発売は2年先! 「夢のエンジン」を積んだマツダの試作車に乗った

「次世代技術を搭載した試作車に乗ってみませんか?」

そんなお誘いを受け、山口県美祢市にあるマツダのテストコース、美祢自動車試験場に出かけてきました。ちなみにこの美祢自動車試験場は、かつてMINEサーキットと呼ばれた場所。2006年にサーキットとしての営業を終了したのちにマツダが取得し、大規模改修を行って市販車開発のテストコースとして活用しています。開発中の極秘車両を走らせる場所なので普段は関係者以外立ち入り禁止ですが、今回は特別に入れていただきました。

世界で初めて市販化が見込まれる「圧縮着火ガソリンエンジン」

そこでボクを待っていたのは、世界で初めての市販化を見込んでいる圧縮着火ガソリンエンジン「SKYACTIV-X(スカイアクティブ-X)」を搭載した開発車両。圧縮着火というのは、通常のガソリンエンジンのようなスパークプラグによる点火ではなく、ディーゼルエンジンのようにエンジン内で燃料と混ざった空気を圧縮することで爆発させる燃焼方式のこと。

出力特性に優れて燃費がいいなど、効率面で優れた仕組みだということはわかっていたのですが、燃焼の難しさや異常燃焼による振動、騒音などの弊害があり、これまでどのメーカーも研究開発はしていたものの、市販化には至らず「夢のエンジン」といわれてきました。しかしマツダは、世界の自動車メーカーに先駆け、それを市販車に搭載する目処がたったというのです。これってすごいことですよね。

圧縮着火エンジンを市販車に搭載するのは、2019年を予定しているとか。つまり今回試乗したのは、少なくとも1年以上先(どうやら約2年先の模様)に市販する車両の先行開発車両ということ。開発の人に教えていただいたのですが、開発している圧縮着火エンジンが実際に試作車両に搭載してからわずか2カ月しか経っていない、まさに「できたて」の状態だそう。そんな車両に乗せていただけるなんて感激です。

もちろん開発車両だけに、万が一のトラブルは許されません。開発スケジュールに遅れが出てしまいますから。そんな貴重な車両に乗れる機会を用意してくれたことに感謝だし、いち早く圧縮着火エンジンの体感をしてもらおうという、マツダの想いがひしひしと伝わってきます。

さて、走りはどうか?

乗ってみてなにより驚いたのは、発売は2年近く先、世界でどの自動車メーカーも市販化できなかった難しいエンジン、そしてまったく新しい機構かつ車両に搭載されてから2ヵ月ほどしか経っていない、という「何が起きてもおかしくない状態」のエンジンながら、気難しいことはなく普通に運転できてしまったこと。ここだけの話、まだ生まれたての技術だから、もっと素直ではなくわがままで扱いにくい部分があると予想していましたが、それは思い過ごしだったようです。

圧縮着火ガソリンエンジンのメリットは、ガソリンエンジンならではの気持ちいい高回転の伸びと、ディーゼルエンジンの特徴である太いトルクや燃費の良さの両方を兼ね備えていること。たしかに乗ってみると、低回転域のトルクが太く、それでいて高回転までしっかり回る特性を持っていて、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンをミックスしたような感覚です。

ディーゼルエンジンほどのトルクの太さは感じませんでしたが、排気量アップしてトルクが太くなったガソリンエンジンのような乗り味でした。実際のエンジン排気量は2.0Lですが、最大トルクは230Nmと、これまでのガソリンエンジンより15%ほど太いトルクを出していますね。

包み隠さずに言うと、エンジンは文句なしに完成されたフィーリングというわけではなく、ときにはノッキング(異常燃焼)のようなカラカラとした音が生じることもありましたし、ギクシャク感も時折顔を出しました。SKYACTIV-Xはスパークプラグを備えていて、圧縮着火のきっかけとして火花点火を行う(点火をきっかけに空気が圧縮されて爆発する)ほか、状況により圧縮点火と火花点火と切り替えます。現時点ではその切り替え時などにギクシャクした燃焼を行うことがあるそうですが、今後は市販化に向けてそういった部分をスムーズに燃焼するように制御を煮詰めていくわけですね。

ボクらが購入できる市販車は、いわば学校を卒業してひと通りの能力が備わった社会人のようなものです。対して今回のSKYACTIV-Xは、これから教育が始まる生まれたての赤ちゃんのようなもの。普段は接することのできない、赤ちゃんのようなエンジンに接することができるなんて貴重な体験でした。およそ2年後の市販時までにどこまで完成されてくるのか、とても楽しみになってきますよね。きっと、とてもスムーズで快適になっていることでしょう。

試乗車両の車体はなんと、2019年発売の次期アクセラだった

世界初の市販化見込み、ということでエンジンの話が中心になってしまいましたが、実は車体も凄いことになっていました。

見た目は現在販売されているアクセラですが、なんと中身は、2019年にデビューする次期型アクセラ用に新設計した車体だったのです。ボディを固めるだけではなく減衰を盛り込むなど、設計には新発想がてんこ盛りで、タイヤも従来の発想を覆す「側面が柔らかい設計」として挙動の理想を追求するなど、見どころがたくさんありました。これについては、書きはじめるとあっという間に文字が増えてしまいそうなので、また次の機会に紹介しますね。

それにしても、マツダは面白い会社ですね。発売は2年近く先という極秘の開発車両に試乗させてくれるのですから。こういうの、ほかの自動車メーカーではちょっとありませんよ。そして、ひとりのクルマ好きとして(クールな表情をしつつ)貴重な体験に大興奮だったことはここだけの内緒です。

(文:工藤貴宏 編集:木谷宗義+ノオト)

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