日本の道交法を変えたい――和歌山の自動車メーカー・電動ハイブリッドバイクの「glafit」(グラフィット)が考える未来

国内クラウドファンディングにおける資金調達で最高記録を叩き出した、話題沸騰中の電動ハイブリッドバイク「glafitバイク」。

なぜクラウドファンディングでそこまでの金額を調達できたのか。ほかのバイクと何が違うのか。

同製品を企画・販売するglafit株式会社(和歌山県和歌山市)CEOの鳴海禎造氏に話を聞くと、「日本を代表する次世代乗り物メーカーを目指す」「日本の道交法を変えたい」という発言が飛び出してきた。その真意に迫る。

見た目は自転車、中身は電動バイク。ありそうでなかった次世代モビリティ

「glafit(グラフィット)バイク」は、折り畳み式の電動ハイブリッドバイクだ。後輪に搭載したモーターで走る「電動バイクモード」のほか、ペダルを漕いで走る「自転車モード」、ペダルを漕ぎつつモーター駆動もする「ハイブリッドモード」の3つの走行モードがある。重さ約18kg。1回の充電で約40kmを走行できる。定価は約15万円。

同製品は、製造資金をクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で先行予約販売をメインに調達した。

▼自転車+バイク=glafitバイク スマートな折り畳み式電動ハイブリッドバイク(Makuake)
https://www.makuake.com/project/glafit/

集めた支援額は、国内クラウドファンディング最高額となる1億2,800万4,810円。クラウドファンディングで行われた先行予約台数は1,000台だ。

「当初の目標金額は300万円だったのですが、予想をはるかに超える多くの方にご支援いただけたおかげで、これだけの支援金を集めることができました。ありがたいことです」

プロジェクトの達成率は4,266%、リターンの購入者は1,284人。なぜこれほどたくさんの人がこのプロジェクトを支援したのだろうか。

「それだけ世の中の潜在ニーズにマッチした商品だったということだと思います。サイズ的には自転車なので、駐輪場程度のスペースがあれば停めることが可能ですし、折り畳みもできるので、glafitバイクで移動した先からクルマや電車など別の移動手段に乗り替えることもできます。具体的には、飲み会にglafitバイクで向かって、帰りは折りたたんでタクシーに載せて帰ってくることなどが可能です。『バイクだと代行が呼べないのでアルコールが楽しめなかったが、これなら帰りはタクシーに積める』という声をいただきました」

工具不要でコンパクトに折りたため、セダン型タクシーのトランクや、軽自動車の荷室にも収納できる。折りたたみ時のサイズは、全長71cm×全幅39.5cm×全高62cmだ。

日本の道交法を変えたい

glafitバイクは、道路交通法(道交法)上は原動機付自転車の区分となり、運転免許証の携帯とヘルメットの着用が必要だ。ウインカーやブレーキランプ、ディスクブレーキなどを装備し、ナンバープレートをつけて車道を走行する。

「『原動機付自転車』って、日本独自の区分なんですよね。日本は自動車産業が活発なのに、道交法上その仕様は独特で、日本の市場は世界から見てガラパゴス化しています。画期的なアイデアを思いついても、実際に作ろうとすると『これって道交法上どこに区分されるんだろう』『安全上は問題ないけど、法律上NGだから日本の公道は走れないな』なんてことも少なくない。glafitバイクは、もちろん現在の道交法上完全に合法です。でも、新しいモビリティの企画をしていると、道交法上の制約が日本のモビリティの進化を妨げているんじゃないかと思うときもあります」

鳴海氏は「日本は道交法を変える必要があるのでは」と話す。具体的にはどう変えればいいのだろうか。

「例えば近年『自転車は車道を走るべきか、歩道を走るべきか』という議論がありますよね。僕は、歩道の法定速度を決めればいいと思っているんです。そうしたら、キックボードやセグウェイのような『スポーツ玩具』の延長にあるもの、セニアカーや車いす、ベビーカーなどの『パーソナルモビリティ』、自転車(電動アシスト自転車含む)のような軽車両、すべてが速度制限付きで歩道を走行できます。歩道の制限速度以上の速度を出したいのであれば、車道に移動してから速度を出す、というように運用すればいいのではないかと」

少子高齢化が進む日本では将来、自分でクルマを運転できない交通弱者の存在が危ぶまれている。例えば、同じルートをぐるぐる廻る無人運転コミュニティバスがあったとしても、高齢者や障がい者がバス停などまでどうやって移動するのかがポイントになる。

鳴海氏の構想が実現されれば、現在日本で公道を走行することができないパーソナルモビリティの走行が可能となる。パーソナルモビリティに乗ってバス停まで移動し、車椅子でバスや電車に乗るのと同じように、パーソナルモビリティと一緒に無人のバスに乗ることも考えられるだろう。

「まずは、いずれかの場所で道交法の特区構想が実現できないかを練りたいですね。日本で唯一、セグウェイで公道走行が可能な茨城県つくば市のように。ほかにも、画期的な技術革新があった際に『法律で決まっているからダメ』ではなく、『法律の改正の余地があるか議論しよう』となるような柔軟な対応が必要だと思います」

地元・和歌山に工場と研究所を

漫画『頭文字D』を読んでクルマが好きになり、S13シルビアや180SX、ロードスターなどを愛車にしてきたという鳴海氏。「トヨタやホンダのように、日本を代表する自動車メーカーになります」と話す。

「来年、再来年に出す新しいバイクの企画も進んでいます。そしてその先は、4輪自動車の開発に着手します。そのために、今は和歌山で研究所の開設を進めているところです」

EVオート三輪を製造する「日本エレクトライク」が「19年ぶりに誕生した16番目の国産車メーカー」として注目されたのが2015年のこと。Glafitが、それに続く国内17番目の自動車メーカーとして日本を代表する企業へと成長していくのか。今後に注目したい。

(取材・文:田島里奈/ノオト 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

取材協力

鳴海禎造(なるみ・ていぞう)
glafit株式会社(和歌山県和歌山市)CEO。36歳。10代で衣類やPCを扱う個人事業を始め、20歳で自動車関連ビジネスをスタート。25歳で株式会社FINE TRADING JAPANを設立。和歌山市のほか東京と中国に拠点を持ち、自動車関連部品の開発・製造・販売、自動車の輸出を手掛ける。2012年にglafitプロジェクトをスタート。
glafit公式サイト:http://glafit.com/