ハイラックスの兄弟車、トヨタ・IMVシリーズ「フォーチュナー」と「イノーバ」とは?
今年の9月、トヨタ自動車から最新のピックアップトラック「ハイラックス」の国内販売が開始されました。巷にあふれるその紹介記事でよく目にするのが、「トヨタ自動車が新興国向けに車体構造を共有しながら複数のボディタイプの車種を展開するプロジェクトが“IMVプロジェクト”であり、その一角を担っているのが今回発売されたハイラックスである」というもの。
たしかにハイラックスは、IMVシリーズの中核を担う1台です。しかし、シリーズというからには当然、別のモデルも存在しています。そこで今回は、日本には導入されていないIMVシリーズ各モデルと、その活躍をご紹介します。
※記事中のモデルラインナップ、仕様等はすべてタイ国内のものです。
SUVの「フォーチュナー」
トヨタのIMVシリーズは、共通化された高剛性フレーム構造を採用したピックアップトラック、SUV、そしてミニバンをラインナップしています。ピックアップトラックは、今年国内でも発売を開始した「ハイラックス」。そしてSUVが国内未導入の「フォーチュナー」です。
- IMVシリーズのSUV「フォーチュナー」
ハイラックスの国内発売が決定した際に「復活」という表現がアチコチで使われました。ハイラックスが国内販売を終了して10年以上経過した今、既存のピックアップトラックユーザーにとっては、代替え候補となり得る待望の1台でしょう。
一方で、かつて我が国で大ブレイクし、街の風景を賑わした「ハイラックス」といえば、ピックアップトラックよりも、共通のプラットフォームを持つSUV「ハイラックスサーフ」の方。そういった意味では、あの大ヒットモデルの末裔にして最新のモデルは、フォーチュナーといえるのかもしれません。
- 過酷なクロスカントリーラリーへの参戦は強靭なフレーム構造のフォーチュナーならでは。
もっとも同じシリーズといっても、フォーチュナーはシャープな目つきのフロントフェイスを筆頭に、各部のデザインを見てもピックアップトラックの現行ハイラックスとの共通性を感じる部分は多くありません。IMVシリーズの各モデルは、車体構造を共通化しながらもそれぞれのカテゴリーにフィットした外観が与えられているようです。
- ランドクルーザー60や80とともにラリー関係者の移動の足として活躍するフォーチュナー。
このフォーチュナーは2WD/4WDのディーゼルターボモデルと、2WDのガソリンモデルが用意され、ATのみの設定。リアには、4リンク&コイルサスペンションやディスクブレーキを備えています。また生産は、今年から日本に導入されるハイラックスと同じタイのほか、インドネシア、ベトナムなど数カ国で行われています。
- タイでは荷台にキャノピーを装着して使われることも多く、2列シートのWキャブなら、ピックアップトラックでもSUV的な使い方ができる。
ミニバンの「イノーバ」
IMVシリーズのミニバンモデルが「イノーバ」です。こちらはインドネシアやマレーシアのほか、数カ国で生産されているモデルで、3列シートを備え2.8Lディーゼルターボを搭載したミニバンです(2.0Lガソリンモデルも1グレードのみ設定)。
- IMVシリーズのミニバン「イノーバ」(タイ名:イノーバ・クリスタ)
ちなみにタイでは「イノーバ・クリスタ」とサブネームがついた名前で販売されています。ハイラックスも先代モデルは「ハイラックス・ヴィーゴ」、現行モデルは「ハイラックス・レボ」、IMVシリーズではありませんが、カローラも「カローラ・アルティス」となるなど、タイはサブネームをつけて販売されているモデルが多いのも特徴です。
タイの街の風景を見る限りでは、まだまだ多人数乗車モデルはハイエースなどのワンボックスタイプが主流に思えますが、これからのライフスタイルの変化を考えれば、今の我が国がそうであるように、ミニバンが街の風景を賑わす日がくるのかもしれません。
- 2017年のアジアクロスカントリーラリーでは、車椅子で参戦する青木拓磨選手のサポートカーとして助手席回転スライドシート仕様のイノーバが使われた。日本の福祉車両のノウハウが投入され、現地で生産されている。
IMVシリーズが必要とされる理由は?
車体全体で剛性を保持したり衝突時の衝撃吸収をしたりするモノコックボディは、運動性能や燃費にも効く軽量化がしやすく、時代のニーズに合った構造ですが、一方で車体の一部に強い衝撃が加わったり絶え間なく振動し続ける不整地路面での走行が続いたりすると、車体全体でその影響を受けやすいというデメリットもあります。
もちろん、インフラの整備が行き届き道路の舗装率も高い先進諸国で何ら問題がないのは、日本をはじめそれらの地域の乗用車のほとんどがモノコックボディの車である事を見れば明らかです。
しかし、地球規模で見ればまだまだ過酷なオフロードも多く、そうした地域では強靭なフレーム構造を持つクルマのニーズは、まだまだ高いもの。そのニーズに応えるべく3種ものボディバリエーションをラインナップして販売されているのが、IMVシリーズなのです。
- トヨタIMVシリーズ最初の1台、「ハイラックス・ヴィーゴ」(写真左)は日本未導入。次のモデルとなる「ハイラックス・レボ」(写真右)で日本導入を果たした。
- 商用にはシングルキャブタイプが多く架装を前提とした荷台のないタイプもラインナップされている。後方は先代モデル。
日本の交通事情や法規を考えれば、オーバースペックと思えるような最高速や加速力など速さを備え持つスポーツカーが独自の魅力を備えるように、道無き道を走り抜く強さやたくましさを備えたクルマもスポーツカーとは違う、ワイルドな魅力を放っているように感じます。
- 過酷なラリーで活躍する地元タイチームのハイラックス・レボはスマートキャブ(エクストラキャブ)と呼ばれる2座ながら座席後方が広いタイプ。
- 地元のTRDチームが今年のアジアクロスカントリーラリー参戦のため選択したのは2列シートのダブルキャブ。右はTRDパーツを装着したコンプリートカー「TRD Sportivo」
- デコボコ道やヌタヌタの泥道、時には川をも走破する過酷なラリーに耐える強靭さを備えたモデルは、その「強さ」というイメージも魅力的のひとつだ。
世界中の道で鍛えられたさまざまなタイプのクルマを我々日本のユーザーが選べ、自分に合ったライフスタイルを楽しむ。そんな時代の突破口を切り開くのが、実はハイラックス復活の最大のテーマなのかもしれません。もちろん日本でもランドクルーザーという横綱級のフレーム構造を持つ陸の王者が生産・販売されていますが、もう少しライトな大関や関脇級でありながら力強い構造を持つモデルも選べると車選びの幅が広がり、さらに楽しくなりそうです。
(取材・文・写真、高橋学、編集:木谷宗義+ノオト)
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