いトルクで上位クラス(ST-4)のトヨタ86と遜色ないスピードで駆け抜けています。それでいて燃費に優れるディーゼルなので、2位以下から大きなアドバンテージを築いていました。

■そしていよいよチェッカー!

3時間経過時のセーフティーカー導入後は大きなアクシデントもなく、刻々と10時間のゴールに向けてレースは進んでいきました。終盤になると、コースのレコードライン外はタイヤカスで一杯に。TEAM NOPROの2台は、ディーゼル特有の“すす”で黒っぽくなっていたものの、順調に周回数を重ねていきました。

デミオの“すす“は、パワーを出すため、燃調を濃くしたことよって出やすくなっているとのこと
デミオの“すす“は、パワーを出すため、燃調を濃くしたことよって出やすくなっているとのこと

デミオ37号車は順調にトップで周回を重ね、いよいよゴールの10時間が迫ってきました。ピットでは、チームクルー・関係者が無事を祈ってコースを映すモニターを見つめています。そしていよいよファイナルラップとなった瞬間、チーム全員がゴールの瞬間を見届けるため、プラットフォームに集まりました。

2台の結果を見守るため、モニターを見つめるスタッフたち。最後まで気を抜くことはできない
2台の結果を見守るため、モニターを見つめるスタッフたち。最後まで気を抜くことはできない
そしてチェッカー! 17号車の後ろに37号車が隠れている
そしてチェッカー! 17号車の後ろに37号車が隠れている

そしてついに37号車のサインボードに「P1(ポジション1)」を掲げて、TEAM NOPROの2台は無事に10時間のチェッカーを受けました。デミオ37号車は、念願のシーズン初優勝! アクセラ17号車はクラス7番手で惜しくも入賞とはなりませんでしたが、ほぼトラブルフリーで完走しました。

2日間TEAM NOPROに密着し、富士10時間レースの激闘を目の当たりしましたが、気を張りつめた10時間はそう体験できるものではありません。2台の赤いマシンが目の前を通り過ぎた瞬間は、思わず「ホッ」としてしまいました。来年は24時間レースを予定しているそうです。一体どんな戦いになるのでしょうか? 今から楽しみで仕方ありません!

<最終結果>

表彰式後に2台のマシンとチーム全員で記念撮影!
表彰式後に2台のマシンとチーム全員で記念撮影!

■ST-3クラス
17号車:DXLアラゴスタNOPROアクセラSKY-D(谷川達也/野上達也/野上敏彦 組)
クラス7位、周回数275周、平均速度125.242km/h、ベストラップ2分3秒629(谷川選手)

■ST-5クラス37号車
DXLアラゴスタNOPROデミオSKY-D(関豊/梅田剛/井尻薫 組)
クラス1位、周回数271周、平均速度123.420km/h、ベストラップ2分6秒408(梅田選手)

(取材・文・写真:クリハラジュン 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

関連リンク