トミーカイラZZに搭載! テイジンが開発した世界初の樹脂製「ピラーレスフロントウィンドウ」
高機能繊維や複合成形材料などの研究・開発を行うテイジン(帝人株式会社)が、ポリカーボネート(以下:PC)樹脂製の「ピラーレスフロントウィンドウ」を開発。2017年6月28日(水)にポートメッセなごやで開催された「人とくるまのテクノロジー展2017」で、京都大学発のEVメーカー「GLM」が製造・販売するEVスポーツカー「トミーカイラZZ」に搭載し、発表しました。
樹脂製のフロントウィンドウが市販車に採用されるのは世界初。ドライバーにとって視界がグンと広がるこのピラーレスフロンドウィンドウ。その開発にはどういった経緯があったのでしょうか。
新しいハードコート技術により改正自動車保安基準に適合
自動車開発の永遠の課題のひとつに「軽量化」があります。その解決策のひとつが、パーツの樹脂化です。ボディパネルやサスペンションアームなどに樹脂製パーツが使われることはもちろん、ウィンドウガラスの代替素材としてPC樹脂を用いるケースも増えてきました。PC樹脂は、ガラスに比べて重量は1/2、耐衝撃性は200倍で、透明性や寸法安定性などに優れているため、注目されている素材です。
テイジンは日本で最初にPC樹脂を事業化し、その製法から透明性や強度に特徴があるため、広く自動車用部品として採用されてきました。そして2003年ごろからウィンドウガラスの代替となる樹脂窓(グレージング)の開発に着手。2007年に新幹線(N700系)の窓に、2009年12月には「レクサスLFA」のクォーターウィンドウとパーテーションウィンドウにと、国内外で採用されています。
しかし、PC樹脂製ウィンドウはガラス製に比べて耐摩耗性が低く、従来のPC樹脂製ウィンドウでは、より高い耐摩耗性が求められる2017年7月改正の自動車保安基準には適合しません。そこで今年3月、テイジンは「プラズマCVD法」と呼ばれる新しいハードコート技術を開発。改正された保安基準に適合するPC樹脂製ウィンドウを製造することが可能となりました。
同時に、衝突や横転時の衝撃を受け止めるAピラーもPC樹脂化してウィンドウと一体化にも成功。今年7月、保安基準の改正とともに、「世界初のピラーレスウィンドウ」としてトミーカイラZZに搭載しました。これにより、従来の「ガラス窓+Aピラー」の組み合わせに比べて、36%もの軽量化を実現しています。
- トミーカイラZZの運転席からの景色。ピラーレスウィンドウにより広くクリアな視界となっている
長年培ってきた技術とノウハウが結実
開発にはさまざまな挑戦があったそう。特にAピラーとフロントガラスの一体構造の設計にあたっては、試行錯誤が行われたようです。走行中の空気抵抗に耐えるため「ピラーレス偏肉厚構造設計」を採用。パーツ断面が「薄い部分」と「厚い部分」とが混在する偏肉厚成形であることが特徴で、CAEシミュレーション(コンピューターによるシミュレーション)が何度も繰り返されたそうです。
- 開発段階では、太くなるAピラーが課題だったそう。「偏肉厚成形」により透明なウィンドウフレームを実現した
ひとつのパーツの中で厚さが変わる「偏肉厚成形」はガラスでは不可能な技術。そこで「四軸平行制御超大型射出プレス成形技術」という技術を開発し、偏肉厚形状のパーツの製造を可能としました。透視ゆがみ(視界のゆがみ)の大幅な低減も実現しています。
耐久性(耐摩耗性・耐候性)については、「プラズマCVD法」と呼ばれる特殊な技術によりドライハードコート膜をコーティングできるパイロット設備を開発・導入し、改正された保安基準に対応可能な耐摩耗性と、従来対比で約2倍の耐候性を実現しました。
また、テイジンならではの技術・ノウハウが生かされる点も。従来のウィンドウガラスにはUV(紫外線)やIR(赤外線)をカットする機能を、あとから付与する必要がありましたが、テイジンの「高機能コンパウンド技術」により、樹脂自体にUV・IRカット機能を付与することができるため、この点は成形するだけでクリアすることができたそうです。
新しいドライビング体験を
ピラーがなくなると、視野が広がる。外側から見るとちょっとしたことかもしれませんが、ドライバーにとっては、視界が広がり安全かつ、とっても爽快なドライビングが適い、バイクに乗っているような解放感が味わえます。これから従来のガラスでは不可能だった、新しいドライビング体験が始まるのではないでしょうか?
(取材・文:別役ちひろ、編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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