中山間地域が抱える課題に「コムス」で取り組む【上山集楽みんなのモビリティプロジェクト】

岡山市内からクルマで約1時間の場所に、美作(みまさか)市上山はある。平野部と山間部の間のエリア、中山間地域にある集落だ。風光明媚な土地ではあるが、かつて約1000人いた人口が今は約160人にまで減ってしまった、いわゆる“限界集落”である。

人口減少による問題は、全国の中山間地域で共通する。そこで、持続可能な形で解決しようとする試みとして、2016年2月からトヨタ・モビリティ基金の助成により超小型電気自動車「コムス」が上山を走り始めた。その名も「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」である。

このプロジェクトを行っているのは、「NPO法人 英田上山棚田団」と「NPO法人みんなの集落研究所」。2010年より同市が実施した「地域おこし協力隊」などで上山エリアに移住してきた18世帯・37人が所属し、1970年代には8300枚あった棚田再生を行うほか、年間を通しての稲作事業だけに留まらず、古民家再生、夏祭りなどの地域文化の継承、子ども主体のキャンプなど環境教育などを展開している団体だ。

なぜ、上山にコムスを導入したのか?

上山地区の道路幅は狭く、起伏が大きい。大きなクルマだと走りづらいし、きれいな空気を汚したくない。コムスを導入した理由について、同NPOの梅谷真慈さんは「利便性や環境性だけでなく、100年後も若い世代が暮らし続けられる上山を作るため」と語る。コムスが解決する上山エリアの課題は、「日常生活」「農業」「観光」の3つだ。

「日常生活」の課題は、高齢化した地域の人たちにとっての買い物、通院、通学だ。全15台が導入されるコムスのうち、10台は地域の人たちが無料で使用している。

「NPO法人 英田上山棚田団」では、「上山サロン」「上山がこうなったらいいねの会」など、集落の人たちが語り合えるイベントを開催し、生の声を聞き、暮らしの困りごとをみんなで支え合う「助け英田・しちゃろう会」を結成。ここから、サービスの内容が作られたという。なおこの会では、移動のこと以外にも、ゴミ出しや電球交換から墓掃除、家庭教師まで依頼し合える。サービスを受ける際には、地域通貨「百助」を支払うルールだ。また、どの年代も情報共有ができる「英田上山新聞」の発行も行なっている。

新しく、コムスを使った「コミュニティナース」もスタートした。これは看護師免許を持ったスタッフが、予防医療としてエリア住民を巡回するサービスだ。高齢者が多い地域のため、病気の早期発見を実現すると同時に、医療費の削減にもつながっている。「いつまでも元気でいられるための暮らし作り」「病気の予防」を地域に入って行う。

「観光」については、コムスに乗って上山棚田を観光できるルートを作成している。樹木に覆われていた古民家を再生し、棚田を眺めながらコーヒーが飲める「いちょう庵」(土曜営業)、秋から冬にかけては雲海が見られることもある「ヘリポート・展望台」、棚田に水を供給する大芦池、天平年間(729年〜749年)に鎮座されたといわれる上山神社などを巡るルートだ。水を張り、空を映す棚田、苗を植え青々とした棚田、穂を垂れて黄金に光る棚田、ハゼ掛けが整列した棚田。季節ごとの棚田の景色を楽しむことができる。

料金は30分コース=540円、60分コース=1,080円、90分コース=1,620円、120分コース2,160円、120分コース(ガイド付き)=5,400円で、木・金・土・日曜日の10時〜16時に利用可能。またガイドツアーは、第4土・日曜日の10時〜12時と13時〜15時に行っている。予約受付は、「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」雲海オフィスまで(080-2929-8285)。

上山エリアで実証しようとしているのは、モビリティをコミュニティの解決ツールとして使用し、持続可能な形で100年後も続く集落のあり方であることがわかった。

(取材・文・写真:松原龍之 編集:木谷宗義+ノオト)