ラリーカメラマンのお仕事 in タイランド ~街から街へと旅する毎日~

現在、トヨタが挑戦しているWRC(世界ラリー選手権:World Rally Championship)をはじめ、世界中で行われている自動車競技が「ラリー」です。サーキットでのレースとは違い、一般公道を舞台にしたスプリント色が強いものから、大自然を相手にした冒険色が強いものまでさまざまな形があり、レギュレーションも内容も多種多様。広い意味では、南米を舞台に国境をまたぎ、1万km近くも走りぬく「ダカールラリー」なども同じラリーの一種です。

今回はそんなラリーカーを追いかけ、取材を行うカメラマンの珍道中をご紹介します。舞台はタイを起点に周辺諸国で行われるアジアクロスカントリーラリーです。タイは、日本と同じように右ハンドル、左側通行で比較日本人には馴染みやすい交通環境です。レンタカーでの移動も可能なので、ガイドブックには載っていない旅の楽しみのヒントにしてはいかがでしょう。

街から街へ旅するカメラマンの朝は早い

ラリーカメラマンの仕事の朝は非常に早いもの。何しろこれからスタートするラリーカーより先に、安全にコース上でスタンバイするわけですから、夜明け前から準備が始まることもしばしば。アジアクロスカントリーラリーの場合、メディア用のクルマとドライバーは現地の方にお願いします。車種はランドクルーザーやパジェロ、チェロキーあたりが多く、競技に参加するラリーカーやサポートカー同様開催中はゼッケンを付け活動します。ちなみに夜にはもう違う街に泊まるので、暗い中、毎日毎日スーツケースなどすべての荷物をクルマに積み込みます。実はこれが結構つらいんです。

コース付近に着いても、必ずしもクルマを安全に停められる場所があるとは限りません。そういうときは、ひたすら歩きます。炎天下のジャングルも雨の林もひたすら歩きます。もちろん下見などありませんから、最初の1台がスタートする前に、どこか良いポイントが見つけるまでひたすら歩き続けるのです。

「ここに岩があるから危険だよ!」とか、「ここは急カーブで外側が土手になっているから気をつけてね!」とか、道案内とともにコース状況を選手に伝えるのが「ロードブック」。毎日、走行前日に手渡されるこいつが撮影ポイントを探す唯一の手がかりです。

場所さえ決まれば、あとはラリーカーを待ち、撮影するだけです。コース上でスタック車両が道をふさぐなど、何らかトラブルでラリーカーがなかなか来ないこともありますが、そんなときはサッサと諦めすでに通過したトップグループの車両を追いかけて次のポイントへ向かうか、ここで粘るか、という究極の二者選択を迫られます。ラリーカーがダイナミックに川を渡るシーンを待っていたらこんなことも……。

大地と川の恵みを全身で感じながら撮影します

撮影機材には注意を払っているつもりですが、たまに想定外のスピードやラインで突っ込んでくるラリーカーがあると、カメラもカメラマンも厳しい状況に至ってしまうこともあります。撮りたかったオレンジのマシンの姿は、向かってきた大量の水しぶきに阻まれ写せませんでした(泣)。もちろん、ドライ路面でマシンの跳ね上げる赤土を頭からかぶるのは、日常茶飯事です。

撮影の合間にはローカルフード三昧の楽しい食事

さて、過酷な仕事の中での楽しみはやっぱり食事です。次のポイントへ向かう途中、ロードサイドの食堂で食べたり屋台で弁当を買ったり、そんな時間は結構楽しいもの。タイの田舎道は舗装率が高く、ポイント間の移動はそれほど苦ではありませんし、食事もタイ特有の辛いものばかりではありませんので、辛いものが苦手な人でも大丈夫です。

日本人にとって麺類は身近な食べ物ですし、味自体も多くの人にとって抵抗はないと思います。トッピングも比較的自由です。多くの場合、タイ語しか通じず、指差しでお願いすることになりますが、まぁそれも旅の醍醐味でしょう。

ただし厨房がご覧のような感じですから、みんなでつつく鍋料理が苦手な人や、ほかの人と共用する電車の吊革が握れないタイプの方には、少々ハードルの高い環境かもしれません。もっとも、食事以前にそもそもそういう人が来る環境ではないとは思いますが……。

以前、空腹にあえぐ我々に、食堂でもないのにインスタントラーメンをほぐして野菜と卵を加え味付けして提供してくれた商店もありました。長くこの仕事に携わっているといろいろとあるものですが、振り返ってみると筆者自身は今までタイの田舎町で不快な思いをしたことはありません。もしかしたら筆者は、ラリーが好きなのではなく、東南アジアで過ごす時間が好きなのかもしれないと思うくらい、快適な日々です。

時間のないときは、お弁当を買ってコースサイドでクルマを待ちながら食べます。日本と同じお米の国ですから、ここでも違和感はありません。もちろん米の種類は違うので味も違いますが、日本より粘りが少ない現地のご飯は、暑い東南アジアの環境で食べるとむしろこちらの方が合っているような気もします。普通においしいですよ。

コース上にどこからともなく現れたアイスクリーム屋さん。10種の中からドリアン味を選びましたが、その味はもう完全にドリアンそのもの。日本のアイスなら多少食べやすいよう調整されていますが、ここでは総じて素材そのものの味が強い傾向がありますので、その素材が苦手な人が「アイスなら」とチャレンジすると結構きつい場合もありますのでご注意あれ。

仕事が終わったらカフェでひと休み

さて、撮影がひと通り終わったら、給油のためガソリンスタンドに立ち寄ります。タイでは多くの場合、広い敷地にカフェとコンビニエンスストアが併設されています。写真のガソリンスタンド「Ptt」(タイ石油公社)というスタンドの場合、「Cafe Amazon」と「セブンイレブン」の組み合わせが圧倒的に多いようです。というか、その組み合せ以外に見たことありません(ちなみにこのカフェの親会社がPttとのことなので当たり前といえば当たり前)。ここでちょっとだけ都会の暮らしに戻った気分を味わい、コンビニで今日の夜のデータ作成作業に備えた夜食を買って、今夜の宿に戻ります。

宿に着いたらシャワーを浴びて、コンビニのレンジで温めた冷凍食品をつまみながらさっそくその日のデータ処理を行います(ちなみに宿の食事もちゃんとありますが夜中にまたお腹がすいてしまいます)。デイリーレポート用の写真を作成したり、翌日の新聞用に日本に写真を送信したりして1日の作業を終了し就寝となりますが、また翌日の朝から同じ生活が繰り返されます。

タイですごすこんな時間、あなたはいかがでしょうか? ラリー取材とまではいかなくても、旅の途中でこんな地元密着型のエッセンスを加えてみるのと楽しいと思います。

もちろんラリー取材同様、自己責任で。個人的には仕事とはいえ楽しい時間を過ごしているのですが、ひとつだけご注意を。タイでクルマを運転するなら、バンコクは避けた方が無難だと思います。東京在住で都市部の運転には慣れているつもりの筆者でも、バンコクでの運転は正直言ってイヤです。相当ハードルが高いと感じていますので、そのあたりは頭の片隅に置いておいていただけると幸いです。

(取材・文・写真:高橋学、編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]